※本ページ内の情報は2024年2月時点のものです。

石光商事株式会社の代表取締役社長を務める石脇智広氏は、東京大学を経て、同大学大学院工学系研究科を修了。社会に出たのは30歳になる年だった。研究機関に就職を決める者がほとんどの中、同氏が選択したのは民間の食品会社。

社会人として遅めのスタートを切りながら16年で社長に就任した同氏に、事業のこれまでと今後について話をうかがった。

専門分野ではない道を選択した就職活動

ーー貴社に入社されたきっかけについて教えてください。

石脇智広:
大学時代からコーヒーに興味がありました。いろいろな論文を調べたところ、日本でコーヒーを科学的に取り扱っている人がいないと知り、「これは仕事になる」と思いました。それから就職活動を始めましたが、当時はインターネットもなく、各企業のホームページを見るというわけにはいかなかったので、自分の専門と違う会社への就職ルートを探す手段がありませんでした。

そこで大手コーヒーメーカーなどに手あたり次第コンタクトをとることにしました。その中で、たまたま石光商事の方と接点を持ち、採用担当につないでいただけたのです。思いがけず現在は名誉会長である当時の社長が即決してくださったことで、石光商事に入社することができました。

念願のコーヒービジネスから社長就任までの道

ーー現在の役職に就いた経緯についてお聞かせください。

石脇智広:
入社以来、ずっとコーヒーの分析をしていました。研究開発を担当していたためお金を使う専門でしたが、会社から「稼ぐ方も見るように」と言われ、2015年にセールスの責任者を兼務し、その翌年に社長に就任しました。

選ばれた理由については退任するときに聞こうと思い、今も聞いていません。営業と畑違いの者を選ぶことによる新しい経営視点や、理系ならではのセンスが必要とされていると勝手に解釈しています。

ーーこれまで経験した困難についてお聞かせください。

石脇智広:
一般社員時代よりも経営を担っている今の方がずっと困難でつらいですね。仕事内容がこれまでとは全く畑違いなこともありますが、失敗したときに会社に与える影響の大きさがプレッシャーになっています。

役員に就いた際に、自社の株を買うように言われ、購入しました。いざ自社株を買ってみると腹が据わり、「今を乗り越えさえすれば良い」という感情が消えて、「次世代のための体制について考えないといけない」と思うようになりました。そうしなければ、退任後に持っているはずの財産が紙くずにもなり得るからです。

ーー会社の特徴についてお聞かせ下さい。

石脇智広:
社長に就任してから、会社としてのストーリーを作りたいと思いました。会社の売りになる部分を考えたとき、1つは明治から続く社歴の長さだと思いました。業績は簡単に抜かれても、社歴を抜かれることはありません。弊社は仕入先やお客様との関係性も長く、社員の勤続年数も平均よりずっと長いので、長く続いていることを1つのキーワードにしようと思いました。

もう1つは、創業精神です。弊社は、1906年に初代がアメリカで頑張って働く日系の人たちのために日本食を届ける仕事をしたことが始まりです。「食べ物を通じて心や生活に癒しや活力を与えよう」という信念があったと推測しています。我々が扱っている商材はコーヒーから食肉まで多岐にわたりますが、全部門に共通して「食を通じて幸せをつくる会社になろう」という思いがあります。

コーヒー文化を日本に持ち込んだパイオニア企業が次に描く未来

ーー貴社の事業について改めてお聞かせ願います。

石脇智広:
創業者が日本に帰国したときに、コーヒーに関するいろいろな情報や器具を持ち帰ってきました。そこから事業が広がっていったため、コーヒー事業はやはり弊社の1つの柱です。

コーヒー豆は業者によって焙煎されて喫茶店に届きますが、喫茶店からは次第にランチ用の冷凍食品に対する要望が出てくるようになりました。そこから事業はどんどん大きくなり、さらに輸出の仕事も増えました。今は「コーヒー」「食品」「コーヒー及び食品の輸出」この3つが柱になっています。

今、日本の人口は目に見えて減っています。その一方で、海外の人口や日本食に対する興味関心や消費意欲は増え続けています。その中で、日本の郷土食文化や製造技術を海外に届けることは、これからの新しい柱になると思います。

ーー海外展開の計画について教えてください。

石脇智広:
コーヒー事業については、新しい製造技術も含めてアジアに展開していく予定です。

私たちが最初に中国で事務所を作ったときには、コーヒーの消費量が人口当たりわずか年に1杯だけでしたが、この10年で週に1杯ほどにまで上がりました。その消費増に伴ってセールスも数年で一気に伸び、中国のコーヒー事業を大きな収益源に成長させることができました。

また、タイの現地オフィスにもコーヒーの専門家を置いてセールスを増やす予定で、さらには紅茶が主体であるインドにも可能性を期待しています。

インド、タイ、中国の3拠点を中心に、アジア全般で我々が築いてきたコーヒー産業やコーヒー文化を伝えたいと思っています。

海外の食品に関しては、現在はヨーロッパに投資しています。今までも、EUやイギリス向けにビジネスをしてきましたが、今後は現地に拠点を置いてより強化したいと考えています。実際に現地に行ってみると、日本食に対する興味や関心、期待の高さを実感します。

たとえば、和食を売りにする店のランチが1人1万円を超えるケースはたくさんあります。とても違和感を覚えますが、一つのポテンシャルであることは間違いありません。

ーー世界でSDGsが叫ばれている中で、これまでしてきたこと、今後していきたいことがあれば教えてください。

石脇智広:
中長期的には、コーヒー抽出時に出る残渣(コーヒーグラウンズ)の有効活用があります。うまく世の中の方々に利用してもらえるように注力していきます。

最近の取り組みとしては、コメダ珈琲と2022年の暮れに「とろみコーヒー」を共同開発しました。嚥下(えんげ)ができないことでパンを食べられなかったり、コーヒーを飲めなかったりと、つらい思いをしている方に向けて商品をつくり、賞も頂きました。

弊社は、社会課題の解決によって利益を得る「CSV」といわれるビジネスが売上の40%を占めることを目指しています。

人材採用のキーワードはSDGs

ーー採用方針はありますか。

石脇智広:
現在は大学新卒、中途採用に加えて高卒者の採用も行っています。弊社の仕事には高卒者が活躍できる職種があるため、地元の高校を出た人たちを採用して、仕事をしてもらいながら社会人としても育てていきたいと考えています。

SDGsをキーワードとして、そのキーワードに反応する人をキャッチできる採用窓口を作りたいと考え、今はいろいろなことを検討している段階です。

編集後記

「SDGsを採用の入り口にしたい」と話す石脇氏。求める人材像は「社会に貢献すること」「自分たちの利益を上げていくこと」その2つの考えを合わせ持つ人物だ。

また、そういった社員が安心して働けるよう社内制度を整えることも会社の課題だと語る。同社の今後の活躍に期待したい。

石脇智広(いしわき・ともひろ)/1969年12月23日生まれ。鹿児島県出身。1999年東京大学大学院工学系研究科卒業。2001年3月、石光商事株式会社に入社。執行役員研究開発室長、取締役執行役員コーヒー・飲料部門長兼研究開発室長など経て2016年6月、代表取締役社長に就任。入社以来、一貫してコーヒーの研究に取り組む。社長就任後はテーマを「200年続くいい会社の仕組み創り」に切り替え、世界の食の幸せに貢献するために日々奮闘中。