※本ページ内の情報は2024年3月時点のものです。

ノイルイミューン・バイオテック株式会社は、「がん免疫療法」に特化したアカデミア発スタートアップのベンチャー企業だ。次世代の治療として注目を集めている「CAR-T細胞療法」を主軸とした新規治療法の開発を中心に、がん免疫療法という社会貢献性の高い事業を展開している。

今回は代表取締役社長の玉田耕治氏に、がん免疫療法の研究を始めたきっかけや代表取締役社長に就任するまでの経緯、苦労したエピソード、事業の強みなどについて話をうかがった。

バイオテックベンチャーの代表取締役社長に就任するまで

ーーがん免疫療法の研究を始めたきっかけを教えてください。

玉田耕治:
将来の進路を考えていたときに「自分の力を世の中に役立てたい」と思い、目の前の患者を救う医者の仕事に憧れて九州大学医学部へ入学しました。

大学では臨床医として患者の診療を担当していたのですが、当時の最先端の技術で治療しても完治させられない患者が多くいる現実を目の当たりにし、目の前の患者を救うことの難しさを実感しました。

この現状に対して「自分は何ができるか」を考えた時、病気を治療する側ではなく治療法をつくる側になり、「今まで治すことができなかった病気も治せるような医療技術や治療法をつくりたい」と思うようになりました。

そして、「治すことがより難しい、がんを治す治療法をつくりたい」と思い、がん免疫療法の研究を始めました。

ーー九州大学を卒業後、アメリカで約13年間がん免疫療法の研究をしていますが、日本ではなくアメリカで研究をしようと思ったきっかけを教えてください。

玉田耕治:
九州大学で研究をしている中でいろいろな情報が入ってきたのですが、その時にアメリカの研究レベルが日本よりも高くて技術の進歩が進んでいることを知りました。

「最先端の技術を学びたい」と思い、九州大学を卒業してすぐにアメリカに行き、大学でがん免疫療法の研究に取り組みました。

ーー貴社の代表取締役社長に就任するまでの経緯を教えてください。

玉田耕治:
CAR-T細胞療法や弊社が独自に開発したPRIME技術の研究を進める中で、「これは本当に患者のためになる可能性の高いものだ」と強く感じ、起業を決めました。

その後、がん免疫療法の事業化を目指して弊社を設立し、代表取締役社長に就任しました。

がん治療法の研究と知名度を上げる難しさを痛感

ーー研究を進める中で苦労したことは何でしょうか?

玉田耕治:
アメリカから日本に帰ってきてから、遺伝子を組み換えることで免疫細胞を強くするCAR-T細胞療法の開発に取り組みましたが、遺伝子を組み換えることは難しく、とても苦戦しました。

過去の先人たちの論文を読んでも、なかなか同じように進めることができず、苦しい時期が続きました。それでも周りの先生たちから教えていただいたり、必要な技術の知識を獲得し、工夫を重ねて開発を進めることができました。

しかし、CAR-T細胞は血液がんである白血病やリンパ腫には効果的ですが、「がんの90%以上を占める固形がんにはなかなか効かない」という世界的課題があります。その課題を解消するために、固形がんに対して効果を発揮するPRIME技術を応用したCAR-T細胞も開発することができました。

ーー起業した後に苦労したエピソードがあれば教えてください。

玉田耕治:
起業初期は知名度がなかったので、弊社の技術を企業や医師の方々に認めてもらうことに苦労しました。技術を認めてもらうための方法はいくつかありますが、主に2つのことに取り組みました。

1つ目は、研究成果を論文として発表することです。2018年に『ネイチャー バイオテクノロジー』という雑誌に弊社の技術に関する論文を掲載していただき、大きな反響を得ています。

そして2つ目は、事業連携です。事業連携を進めることで、他の会社にも弊社の技術の良さを知ってもらい、そこから周りに広めていただきました。

これらの努力によって、少しずつ世間に弊社の技術が認められ、知名度が高まりました。

患者の免疫も活性化させられるCAR-T細胞療法

ーー貴社の事業の強みを教えてください。

玉田耕治:
他社のCAR-T細胞療法は、単純に「CAR-T細胞を強くしていこう」と取り組んでいる会社が多いようです。

一方、弊社のCAR-T細胞療法は、CAR-T細胞を強くするだけでなく、患者の身体の中の免疫も活発化させます。CAR-T細胞と患者の身体の免疫が一緒になってがんに対応していく点が弊社の強みです。

ベンチャーマインドを持って挑戦し続けていける方に入社してほしい

ーー貴社が求める人物像を教えてください。

玉田耕治:
弊社は最新技術に取り組むベンチャー企業なので、新しいことにチャンレンジしていくベンチャーマインドを持った方に入社してほしいですね。

人は誰でも失敗するもので、失敗した先に成功があります。そういった失敗を許容する文化が弊社にはあるので、失敗を恐れずに積極的に挑戦できる方が弊社にマッチしていると思っています。

意味のある苦労にめげずに取り組んでいきたい

ーー玉田社長が事業を進める上で大切にしていることは何ですか?

玉田耕治:
弊社は「どうすれば患者の役に立つことができるか」を常に考えてきた会社です。何かを決断するときも、「患者に貢献できるかどうか」が重要な指針となっています。

患者の役に立つ事業に取り組むことは簡単なことでなく、多くのハードルが発生します。しかし、ハードルがあることはチャレンジしている良い証拠です。

何か壁に直面したときには「この苦労には意味がある」と捉え、今後もめげずに挑戦し続けていきたいと思っています。

編集後記

CAR-T細胞療法やPRIME技術の研究を進め、「多くの患者のがん治療に貢献したい」と思い、起業を決意した玉田社長。

起業当初に知名度が低い中で論文掲載や事業連携などの努力を積み重ね、今では独自のPRIME技術を活用した新薬開発を進めている。

「患者の役に立つためにはどうすればいいか」を常に考え、がん治療に貢献し続けるノイルイミューン・バイオテック株式会社から、今後も目が離せない。

玉田耕治(たまだ・こうじ)/1992年九州大学医学部卒業。米国で10年以上にわたってがん免疫研究に取り組み、ジョンズ・ホプキンス大学医学部、メリーランド大学医学部にてPrincipal Investigator(主任研究者)として研究室を主宰。2011年より山口大学医学部免疫学教授として着任。2015年にノイルイミューン・バイオテック株式会社を設立。2020年に代表取締役社長に就任。