これまでの不動産投資は多額の資産が必要だったため、運用できるのはごく一部の人に限られていた。しかし、不動産を証券化することで、少額から投資できるようになり、多くの投資家からの注目を集めるようになった。
株式会社マリオンは不動産賃貸事業と、不動産証券化事業の両軸で会社を運営している企業だ。同社は他社に先駆け、証券化した不動産をセキュリティートークン(有価証券)として販売できるよう、準備を進めている。
不動産証券化事業をさらに進化させ、事業の一環としても社会貢献にも注力している、代表取締役社長の福田敬司氏に話を伺った。
マリオンの二本柱である二つの事業と不動産証券化について
ーー貴社の事業内容を教えていただけますか。
福田敬司:
弊社の事業は大きく分けて2つです。
弊社の売り上げの基礎となっているのが、首都圏や地方都市にある居住用物件の賃貸業です。投資用としても活用するレジデンシャル(居住用の)物件を購入し、貸し出しています。
もう1つが、賃貸料を原資として証券化した不動産を弊社が運用し、出資いただいたお客様に分配金をお支払いする、不動産証券化事業です。
この不動産を証券化した「i-Bond」は、国土交通省が管轄する不動産特定共同事業法にのっとった証券化商品です。
ーー「i-Bond」について詳しくご説明いただけますか。
福田敬司:
弊社では、「i-Bond」を「お金 第3の置き場」と呼んでいます。
銀行に預貯金として置いておいても、わずかな利息が付くだけですし、タンス貯金の場合は現金が増えることはありません。一方で、1万円から投資できる弊社の商品は、年に2回(現在1回)配当を受けられ、その分資産を増やすことができます。
また、不動産を証券化し、デジタル化したことにより、PCまたはスマホで申し込みや出資、解約などの手続きができるのがメリットです。
ーー他社が販売している商品との差別化ポイントを教えていただけますか。
福田敬司:
不動産の当社運用報酬以外はすべてお客様に還元できるよう、入出金の際に発生する手数料を無料としています。また、「i-Bond」最大のメリットは、投資対象の不動産を入れ替えられることです。
不動産は築年数が経つにつれ、建物の資産価値は下がっていきます。しかし、弊社は特定のライセンスを取得しているため、建物の価値が下がったものは、パフォーマンスの良い物件と入れ替えられます。
投資対象の物件の構成については、弊社で入れ替えを行うため、不動産価値を安定化するルールに従ったポートフォリオを組んでいます。
ーー今ある事業のうち、今後はどの部分を伸ばしていこうとお考えですか。
福田敬司:
金融商品取引法の一部改正により、複数のコンピュータでデータを管理するブロックチェーン(分散型台帳)を用いた、不動産のセキュリティートークン化が解禁されようとしています。トークンとは、ブロックチェーン技術を利用して発行された、代替通貨のことです。
この不動産トークンは、有価証券と見なされます。弊社では今ある不動産をトークン化し、最後にはデジタルインフラとして運用することを目指しています。2025年度中の商品化を目指し、現在システム開発を進めているところです。
不動産セキュリティートークンの販売開始により、将来的に利益が見込める資産を積み上げることで、弊社の成長にもつながると考えています。
親から引き継いだ事業を守る使命感にかられ、困難を乗り越えてきた
ーー事業承継の発端についてお聞かせください。
福田敬司:
先代が行っていた不動産事業の一部を引き継ぎ、1986年に前身となる株式会社マリオン管財を立ち上げました。
ーー以前から家業を継ぐお気持ちはあったのですか。
福田敬司:
私は大学で化学を専攻しており、もともとは家業を継ごうとは思っていませんでした。
ところが、学生の頃から親の仕事を手伝っていたこともあり、なし崩し的に、いつの間にか家業を継ぐことになっていました。
入社後まずは産業用資材を扱う、福田産業資材株式会社の経営を任されました。経営のイロハすら理解していない状態で会社を任されたので、最初は不安でした。
ただ、父から「とにかく実践と経験値、経営は資金繰り」と教えられ、実地で経営について学びました。
長年経営に携わる中で、バブルの崩壊やリーマン・ショックなど、さまざまな危機にも直面してきました。ただ、親から譲り受けた会社をなんとしても守り、存続させるという使命感で困難を乗り切り、今に至っています。
経済人としての社会貢献に対する強い思い
ーーご自身が理事長を務める、公益財団法人マリオン財団についてお話しいただけますか。
福田敬司:
弊社が創立35周年を迎えたときに設立し、主に児童養護施設の助成事業を行っています。
家庭内暴力やネグレクトが原因で、家に居場所がない子どもたちが道を逸れないよう、施設で保護して育てることで、少しでも現在の少子化する日本の社会をより良くしたいというのが私たちの思いです。
私が所有している自社株と、代表理事を務めている一般社団法人ホンジン・ホールディングスの株の配当は、すべて財団に寄付しています。つまり、弊社の商品や株式をご購入いただいた方々は、自然に社会貢献をしていることになります。
また当財団では、高齢者や障がい者の方々が必要なサービスを受けられるよう、社会福祉全般に関わる諸活動の助成も行っております。
このように弊社が得た利益の一部は社会福祉支援のために使い、社会に還元・貢献することを最終的な目標として、経済活動を行いたいと考えています。
経営者は、ただお金を稼ぐだけではだめだと思っています。みなさまからご支援いただくことで会社は成り立っているので、自分たちが得た利益を社会に還元するというのは、経済人として当然のことだと考えています。
ーー後継者としてどのような方に会社を任せたいとお考えですか。
福田敬司:
私利私欲は捨て、使命感を持って会社を引っぱってくれる人が適任だと考えます。もちろん自身が生きていくうえで必要な報酬は確保したうえです。余資は社会貢献に使い、世の中をもっとよくしよう、そんな心を持った方に任せたいと思います。
編集後記
親から引き継いだものを絶やさぬよう、必死の思いで会社を守ってきた福田社長。自らの利益はすべて運営している公益財団法人に寄付するという、社会貢献への強い思いに触れ、敬服するばかりだ。不動産の新たな価値を提供し、思いやりの心を大切にする株式会社マリオンは、これからも人々が豊かな生活を送れるよう、世の中に貢献していくことだろう。
福田敬司/1947年東京生まれ。埼玉大学卒。1986年株式会社マリオン管財(現:株式会社マリオン)を設立、代表取締役社長に就任。2010年一般社団法人ホンジン・ホールディングス代表理事に就任(現任)。2019年株式会社M1 代表取締役に就任(現任)。2021年10月一般財団法人マリオン財団(現:公益財団法人マリオン財団)代表理事に就任(現任)。