※本ページ内の情報は2024年4月時点のものです。

大阪府八尾市に本社を置く木村石鹸工業株式会社。家庭用から業務用まで、人と環境にやさしい石鹸や洗剤を製造・販売している。家業を継いだ4代目社長の木村祥一郎氏に、就任までの経緯やビジネスへの思いをうかがった。

石鹸メーカーの4代目を継ぐまで――父への反発、ITとの出会い

ーー木村社長のご経歴を教えてください。

木村祥一郎:
木村石鹸工業の4代目として生まれて、将来は会社を継ぐことを望まれながら育ちました。中学生になると反発心が芽生え、身近すぎる商売に嫌気が差すようになりました。昔は工場の2階に住居があり、僕は家と仕事場が離れている暮らしに憧れたのです。アートへの興味がふくらんだことから、大学では美術芸術学を専攻しました。

大学時代には、映画サークルの仲間を通してインターネットに出合いました。1995年はネットの黎明期で、「自分たちの映画をネットで発信できる時代が来る」と衝撃を受けたものです。アメリカでYahoo!やNetscapeが話題となった頃、先輩の提案で検索エンジンをつくることになりました。人気を得たサービスを法人化して18年が過ぎ、父も息子に家業を継がせることを諦めていたと思います。

ーー貴社に入社する転機があったのでしょうか?

木村祥一郎:
父が社長業を降りてから経営が上手くいかなくなり、父から相談を受けたことがきっかけです。外資系会社の代表経験がある知人を父に紹介し、その知人に経営を見直していただいたのですが、組織の急激な変化に対応できず、辞めてしまう社員が現れました。僕は40歳を超えてIT業界のプレイヤーとして一段落したこともあり、さすがに無視できない木村石鹸工業の状況を立て直すことにしたのです。

3年後には再びIT企業に戻るつもりでしたが、ものづくりの面白さや家業の魅力について、何も知らなかったことに気付きました。ポジションを固めず、みんなで協力し合う形は前職の創業時の雰囲気に近く、感動も覚えました。会社が不安定な期間に生まれたネガティブな雰囲気は変える必要がありましたが、根本的には協力的で前向きな社員が多かったのです。

自社ブランドの育て方――営業と実店舗販売の重要性

ーー自社ブランドをつくった背景をお聞かせください。

木村祥一郎:
僕は会社の営業利益がゼロで、赤字に突入するタイミングで入社しました。2013年頃のビジネスモデルはOEMと業務用事業に分かれ、売り上げの70%を占めるOEMの利益率は毎年下がっていたのです。OEMは2社に依存していたため、交渉においても不利な状態でした。自社の販路をつくり、OEMの取引先も分散できれば、経営状態は改善すると考え、2015年に自社ブランドを立ち上げました。

自社ブランドを通して会社の知名度が上がり、OEMの発注元も約20社に拡大しました。ネット通販の伸びしろも感じていますが、購買のきっかけはやはり店頭が一番多いため、営業はおろそかにしません。実店舗でのお客様と商品との出合いがネット通販の売り上げにもつながるので、今後も取り扱い店舗数を増やしていこうと思います。

リピーターが多い理由――「正直な会社」というスタンス

ーーメーカーとしての強みを教えてください。

木村祥一郎:
自社商品に自信があり、消費者に正直であろうとする姿勢は弊社の特徴だと思います。ネット上は「売れたらOK」で顧客満足度は関係ないというような風潮もあり、広告やマーケティングに不信感を持つ人が多いと思います。

たとえば、「合成界面活性剤は悪」と謳うメーカーがありますが、合成界面活性剤にもメリットがあります。「ノンシリコンシャンプーは自然派でシリコンは髪に良くない」というイメージも、業界のマーケティングが生み出したものです。自分たちのポジションを取るために極端な誤解を与えることが、ユーザーのメリットとは思えません。

商品の良い面・悪い面を説明した上で、お客様に選んでもらうのが弊社のスタンスです。発信する情報量は増えますし、お客様にとってもご自身で考えるという面倒はあるかもしれませんが、「これなら間違いない」と言い切る売り方はしたくないのです。企業のスタンスに信頼や共感を寄せてくれる方と関わりを持ち続ければ、弊社のような小さい会社は成り立つと実感しています。

ーー今後の展望もお話しいただけますか。

木村祥一郎:
他の誰よりも「社員が自慢できる会社」を目指しています。シャンプー&コンディショナー「12 / JU-NI(ジューニ)」は、1人の社員が5年ほどかけて開発したものです。自分が良いと思うものを、自由に追求できる環境だからこそ生まれたヒット商品だと思います。

能力を発揮する場所を自分で調整できると、パフォーマンスが伸びるはずです。これからも会社都合の組織づくりはせず、社員にとって働いていて楽しい会社であり続けたいと考えています。

編集後記

幼少期に抱いた家業への嫌悪感を乗り越え、見事に立て直した木村社長。仲間と立ち上げたITベンチャーでの経験から、「事業を拡大しながらも職場のアットホームな雰囲気を保ちたい」という思いに心の温かさを感じた。誠実な企業が生み出す商品は、これからも多くの人の心に留まるだろう。

木村祥一郎/1972年生まれ。1995年に大学時代の仲間数名とITベンチャー企業を立ち上げ、18年間にわたり、商品開発やマーケティングを担当する。2013年、家業である木村石鹸工業株式会社へ入社。2016年、4代目社長に就任。石鹸を現代的にデザインした自社ブランド商品を展開。OEM中心の事業モデルから、自社ブランド事業への転換を図る。