※本ページ内の情報は2024年4月時点のものです。

安価な素材でありながら耐久性、耐水性などに優れ、今や我々の生活に欠かせないビニール。しかし、環境問題への配慮が叫ばれる昨今、ビニールに対する世間の評価は厳しいのが現実だ。

そんな中でも顧客から愛され続け、ビニールカーテン業界売上No.1企業へと成長した石塚株式会社。今回は代表取締役社長の熊谷弘司氏に社長就任のきっかけ、企業改革、今後の展望についてうかがった。

社員とその家族を背負う覚悟で挑んだ、仕入れ先企業での4年間

ーー社長就任の経緯を教えてください。

熊谷弘司:
弊社は塩化ビニールをメインに取り扱っているファミリー企業で、私で3代目です。創業者である祖父の葬儀で、当時学生だった私は参列者から、「ここのお葬式に来ている社員とご家族の生活を背負うんだから君も大変だね」と言われたことがありました。

当時は、その責任に耐えられる自信がなくて会社を継ぐつもりはありませんでした。しかし、就職活動の時期になり、父に卒業後について問われた時に「第一志望の企業に受かったら第一志望に行きます。落ちたら会社を継ぎます」と宣言してしまったのです。結果的に、その賭けに見事に負け、そこで会社を継ぐ覚悟を決めました。

ーー会社を継ぐ前にアキレス株式会社に入社した理由はなんでしょうか。

熊谷弘司:
弊社のメインの仕入れ先で、父からまずはそこで「4年間、修業してくるように」と言われました。アキレスでは上司や先輩に恵まれ、入社早々、一人で交渉に出向かせてもらったり、新しい商品を作らせてもらったり、多くのことを学びました。

また、そういった中で「お客様の求めるものを提供する」という当たり前の精神を叩き込んでいただいたので、弊社の「社長は社員第一主義、社員はお客様第一主義」という経営方針には、アキレスで学んだ精神を盛り込んでいます。

業界売上No.1企業となるまでの道のり

ーー貴社の事業内容と強みはなんでしょうか。

熊谷弘司:
創業当初は塩化ビニールの卸売から始まりましたが、父の代で文房具向けに加工をするところまで事業領域を広げました。現在は、ペーパーレスが普及し、文房具の需要が減ってきたので、同じ塩化ビニールを使ってビニールカーテンの製造から取り付け工事までを行うことが主な事業内容です。材料の販売から製品の取り付けまでのどの段階でも対応できる会社は少ないので、お客様に利便性を感じていただいています。

ーー社長就任後、取り組んできたことを教えてください。

熊谷弘司:
「自分の考え方や会社の方針を社員に伝える」ということを意識してきました。たとえば、一番最初に取り組んだことは個人面談です。社員一人ひとりと年に一度、直接話すことで会社の問題や改善すべきところが浮き彫りになり、それを一つずつ潰していくと会社の状態が上向いていきました。また、「部下の声が私の所まで上がってこないと同時に、私の声も部下に届いていない」と感じたので、社内のポータルで私の考えを週に1回発信しました。

現在はどちらも行っておりませんが、経営計画書という形で冊子にして社員に渡し、私の考えを伝えるようにしています。

快適な作業環境を提供し続けることが使命

ーー直近のビジョンや、今後の新商品開発について考えていることはございますか?

熊谷弘司:
引き続きビニールカーテンのシェアを広げて、カーテンの専門企業として地位を高めていきたいと思っています。しかし、世間のビニールに対する風当たりがこれからも強いと思っているので、リサイクル事業にも力を入れて、環境に配慮した取り組みも形にしたいと思っています。

「どのように回収するのか」という問題点はあるものの、ビニールはリサイクル性が高い素材です。そこを多くの方に知っていただいて社会的地位を上げることができれば、業界がさらに発展するのではないかと考えています。

また、ビニールカーテンにとどまらず、紫外線をカットするための窓や遮熱効果のある天井シートなど、これからは製造業向けに、工場のリフォーム業者という枠組みで取扱商品を広げていきたいと思っています。工場で働く人たちに快適な作業環境を提供することが、我々の使命だと考えています。

面接でうまくしゃべれなくても活躍の場を与える会社の風土

ーー貴社に入社してほしい人物像はどのような方でしょうか。

熊谷弘司:
素直に一生懸命に取り組める方、会社の考えに共感していただける方です。それ以外は特に求めていません。以前、採用面接で緊張して何もしゃべれない方がいました。しかし、一生懸命に伝えようとするその姿勢に好印象を受け、採用を決めたことがありました。

その人は入社後も、やはり緊張しやすい性格なので、お客様のところへ行ってもうまくいかなかったり、電話対応も苦手でした。そのため、最初の1年ぐらいは周囲から認められなかったのですが、素直に全部受け入れてくれる性格だったので、急激に成長し、同時期入社のメンバー内で最速で係長になりました。現在はWebマーケティングの部署で活躍しています。

ーー貴社の魅力をアピールしてください。

熊谷弘司:
「社長は社員第一主義、社員はお客様第一主義」と申しましたが、これは社員を甘やかすという意味ではありません。社員がきちんと成長できる環境をつくるという意味です。一人ひとりに、どこに行っても食べていける社会的な強さを身につけてもらえることは、弊社の魅力だと考えています。

編集後記

社員一人ひとりと向き合い、会社をビニールカーテン業界No.1企業へと成長させた熊谷社長。今後は、環境に配慮したリサイクル分野でも、業界をリードしていく可能性を感じさせる。創業から60年以上が経った今も、新たな領域に挑戦し続ける石塚株式会社に今後も注目したい。

熊谷弘司/1982年、東京都出身。東京理科大学理工学部応用生物科学科を卒業後、アキレス株式会社へ入社。3年半営業を、半年間財務を担当し、営業時代には商品開発も手掛けた。その後、2010年に家業である石塚株式会社に入社し、2018年に代表取締役社長に就任。自身の事業継承の経験を活かした事業承継コンサルティングも手掛ける。