※本ページ内の情報は2024年3月時点のものです。

株式会社サイエンスアーツ(2003年設立、東京都渋谷区)は、コミュニケーションを目的としたプラットホーム「Buddycom(バディコム)」を開発・販売するIT企業だ。

Buddycomは手持ちのスマートフォンやタブレットを使って、業務の手をとめずに現場で作業をしながらリアルタイムに会話や情報共有ができる便利ツールとして、デスクレスワーカーを抱える産業界などから広い支持を集めている。

2021年には東証グロース市場に上場するなど、企業成長のけん引役ともなった同サービス。2020年8月期に2億2000万円だった売上高は年々上昇を続け、2023年同期は3倍以上の7億7000万円を計上。継続的に成長軌道を描いている。

このBuddycomという注目アイテムの生みの親であり、株式会社サイエンスアーツの創業者でもある代表取締役社長・平岡秀一氏に、起業のいきさつや人事方針について話を聞いた。

社会に役立つソフトウェアを開発するため起業を決意

ーーBuddycomを開発したきっかけをお聞かせください。

平岡秀一:
高齢化した父がスマホで電話したり、メールを打ったりするのに苦労しているのを目の当たりにしました。父と同世代の方もおそらく同じだろう、歳をとったあとに周りとコミュニケーションを取らないとすぐに衰えてしまうだろうと感じ、「ボタン1つで複数人と同時に話せるツールがあると便利だな」と思ったことが始まりです。

技術的なバックボーンは、ハイレベルなソフトウェアを開発していた、日立西部ソフトウェア株式会社(現・株式会社日立ソリューションズ)で習得しました。そこでは高性能サーバーを使用して、証券取引の注文が殺到するときなどに高精度な処理をしていました。

複数人での時差のない会話を成立させるには、サーバーの性能も非常に重要ですので、この技術があったからこそ、既存の事業が転機を迎える好タイミングでBuddycomを開発することができました。

ーー独立開業したのはソフト開発のためでしょうか?

平岡秀一:
そうです。2つ目に入社したマイクロソフト株式会社(現・日本マイクロソフト株式会社)ではコンサルティングをしていましたが、「独自のソフトウェアを開発したい」という気持ちが募っていました。

もともと最初の会社で、開拓者精神をもつ人向けに最先端の製品を開発する研究所にいましたから、イノベーションの価値観のもとに「人の役に立つものをつくりたい」という意欲が根底にありました。積年の思いが重なって起業を思い立ったのです。

ーー起業して苦労したことをお聞かせください。

平岡秀一:
なんといっても資金調達に苦労しました。現在の起業家向けのベンチャーキャピタルのような便利な調達法も、当時はほとんどありませんでしたからね。

実はBuddycomを開始する前に別の事業を展開しており、その事業が成功して自力で数億円単位の資金を調達できました。それがなければBuddycomの事業は始められなかったでしょう。

労働者の高齢化という社会課題の解決にも役立つBuddycom

ーーBuddycomはどのような方に活用されているのでしょうか?

平岡秀一:
世界中の労働者の大半である、机の前に座らず最前線で活躍する方(デスクレスワーカー)を多く抱える業界を中心に、物流会社、ガス会社や電力会社、消防署、自治体など、多岐にわたります。

最近ではパチンコ店やアミューズメント施設などの業態にも間口を広げ、1度試して価値をご理解いただいたお客様に、長く継続して使っていただいています。

ーー今後、どのように販路を開拓していきますか?

平岡秀一:
量販店では高齢者も多く働いていますが、商品がどの売り場にあるかを覚えられない、不意に現場でお客様から受けた質問に答えられない方も少なくありません。「お客様に質問されるのが怖い」という声も聞きました。Buddycomがあれば、他の従業員に一斉に確認できる。また、複数の国の言語への同時翻訳も可能です。今後、少子高齢化によって増えるであろう外国人労働者やシニア労働者の助けにもなります。

現場で起きている課題解決として共感していただける企業を中心に、販路を拡大していく方針です。

ーー貴社の強みはどんなところでしょうか?

平岡秀一:
ベンチャー企業がいきなり大手企業に営業をかけるのは難しいので、SEOをはじめとしたメディア戦略に力を入れ、実際に大手企業からのアプローチも複数いただいてきました。

もちろん、解約率0.3%を誇る製品の質にも自信を持っています。具体的には、「テキスト化」「翻訳」「映像配信」など、プロダクトの差別化によって高い競争優位性を保持しています。

車で例えると、エンジンに余白部分をつくっておくことで、後でターボを入れて「ターボエンジン」へとグレードアップができます。ITでも同じことです。あらかじめ想定していないとつくることができないこの「拡張性」が大事です。その技術も弊社の大きな強みです。

周辺機器のアクセサリー類もBuddycomの販売の伸びにあわせ、ホリゾンタル(業界・企業・部門横断型)に開発を進めています。

新卒採用を強化し、積極的に人材確保に取り組む

ーー人事面の特徴を教えてください。

平岡秀一:
弊社のもうひとつの強みは人です。社員同士みな仲が良く、私を含めて普段から役職ではなく「さん付け」で呼び合っており、会社の雰囲気も明るいですね。

ただ頭が良いだけの秀才タイプが集まっても、まったく会社は良くなりません。社員の仲が悪くチームワークのない会社は、うまく機能しませんからね。

ーー採用したい人材像はありますか?

平岡秀一:
専門性を問う前に、入口として「友達になれそうか」がひとつの基準です。フィーリングもスムーズなコミュニケーションを交わすうえで大事な要素です。たとえスキルは多少低くても、地頭が良くて向上心のある人に魅力を感じます。

ーー新卒採用についても教えてください。

平岡秀一:
新卒社員は「入社後に間違いなく伸びる」と感じていますので、積極的に増やしていく方針です。弊社は成長段階ですから、人材の強化は喫緊の課題として取り組んでいます。会社と製品のさらなる進化のために、優秀な人材の確保は欠かせないと考えます。

編集後記

平岡社長は「若い人ほど小さくても伸びている会社に入るべき。その中のカルチャーに触れて成功体験を積むことで、エスカレーター式に一緒に成長するでしょう」とコメント。若年層へのメッセージとして、企業の成長力の重要性を強調した。

ベンチャー精神が旺盛でフレンドリーな平岡社長は、今後の商圏を国内だけでなく需要の高い海外にも向け、さらなる高みを目指す。

平岡秀一/1961年生まれ、大阪府出身。1984年日立西部ソフトウェア株式会社(現・株式会社日立ソリューションズ)に入社。主に銀行や証券会社で利用される、OLTPの設計・開発に従事。その後、マイクロソフト株式会社(現・日本マイクロソフト株式会社)に入社。2001年株式会社インスパイア取締役、2002年日本駐車場開発株式会社の監査役に就任。自分でソフトウェアをつくりたいとの思いから、2003年株式会社シアンス・アール(現・株式会社サイエンスアーツ)を設立。