2017年6月の設立以来、「家族葬のファミーユ」ブランドで全国直営141店舗(2024年2月末時点)を展開している葬儀事業者「株式会社きずなホールディングス」。
少人数の参列者によるプライベート重視の「家族葬」をパイオニアとして世に広めたほか、遺族の希望に寄り添うオリジナルプランなど、時代に合った家族葬を提供している同社の代表取締役社長兼グループCEOの中道康彰氏に、社長就任の経緯や成長のきっかけを伺った。
きっかけは父の言葉――呉服職人の道からサラリーマンへ
ーー経営者を目指すようになったのはいつ頃のことでしょうか。
中道康彰:
京都・室町の着物職人である父を見てきたので、子どもの頃から「自分も職人として生きていくのだろう」と思っていました。手に職をつけようと考え、中学時代にしゃかん(左官)職人に弟子入りをして、中学卒業後はそのまま親方を目指すつもりだったのです。
しかし、試しに近所の商業高校を受験したところ合格し、高校へ行きたい気持ちが勝りました。春休みや夏休みには父の弟子として働くようになり、今度は着物関係の職人になるものだと思っていたのですが、大学の重要性を感じたことで京都産業大学へ進学しました。
職人への憧れは持ち続けながら、「せっかく大学を出たのだから、スーツを着て仕事をしてみてほしい」という父の言葉を受け、一度サラリーマンになってみようと考えたのです。
影響を受けた経営者について――経営者は職人である
ーーサラリーマン時代からプロ経営者への転身までの経緯をお聞かせいただけますか。
中道康彰:
大学卒業後、株式会社リクルートへ入社しました。自分の部下やチームを持ち、業績を上げることに夢中になっていた頃、カルロス・ゴーン氏の『ルネッサンス ― 再生への挑戦』(ダイヤモンド社)やルイス V. ガースナー Jr.氏の『巨象も踊る』(日経BPマーケティング・日本経済新聞出版)を読み、「経営者とは職人なのだ」と感銘を受けました。
経営不振の大企業を腕一本で立て直したエピソードなどに職人性を感じ、私自身もそのような職人になろうと思いました。にっちもさっちもいかない事態を逆転させる手腕を磨きたかったので、リクルート時代には楽な仕事や順風満帆な仕事は引き受けず、火中の栗を拾う姿勢で取り組みました。
いざ経営者を目指すにあたっては、ありがたい機会をたくさん与えていただいたリクルートに恩を感じていたので、同業他社は考えていませんでした。リクルートが葬祭業には一切参入していなかったこともあり、この分野であれば、「職人」として経営者になれると考えました。
ーー葬祭業を選んだ決め手は他にもあったのでしょうか?
中道康彰:
「自分の手腕で人を喜ばせる器(会社)をつくれそうだ」と思えたほか、現場で会った葬儀スタッフたちに強いホスピタリティを感じたことが大きいですね。そして、資料で財務状況やビジネスチャンスを確認して「間違いなく成功する」と確信しました。
当時は、365日稼働するがゆえか、管理が不十分だとか経営がずさんだとか言われがちな業界でした。その中で企業として持続的に成長するには、クリーンな経営をして社会から認めてもらわなければなりません。パブリックカンパニーとして自分たちに制約を加える形で、まずは株式上場を目指しました。
家族葬市場の可能性を探る――プラン開発の秘話
ーービジネスチャンスを見出したきっかけをお聞かせください。
中道康彰:
「高齢化社会によって葬儀は小規模化する時代が到来するだろう」と見越し、それぞれの家族の希望に合わせたオーダーメイドの葬儀があってもいいのでは、と考えました。たとえば、昔の婚礼は互いの親族を招待して行うという画一的なものでした。そこへオーダーメイドの結婚式など多様性が加わり、ウェディング業界は盛り上がったわけですから、葬儀にも潜在的にそういうマーケットがあるはずです。
創業者の会社が「家族葬」を日本で最初に始めたこともあり、「自分たちは家族葬という新しいスタイルを提案していくんだ」という精神的裏付けも十分にあったので、全体のマーケットが縮小しても成長セグメントの中で勝負できるよう、新しい葬儀プランである「オリジナルプラン」を提案しました。
オリジナルプランをスタートしてから約半年間は受注が一つもありませんでしたが、初年度は約90件、翌年は約500件、現在は年間3,000件を超えるほどになりました。立ち上げはものすごく苦労しましたが、今やオーダーメイド葬儀による知見やノウハウの蓄積は、弊社の一番の財産です。
未来を担う世代へ――「経営者を目指す人が増えてほしい」
ーー若手の方へ向けてメッセージをお願いします。
中道康彰:
すごく先の未来を考えるよりも、今日という一日を大切にしてほしいと考えています。自分で積み上げてきたものしか自分の人生の足がかりにはできません。予測可能な今日や明日にこそ注目して、「本当に自分は一生懸命やっているのか?」と問うてみてはいかがでしょうか。
実は管理職や経営者を目指す人は意外と少なく、これから間違いなく経営者の需給バランスは崩れていくでしょう。企業は多いけれど「担い手」が少ない中で、経営者のポストにチャレンジする人が増えてくれるとうれしく思います。低下しつつある国力に対して反転攻勢を実現する力と可能性がある世代の方に、「プロ経営者」という職業があることを知ってほしいですね。
編集後記
職人の世界からプロ経営者の道へ進んだ中道社長。「良い会社づくり」に職人の手仕事を重ね、職人であることにこだわり続ける。歴史の長い葬儀業界に新しいスタイルを定着させた企業の推進力は、日本の未来を担う若手に「チャレンジする価値」を感じさせただろう。
中道康彰(なかみち・やすあき)/1967年京都府生まれ。1990年に京都産業大学卒業後、株式会社リクルート(現・株式会社リクルートホールディングス)に入社。2010年、株式会社リクルートメディアコミュニケーションズ代表取締役社長、2012年に株式会社リクルートコミュニケーションズ代表取締役社長に就任した後、2016年にエポック・ジャパン(現・株式会社家族葬のファミーユ)に取締役COOとして経営参画。2017年、同社の代表取締役社長、株式会社きずなホールディングス代表取締役社長に就任。2018年より現職。