2019年に設立されたデータサイエンス・スタートアップスタジオ「株式会社DATAFLUCT」。機械学習と外部データを活用し、最新の予測モデルでサプライチェーンを最適化する「Perswell(パースウェル)」をはじめ、画期的なサービスやアイデアを創出し続けている。代表取締役CEOの久米村隼人氏に、起業のきっかけや今後の展望をうかがった。
起業家の旅「副業DXコンサルの成功をきっかけに経営者へ」
ーー社長のご経歴や起業された経緯をお聞かせください。
久米村隼人:
もともと前職では新規事業をつくるポジションを担い、DXやスタートアップとのコラボレーションを多数経験する中で、自分自身でいろいろやってみたい気持ちが強くなり、起業を考えるようになりました。
いきなりスタートアップを新設したのではなく、最初は1人で動いていたところ、さまざまな会社から相談が来るようになり、起業した瞬間に黒字になりました。利益を自分のやりたいことに投資するという発想で、さまざまなプロジェクトに関わり、「衛星データから不動産の価値を把握できるのではないか」「データサイエンスで食品ロス問題を解決できないか」といったことを考える中で「DATAFLUCT」が生まれたのです。
私は、産業ごとに抱えている課題があるものの、意思決定にデータを使用する企業が意外に少ない点に着目しました。DATAFLUCTの最初のプロダクトである、気象・人流データなどを活用した店舗支援AIサービス『DATAFLUCT foodloss.(現在は「Fresus」)』の運用は、食品商社に「バリューチェーンを見直せばフードロスを削減できますよ」と提案してデータをいただいたことがきっかけです。
ーーどのように事業を確立していかれたのでしょうか。
久米村隼人:
事業初年度には、数名に業務委託をしながら、幅広いテーマに1つずつチャレンジしていったのですが、サービスをローンチしたタイミングで新型コロナウイルスの感染が拡大してしまいました。
それまでの取り組みがすべて失敗して、リベンジを繰り返していくうちに企業のデータ活用DX支援がメインの事業となった次第です。その後、取引先から「事業規模を拡大してほしい」とご要望があり、社員を抱えるようになりました。
データサイエンスベンチャー企業としての強みと独自性
ーー貴社の強みや他社との違いをお教えください。
久米村隼人:
他社とは圧倒的な「仕組みの違い」があります。弊社のビジネスモデルは、アルゴリズムとデータ基盤をセットでお客様に導入していただき、長期契約を結ぶというものです。
AIベンチャーの多くは「AIモデルをつくる・研究開発する」といった知財で勝負をしていますが、弊社は他社の知財・技術を使用することもあります。
数パターンの仕組みを用意できる点は、まさに強みだと言えるでしょう。「継続的な関係性」という出口は他社も同じですが、コンセプトに違いがあります。たとえば、AI研究者が企業のニーズに応えてAIモデルのライセンスをつくるのが一般的なストーリーだとすると弊社は真逆で、DATAFLUCTは顧客企業の事業環境や課題を深く理解して、ニーズを先読みしてソリューションやアルゴリズムを提案していくのです。
ーー独自プラットフォームも特徴的です。
久米村隼人:
データ分析は現在は主に広告の最適化に使われているのですが、今後はおそらく自然言語処理や画像処理に活用される時代がやってくると思います。弊社の『AirLake(エアーレイク)』はそこへ焦点を当て、動画・画像・音声などの非構造化データを簡単に変換・利用可能にするものとなっています。
また、近年の脱炭素ブームに合わせてリリースした『becoz(ビコーズ)』は、生活者のCO2排出量を可視化するものです。計算ツールは増えた一方で、CO2削減のための行動変容を具体化する事業はないと思い始めました。
順番としては、誰かに相談される前に「時代に求められている」と私が感じて、それを実現できそうなプロを集めてくる流れです。利益が出るかどうかは別の話で、自分たちのやりたいことを企業に売り込むスタイルです。他社の真似ではないからこそユニークで、競争に巻き込まれることもない。そんな企業を目指しています。
今後の事業戦略とイノベーションを議論する
ーー販路開拓の方法についてもお話しいただけますか。
久米村隼人:
基本的には、イノベーター的思想を持っている「会社内のキーマン」に出会うことから始めます。弊社のファンになってくれるような、新しいことがしたくて一緒に会社を動かしてくれる人を探すことが一番のポイントです。企業が集うイベントに足を運ぶなど、発信を続けることで感度が高い人と出会うことができれば、そこから商談が生まれます。
ーー今後広げようとお考えの業界はございますか。
久米村隼人:
これまで大手企業のものであったDXを弊社の手によって「高品質・低価格化」できれば、中小・中堅企業にまで取引を広げることができ、世の中のイノベーションにもなると考えています。中でも、2024年問題がある物流業界とDXを結びつけることに注力していきたいと思っています。
求める人材は自ら仕事を見つけて自律的に動ける人
ーー貴社で活躍できるのはどのような人材でしょうか。
久米村隼人:
私たちはフルリモート労働における「自由と責任」を重視した会社であるため、自律的に動ける人を求めています。運転手がいるバスに乗り込むのではなく、「キックボードでもなんでもいいから全員に運転してほしい」という思いです。優秀かどうかは関係なく、自分で仕事を見つけて前進していける人が理想的です。
ーー若いビジネスパーソンへメッセージをお願いします。
久米村隼人:
私は世の中の知識を「知れば知るほど面白い」と思っていて、問題があれば解決したい欲求が湧いてきます。それが経営の原動力にもなっていますし、人生を楽しくしているので、若い方には「勉強は何よりも大切である」ということをお伝えしたいと思います。
編集後記
他社のビジネスモデルを後追いせず、時代の一歩先を見越したアイデアを打ち出し続ける株式会社DATAFLUCT。食品・製造・建築と多種多様な業界の大手企業からすでに厚い信頼を得ているベンチャーが、次に巻き込もうとしているのは中堅企業のフィールドだ。日本の企業全体に高度なデータサイエンスが浸透するサステナブルな未来に期待があふれる。
久米村隼人(くめむら・はやと)/ベネッセコーポレーション、マクロミル、リクルート、日本経済新聞社などに在籍し、データを活用する新規事業を創出。2018年にデータ活用・新規事業立ち上げを支援するFACTORIUMを設立、70以上のDXプロジェクトを支援。2019年にDATAFLUCTを設立、4年間で30以上のAIサービスをローンチ。大阪府立大学大学院工学研究科(数理工学専攻)修了。早稲田大学大学院商学研究科(夜間主MBA)修了。