ランジェリーメーカーとして創業し、58年目を迎えた株式会社エレーヌ。「あなたにぴったりの美しさを提案するランジェリーコンシェルジュ」として顧客の悩みや問題に真摯に向き合い、多くの商品を世に送り出してきた。
昨年にはトランス女性やトランス男性も含むインクルーシブなインナーウェアブランド「Alper®/オパール」を立ち上げ、話題を呼んでいる。
新ブランド立ち上げの経緯や、商品・価格へのこだわり、今後の展望について、同社代表取締役専務の藤井氏に話をうかがった。
エンジニアから一転、父の築いた会社を守る代表取締役に
ーー入社までの経緯を教えてください。
藤井幹也:
ランジェリーメーカーの長男として生まれましたが、「会社を継ぐ」という意識はなく、父から何かいわれることもありませんでした。
しかし、大学卒業後に入社したシステム開発会社でエンジニアとして勤務し、2年が経ったある日、突然父から「お前が継がないのなら会社は縮小しようと思っている」といわれたのです。
これまで会社を一代で築いてきた父を尊敬していましたし、実家で長年見続けてきた会社がなくなることに寂しさを感じました。「社長というポジションに就ける機会はそうそうない」と思い、この業界にチャレンジすることにしました。
ーー入社後はどのような経験を積んだのですか?
藤井幹也:
右も左も分からない状態でしたので、まずは生産管理や企画・営業など、さまざまな部署を担当し、仕事を覚えることから始めました。
現場の立ち会いとして海外の工場に行くことも多く、品質管理やコストの交渉などでの苦労もありましたが、完成したものがお客様の手元に届いて喜びの声をいただけることに、とてもやりがいを感じていました。
ーー現在の事業内容を教えてください。
藤井幹也:
京都で婦人用下着の製造・卸売・販売をしており、2024年に創業から58年を迎えます。
「Make The Beauty “Fits You”」を理念に、お客様の悩みや問題に寄り添い、真摯に向き合うメーカーとして、お客様と共に成長するブランドを目指しています。全国の量販店や専門店での販売に加え、OEM事業もおこなっています。自社のECサイトにもようやく手を付け始めたところで、今後はそちらにも注力していこうと考えています。
婦人用ブラジャーで培った技術と知識を活かし、新たな挑戦へ
ーー新ブランド「Alper®/オパール」が話題を呼んでいますね。
藤井幹也:
「Alper®/オパール」は、「なりたい自分になるために、制限なんていらない」をコンセプトとしたトランス女性・トランス男性を含めたインクルーシブなインナーウェアブランドです。
きっかけはお客様からの「男性用のブラジャーはないの?」という一言でした。これまで考えたことのない分野でしたが、「下着が欲しいという思いに男性も女性も関係ない」と社内で話し合い、商品開発に臨んだのです。
実際にLGBTQ+の方々のコミュニティに参加させていただき、商品のフィッティングやご意見・ご感想などをうかがった上で開発を進めていきました。さまざまなお悩みをお聞かせいただいたことで、機能性やフィット感を細かく調整することができ、お悩みに寄り添えるような商品展開ができていると思います。
ーー以前、乳がんの患者向けの下着も開発していますね。
藤井幹也:
2015年に、乳がん下着専門店のアボワールと共同し、乳がん患者の方に向けた商品を開発させていただきました。実際に乳がんで乳房を摘出したアボワールの中村社長から、「乳がん患者に合うブラジャーづくりに協力してほしい」という電話をいただいたのです。
これまで婦人用の下着を長年扱ってきたにも関わらず、乳房摘出で下着に悩まれている方がいることを初めて知り、「これは僕たちがやるべき仕事だ」と意気込み、共同開発に取り組んだのです。両胸のサイズが異なるので、通常の商品づくりとはこだわるポイントが違い、会社としてもとても勉強になりました。
商品の幅を広げ、「エレーヌだから買いたい」といってくれるファンを増やす
ーー今後の展望についてお聞かせください。
藤井幹也:
「エレーヌの商品だから買いたい」と思ってくださるファンを増やしていきたいと思っています。自社ECサイトやSNSなどでお客様とのコミュニケーションをより強化し、いただいたお悩みやご意見を開発に活かして、より良い商品をお届けすることを第一としています。
並びに、弊社の社員・パート・アルバイトの方々には利益をしっかりと還元していき、さらに協力いただいている工場や取引先などにも「エレーヌと付き合ってよかった」と思ってもらえるような環境を整えていくことを計画しています。
ーー採用状況や、求める人物像をお聞かせください。
藤井幹也:
婦人用の下着を扱っているため男性からは敬遠されがちですが、商品開発においては多角的な視点が必要なので、弊社には男性社員も多数在籍しています。
下着の中でも特にブラジャーというのは奥深く、縫製技術も複雑で資材も何十種類とあり、商品1つつくるのに膨大な時間がかかります。それを全て覚えなければならないので非常にシビアな環境ですが、普通のアパレル企業では味わえない達成感がありますので、そこにやりがいを感じられる方にはとても楽しい職場だと思います。
ーーこれからチャレンジしたいことはありますか?
藤井幹也:
男性用・キッズ用・ジュニア用など、幅広い下着に携わることにチャレンジしたいと思っています。僕も2児の父となり、家族の下着にまつわる悩みや困りごとを身近な問題としてとらえることができるようになりました。今後もお客様からのお声を真摯に受け止め、商品に反映できるよう、いっそう商品開発に取り組んでまいります。
編集後記
かつてはワイヤーを使用し、レースをあしらったブラジャーが主流だった下着業界も、ストレスフリーな着心地やシンプルなデザインが求められるようになってきた。老舗ランジェリーメーカーとしての実績を築いてきたエレーヌとしては、ノンワイヤー商品の出現に衝撃を受けたという。
自らの実績に固執せず、顧客の悩みや問題に寄り添って商品開発に励んできた同社だからこそ、多くの信頼を得ることができたのだろう。乳がん患者、トランスジェンダーの方々に向けた商品に次いで、今後はどのような商品が生み出されるのか期待したい。
藤井幹也/1978年、京都市生まれ。大学卒業後、システム開発会社に入社し、2年後の2003年に株式会社エレーヌへ入社。2018年に同社代表取締役専務に就任し、現在に至る。