少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や、育児や介護との両立など働く方のニーズの多様化に伴い、個々の事情に応じた働き方を実現する「働き方改革」が注目されている。
そんな中、就業・勤怠システムを提供し、従業員の健康と生産性向上のサポートをしているのが、勤次郎株式会社だ。
同社は就業・勤怠管理システム「勤次郎」をはじめとしたITサービスを提供しており、2021年には新製品の統合基幹システム「Universal勤次郎」をリリースしている。
いわゆる勤怠管理だけでなく、人事や従業員の心と体の健康といった、企業のHRに関わるさまざまな課題を解決しようと奮闘する、加村社長の思いを聞いた。
会社を引き継ぐために入社するも、一度退社した理由
ーー大学卒業後すぐには、お父様が代表を務める会社には入らなかったそうですが、このときはどのような思いで就職活動をしていたのでしょうか。
加村光造:
私が大学を卒業する頃に、当社では今の「勤次郎」システムの原型となる就業・勤怠管理ソフトができていました。私はいずれ父親の会社に入ろうと思っていたので、そのためにハードウェア開発を経験できる会社に就職しようと思い、システムサーバーとATMなどをつなぐ通信機器メーカーに入社しました。
それから5年間勤め、システム開発のノウハウを一通り学んだので、ちょうどいいタイミングだと思い、父親と話し合って当社(日通システム株式会社:旧社名)に入社することにしました。
ーー入社当時はどのような業務に携わっていたのですか。
加村光造:
前職と同じくハードウェアの開発をしていました。それから6〜7年経った頃、父親から経営者になるために、経営企画室で経験を積むよう言われました。
しかし、私はそれまで開発の仕事しか経験しておらず、営業の経験がなければ会社の経営はできないと考えていたため、その異動には納得していませんでした。そしてこのまま社長になっても社員を不幸にしてしまうと思い、転職を決意しました。また、将来事業を起こすためにも営業の仕事を自分自身が経験しておかないとだめだと考えました。
ーーそれから別の会社で営業の経験を積まれたのですか。
加村光造:
これまでの経験が活かせると思い、テレビ局向けの映像のハードウェアをつくっている会社に営業職として入社しました。
そこで任されたのが、これまで取引のない業界の見込み客を集める、いわゆるマーケット開発でした。それからはあらゆる業種の営業先リストを自分でつくって、とにかく一本一本電話をかけていきましたね。
すると、今でこそ当たり前のことですが、リアルタイムで映像を伝送でき、タイムラグなく離れた場所で映像のやり取りができる技術が画期的だと、ある建設会社の担当者が興味を持ってくださったのです。
この技術があれば噴火が起きている危険な現場での無人撮影ができるということで、外郭団体の協力も受けながら、新規プロジェクトの立ち上げに携わりました。
ーー転職した会社でビッグプロジェクトの立ち上げに携わってから、再度家業に戻られたのはなぜでしょうか。
加村光造:
もともとは転職後3年経ったら自分で事業を起こそうと考えていて、この会社で培ったノウハウを活かして独立しようと思っていました。
しかし、これからどうしようかと考えたときに、一度は辞めたけれどいろいろな経験を重ねたことで、自分なりに家業を発展させていきたいという想いが強くなり、ある程度やっていけるという自信もついたため、父親に頭を下げて当社に復帰しました。
ーー後継ぎとして楽な道を通るのではなく、あえて自ら過酷な環境に飛び込むという、泥臭い生き方と言いますか、実直な方なのですね。
加村光造:
会長も同じようなタイプですし、どうしても同じような人たちが集まるので、弊社の企業風土もそれに近いところはありますね。そのため、ビジネスの進め方も製品をつくるにしても、とにかく噓偽りなく、まじめに行っています。
社内改革と勤次郎株式会社の転換期について
ーー2015年に家業に戻り、その後、取締役に就任されてからはどのようなことに取り組まれたのでしょうか。
加村光造:
2020年に東証マザーズへ上場したのですが、IPOに向けて会社の収益を意識するようになりましたね。それまで取引先にシステムの導入支援をするなど、役務で稼いでいる部分がありました。そこで、売り切りのソフトウェアの販売からクラウドへの切り替えを進めました。
すると、ちょうど当社が上場するタイミングで一気にクラウドサービスが伸びてきて、さらに働き方改革が推進されたことも重なり、右肩上がりに収益が伸びていったのです。これは販売パートナー様の協力も大きいのですが、本当に運が良かったですね。
ーー働き方改革の影響に加え、人事評価制度システムを販売する企業として、自社の社内改革を進めてきたそうですね。
加村光造:
働く方のワーク・エンゲイジメントについては強く意識するようになりました。弊社が開発した健康管理アプリ「ヘルス×ライフ」を自社でも活用し、四半期に1回実施している従業員のストレスチェックや検診結果をもとに面談で個人の働き方についてフォローし、上長にもフィードバックしています。
さらに若手社員による「勤次郎元気プロジェクト」を発足し、健康増進施策を進めています。このプロジェクトでもアプリを活用し、本部対抗で1か月間の平均歩数を競うイベントや健康ポイントの付与などを実施しています。
また、リモートワークに対する抵抗感を払拭し、子育てや介護をしながらも働ける環境を整備するための、就業規則の見直しを行いました。
今後の展望
ーー今後の事業の展望について教えてください。
加村光造:
これまで蓄積してきた従業員や各業種・業界ごとの働き方に関するデータをもとに、AIを活用したレポートサービスやコンサルティングなどのクラウドサービスに事業を発展していければと思っています。
そのひとつとして、従業員の健康状態をAIが予測し、問題が見つかった際に知らせるアラート機能の製品化はすでに行っています。こうして従業員の不調を予測できれば、企業側は働き方の改善に役立てられますし、個人にとっても自分の心の状況を把握できるようになります。
また、会社の成長に必要な人的資本投資のためのデータを分析、予測することで、最適な採用や教育、配置を行い、ヒューマンリソースマネージメント(HRM)の分析やアドバイスを行うシステムの製品化に向け、研究開発をしている段階です。
ーー「Universal勤次郎」という新サービスもリリースされましたね。
加村光造:
はい、「Universal勤次郎」でいうと、業種によって求められる機能は異なるため、業種を意識して機能強化をしています。就業・勤怠だけでなく、その前段階のプロジェクト管理等の要素が求められることがあるので、業種を軸にした機能強化にも取り組んでいます。
ーー今後どんな会社を目指したいですか?
加村光造:
当社サービス誕生の背景には、ただクラウド製品を作ってサービス提供をするのではなく、「人」にも貢献できるようなサービスを提供したいという強い思いがあります。
雇う側と雇われる側、そのご家族の方、また、会社で働いていない時間でも、お役に立ちたいと思っているんです。
今後も、業種業態を問わず、あらゆる「人」に貢献する「礎」になるような会社であり続けたいと思っています。
この志とテーマは、当社のメンバーに対しても伝えていきたいですね。
編集後記
経営について教えようとした親の思いを振り切り、35歳で未経験だった営業畑に飛び込み、自らの力で営業スキルやマーケティングのノウハウを身に付けたという加村社長。寡黙な一面からは想像できないほど、仕事に対する熱い思いが感じられた。企業の働き方改革や健康経営をサポートする勤次郎株式会社は、現代の日本が抱える課題を解決するうえで大きな役割を果たすことだろう。
加村光造(かむら・こうぞう)/1973年2月生まれ。愛知県出身。1997年明治大学理工学部卒、2002年日通システム株式会社(現、勤次郎株式会社)に入社。18年取締役、19年常務取締役を経て22年代表取締役執行役員社長COO営業本部担当兼サービス本部担当に就任。23年代表取締役執行役員社長COOに就任(現任)、勤次郎ベトナム有限会社会長に就任(現任)。