京都に本社を置くモノづくり企業の株式会社エレファント。
アパレルグッズのオリジナルプリントから始まり、今ではショップのブランディングや店舗デザイン、イベント企画までワンストップでサポートする会社の成長ストーリーが興味深い。代表取締役社長の井上尚宜氏に、設立の経緯や事業拡大の流れ、今後の展望を聞いた。
Tシャツプリントショップから「モノづくりの会社」へ
ーー貴社の事業内容を教えてください。
井上尚宜:
弊社はもともと、シルクスクリーンを用いたTシャツのプリント会社でした。創業者の平井英孝(現会長)が自宅でスタートさせた事業で、仕事の依頼が増えるにつれスタッフも増えていきました。
現在はイベントの販促グッズやメーカー様の商品なども製作しています。「作業」そのものを販売しているイメージで、人同士のやりとりの中で商品をつくっていく「モノづくりの会社」を自負しています。その後、事業は多岐にわたり、イベントを開催したい方がいれば、準備するべきものからチケットを売るスキームまでアドバイスいたします。最終的に弊社でグッズをつくっていただけるとありがたい、という形です。
ーー取引先はどのように開拓していますか?
井上尚宜:
今までは飛び込み営業を基本としてきて、近年はお客様からのご紹介も増えてきました。本店の京都は昔からのお客様が多く、売上の約9割は東京・福岡の営業支店が確保しています。業界内で知っていただけるようになったことで個人のお客様も増え、学校行事を企画する保護者の方から飲食店の方まで幅広くなっています。
自己発見の旅――アルバイト生活からの一念発起
ーー社長ご自身について、入社の経緯をお話しいただけますか。
井上尚宜:
26歳の頃に入社するまで、僕は自由気ままなアルバイト生活をしていたのです。友達同士でシェアハウスに住んでいたのですが、就職を機に出ていく人もいて焦りが生まれました。スタートが遅れたのだから人の倍がんばらなければと思っても、どうするべきかわかりませんでした。そんな私に叔父の平井が声をかけてくれ、欠員のあった経理として入社した流れです。
仕事に慣れないうちは何度も叱られましたが、「どうすれば叔父の仕事を楽にできるか」ということに集中するようになりました。「ここで逃げたら、自分を可愛がってくれた兄貴のような人を裏切ることになる」と思ったのです。3年目には、銀行との交渉を任せてもらえるほどに成長しました。
ーー社長に就任後、新たに取り組んだことはありますか?
井上尚宜:
就任1年目に営業方針の変更を提案しました。従来の営業は自己完結型で、自分でとってきた仕事は発注からお金の回収まで個人が行っていました。現在はセールスプロモーションスタッフとお客様をフォローアップしていくスタッフを分けて、「各々に得意なことを任せる」というスタンスに移行しています。
「楽しい」を大切に。会社の強みと今後の展望
ーー貴社の強みや大切にしていることをお聞かせください。
井上尚宜:
お客様に評価していただいているのは、関わるスタッフの「真面目さ」や「行動の早さ」などです。個性が魅力となる「人」の部分は、弊社の強みだといえるでしょう。
打ち合わせ段階から、文化祭の準備のようにお客様と一緒に盛り上がって、最終的に企画が大成功することが弊社にとっては大切で、それが一番の仕事の「楽しさ」です。直接会ってともに作業するときの空気感や会話も大切です。仕事をより楽しむために、弊社は「アナログのためのIT」を導入しています。たとえば、各支店を巨大モニターでつなげることで、人数の少ない職場も明るくにぎやかになるという効果があります。
ーー今後はどのような展望をお持ちですか。
井上尚宜:
以前まで、提携先の工場が手一杯でお断りする案件がありました。そのようなことがないように、今後は2023年から稼働した自社工場をさらに拡大し、自社でできることを増やしていきたいと考えています。
自社工場があることは営業時のアピールポイントになりますし、同時に社内業務の選択肢も広がりました。「営業職が自分に合わない」と感じる人がいたら、手に職がつく技術職へ移り、キャリアアップを目指すことも可能です。
営業方針を変更してから次の段階では、人員増加に伴う業務の細分化も進めています。「営業と技術のどちらもできる人」や「どっちつかずの人」など、人によって得意分野はそれぞれですから、それを見極めることが大切です。社内の見えないところで統一感を失うリスクは避けたいところです。
次の世代にもつなげたい、エレファントの未来
ーー井上社長が目指す会社の方向性や夢についてお話しください。
井上尚宜:
社内には「仕事そのものを楽しむ人」と「趣味を充実させるために仕事をがんばる人」がいます。目標は違うけれど、方向性が一緒になることは多いと思うのです。いろいろな意見がある中でも、弊社の仕事を楽しいと感じる人が集まって、一緒に働いているという状態が理想だと思っています。仕事とプライベートの両立については、ルールを厳しく設けないかわりに、成果主義も取り入れて社内のバランスを保っています。
時代が変わろうとも、世代を越えてこの会社が続いていくことが僕の夢であり目標です。そのためにも現状維持ではなく、会社の規模を拡大していかなければいけません。大規模な社会貢献は現実的に難しくても、社員やその家族、地域を守っていける会社になれればと思います。
編集後記
自社工場を新たな強みに、次世代への道を歩み出している株式会社エレファント。オリジナルショップの開発や運営も行うなど、モノづくりのノウハウをオープンにして自在に提供できる井上社長の手腕は見事だ。
これから面白い事業やブランドを生み出したいと考えている人たちにも、頼りになる企業のひとつだろう。
井上尚宜(いのうえ・なおき)/1981年、京都府生まれ。京都学園大学を卒業。26歳で株式会社エレファントに入社、経理・総務業務を担当。叔父である創業者・平井英孝氏が還暦を迎えたことを機に37歳で代表に就任。