2Dや3Dキャラクターがユーチューバーとして出演するVTuber(バーチャルユーチューバー)はここ数年、注目コンテンツとして飛躍的な成長を続けており、インフルエンサーもいる。
2020年に144億円だったVTuberの国内市場規模はグッズ販売やイベント使用などの増加を受け、2023年は800億円を見込むまで急伸。サブカルチャーに限らず、広告をはじめ幅広い領域での需要拡大が期待されている。
株式会社Pictoria(2017年設立、東京都中央区)は、そんなVTuberを生成AIのテクノロジーで制作する画期的な「AIVTuber」を開発。キャラクターづくりをフルオーダーのワンストップで手がける目下躍進中のベンチャー企業だ。
仕掛け人である、創業者で代表取締役CEOの明渡隼人氏に、AIVTuberの誕生秘話や事業ビジョンについて話を聞いた。
インターンで起業後のシミュレーションを経験
ーー起業するまでの留学やインターンの経験をお聞かせください。
明渡隼人:
明治大学の政治経済学部在籍中に交換留学制度を利用して、カリフォルニア大学バークレー校に留学しました。バークレーのハースというビジネススクールで、様々な国から集まった留学生と一緒にビジネスのケーススタディを学びました。
その後インターンでコンサルティング系の企業に入り、М&Aのプラットフォームをつくるプロジェクトのエンジニアとして参加しました。
インターン2社目はエンジニアの人から紹介してもらったゲーム会社で、コンテンツづくりや開発のディレクションを担当しました。
そこでは一連の流れをもとに自分の好きなものを乗せることができれば、起業して新サービスを提供できるという企業形態でした。
これにより、起業に至った際に何が起こるかをシミュレーションすることができ、とても貴重な経験を得られました。
ーーAIVTuberを開発したプロセスを教えてください。
明渡隼人:
ちょうど私が起業した2017年頃にVTuberのキャラクターが流行しましたが、弊社でもオリジナルキャラクターを2019年にデビューさせました。ヒットはしたのですが、満足せずに次のチャンスをにらんでいました。
すでに成功していた上場企業がVTuberのキャラクターを量産するビジネスモデルをつくり、うまくいっていました。が、私たちは後発のため、どうすればもっと独自のアプローチができるか考えたとき、「AIなら人がいなくてもたくさんつくれる」という考えに至ったんです。
2020年に初めてVTuberにAIをプラスするコンセプトでクラウドファンディングを試み、その結果300万円くらい集まりました。それがきっかけで「世に求められているコンテンツだ」と確信し、「AIVTuber」を始めたという経緯です。
LLMとナレーション技術を駆使した音声にアドバンテージあり
ーー制作での差別化ポイントはどんなところでしょうか?
明渡隼人:
AIキャラクターの創作においてワンストップソリューションですべて提供できるのが最大の強みです。キャラクターづくりは弊社単独で完結できますから、顧客は要望を提出するだけです。
具体的には大規模言語モデル(LLM)と合成音声を駆使して、面白くしゃべるノウハウをAIとつなぎ合わせてパイプライン化。数多くの実験を行い、国内でも1、2を争うほど研究開発に取り組んでいます。
そのため正確な情報を伝えるだけでなく、人の心を惹きつける魅力的な声をした、愛着を持たれるキャラクターづくりができるというわけです。
既存キャラクターをAIVTuberで再製する提案
ーーこれから力を入れていきたいテーマや課題をお聞かせください。
明渡隼人:
まずBtoBで売り上げを組み立てていく必要性を感じます。法人向けに実績を上げて技術もノウハウも認めていただいて、BtoCのほうにつなげていきたいと思っています。
言い換えると、短期間で大量にキャラクターを生成し、成功失敗を繰り返すのではなく、足元を固めてから一般向けのヒットを狙いにいくという意味でもあります。
AIキャラクター作成のサービスが必要とされている法人向けにも、ニーズは大きいと感じています。あとは相手のクオリティラインを達成することが重要な課題です。
つまり技術提供する側ができることと、こうしたいと思っている企業とのギャップ、そこを埋めるための技術開発を急ピッチで進めているところです。
そのためにどう開発していくべきかはまとまっているので、クリアしていく自信はあります。
ーー新規開拓はどのように進めるのでしょうか?
明渡隼人:
アニメやゲームの会社をはじめ、既存でコンテンツやキャラクターを持っている企業との取引を増やしたいと考え、「キャラクターの世界観を壊さないでAI化しませんか?」とアプローチをかけています。
たとえばテレビ業界あるいはニュースを発信している会社が、キャラクターも用いてニューストピックの解説をするといった機会が増えるといいですね。
また広告業界と協力してインタラクティブなコンテンツをつくるのも面白いと思います。化粧品や不動産の広告キャラクターとして採用し、直接消費者と対話するような形にできれば、よりビジネスチャンスは広がると思います。
編集後記
明渡CEOは求める人物像の問いに「人任せにせずにつねに仮説を考え、ゴール設定をして、そこから逆算して仕事ができる人が欲しい」との見解を示した。
また同氏はインタビューの中で「技術提供側の都合ですが」と何度かコメントしている。
そこには決して技術屋の独りよがりではない、顧客からのニーズに応えたい経営者としての配慮が強く感じられた。
新機軸としてのこれからの飛躍が大いに期待できるインタビューとなった。
明渡隼人(あけど・はやと)/1994年生まれ、和歌山県出身。明治大学卒業。カリフォルニア大学バークレー校への半年の交換留学後、2社でのインターンを経て、Webマーケティングや開発経験を積む。在学中の2017年12月に株式会社Pictoriaを設立。2019年3月からバーチャルYouTuberのプロデュースを本格始動し、2020年からAIVTuberの企画・開発を開始。