2020年に始まったコロナ禍では、特に人流の抑制が大きな課題となった。多くの企業や自治体が人流の予測と抑制に力を入れる中、「人流データ」という新たなマーケットを切り開いて躍進したのが株式会社unerryだ。
人流データの集積と解析を行う同社の代表取締役社長、内山英俊氏が意識しているのは「常に変化すること」。
「弊社は、1年後には全く新しいチャレンジを行っている会社だ」と話す同氏に、会社としてのターニングポイントや経営者としての価値観について聞いた。
情報配信のニーズに気づき人流データの会社を創業
――内山社長の経歴や創業背景について教えてください。
内山英俊:
もともとアメリカのミシガン大学院でコンピューターサイエンスを学びながら、AIの研究もしていました。そのときに、「データや技術は世界を変えるものなのだ」と強く実感しました。
その後、コンサルティング会社に5年ほど勤めてから、2007年に独立。飲料メーカーや小売企業向けに、モバイルアプリやモバイルサイトをつくる事業をスタートしました。
企業向けアプリの事業を進める中で、「その企業の周りにいる人たちにも、もっと情報を配信したい」と思うようになり、また、当時は情報を配信している企業があまりなく、ニーズがあると感じて2015年にunerryを創業しました。
リアルとデジタルが融合した「環境知能」が備わった未来へ
――貴社の事業について詳しく教えてください。
内山英俊:
弊社は、チラシアプリや地図アプリなど、100を超えるモバイルアプリと提携し、それらのアプリから人流のデータを集めて蓄積する会社です。現在、月間で800億件以上のデータを取り扱っています。
弊社の主な顧客は小売業者、消費財メーカー、不動産会社、自治体など。たとえば小売業者に対しては、人流データを活用した分析と広告のサービスを提供しています。
具体的には、商圏内のお客様が自店舗や競合店を訪れる時間帯や、どのようなライフスタイルの人が多く訪れているかなどを弊社が解析します。この解析結果をもとに弊社の営業担当者が、どのようなマーケティング施策を行えばターゲット顧客に響くのかを考えたうえで、各企業に対して広告配信サービスを提案します。
――貴社のサービスの特徴や魅力はどういった点にありますか。
内山英俊:
消費財メーカーの多くは、テレビ広告を中心に宣伝を展開してきましたが、それで実際にどのくらいの来店や売り上げに繋がったのか、効果を正確に計測するのは難しい状況です。しかし、弊社のサービスでは、たとえば「テレビ視聴者における来店率」といった観点での効果計測が可能。これは【小売業のデジタル変革】への貢献でもあると思います。
また、自治体や不動産会社がまちづくりを進めるためには、駅前にどのような人が集まっているかに関するデータが必要です。こういったスマートシティ事業にも、弊社のサービスは役に立ちます。
どれだけデジタル化が発達したとしても、消費の9割以上はリアルな社会で行われています。「混雑してお店に入れなかった」「お店に行ったらほしいものが欠品していた」など、リアル社会の非効率を弊社の技術が解決して、よりスムーズで心地よい社会をつくっていく。unerryではこうした「環境知能」(※)の実装を目指しています。
※「環境知能」とは:意識してコンピュータを操作するのではなく、IoTデバイスが環境に遍在し状況を賢くセンシングすることで⾃然な形で必要な情報が提供されたり安全安⼼な状況が保持される、環境が知能を持ち、くらしをサポートする世界。
グローバル展開の実現で売上高100億円を目指す
――貴社のターニングポイントを教えてください。
内山英俊:
1つは、分析・広告・ソリューションの3つの事業を始めようと決意した2018年です。2015年に創業して2018年までは、これからどうしようか最も悩んでいた時期だったので、この3つの事業に決めた瞬間はとてもパワーが出ました。
2つ目は、コロナ禍が始まった2020年です。僕たちの人流データの価値が社会から大きく認められた瞬間で、そこからもう一段階成長しました。
――今後の展望を教えてください。
内山英俊:
小売業のDX事業、消費財メーカー向けの事業、スマートシティ事業の3つが上手く回るようなモデルをつくったうえで、そのモデルをグローバル展開し、2028年6月期をめどに売上高100億円を実現することです。すでに、カナダに出資先もあります。
加えて、長く日本で活躍し続けている企業と積極的に提携し、弊社のサービスを日本全体に浸透させていきたいと思っています。
事業の成長に必要な生産性を確保するためには、弊社のミッションとバリューを社員に浸透させることが大切です。そのほか、自動化や魅力的な商品をつくれる環境づくりを進める必要もあります。
また弊社は、どんな町やお店に行ってもunerryのソリューションが組み込まれていて、心地よい未来のためのインフラとして溶け込んでいる「unerry, everywhere」という世界観を実現したいと思っています。この世界観に関しても、社員に引き続き伝えていきたいですね。
編集後記
取材中、内山社長は「社員一人ひとりに個性や挑戦したいことがあるので、その接合点をつくるのが社長である僕の役割」と語った。
その力強い言葉からは、人流というデータを扱うリーディングカンパニーとしての誇りだけでなく、社員の幸せを第一に考える経営者としての強い責任感が垣間見えた。
内山英俊(うちやま・ひでとし)/ミシガン大学院でコンピューターサイエンスを学ぶかたわら、研究所でAIエンジニアとして勤務。外資系コンサルティング会社にて、事業戦略・企業再生などを手がけた後、事業会社を経て、2015年にunerryを創業。業界団体LBMA Japanの理事を務めるなど、位置情報業界の発展にも努める。