
中古車輸出業界において、価格競争や信用構築は常に大きな課題となっている。インターネットの普及により、世界中から簡単に取引できるようになった一方で、国際間取引における信用リスクは依然として存在する。また、各国の規制や為替変動、世界情勢の影響を受けやすい業界特性から、安定的な事業運営には高度なノウハウと確かな信頼関係の構築が不可欠だ。
ラマデービーケイ株式会社は1988年の創業以来、80カ国以上への輸出実績を持つ輸出商社だ。代表取締役であるラマナヤケ ジャガット チャンダナ氏に、高品質な日本車の価値を世界に届けながら、顧客との信頼関係を着実に築き上げてきたこれまでの歩みをうかがった。
ITを活用した先駆的なビジネスモデルが成功の一因
ーー来日の経緯から創業までのお話を聞かせてください。
ラマナヤケ ジャガット チャンダナ:
私の父はスリランカで、日本から車を輸入して販売する会社を営んでいました。当初、イギリスの大学進学を考えていたものの、将来的に父の自動車輸入事業を継ぐなら、日本文化を学び、日本語習得の必要性があると判断し、進路を変更して来日しました。
3人の姉妹が国からの奨学金で留学する中、唯一親の支援で留学することになり、「ただ勉強して帰国するだけでは申し訳ない」という思いから、大学1年生の時にビジネスを始めることを決意しました。そこで、父親の仕事を通じて培った自動車業界の知識を活かし、留学生向けの中古車販売を始めたのです。
事業は1台の車を仕入れて販売するところからスタートしましたが、「車を買うなら彼に相談すると良い」という口コミが留学生たちの間で広がり、次第に信頼を得るようになるとともに、事業も急速に成長していきました。
月に10台以上を扱うようになると、一人では対応が難しくなったため、経験豊富な日本人スタッフを採用しました。そして、2LDKのマンションの一室を事務所として利用し、大学の授業の合間を縫いながら、車両の仕入れや営業活動に奔走する日々を送ったのです。
当時は授業中でも取引の連絡に対応する必要があったため、ポケベルを常に携帯していたことは良い思い出です。大学で学んだ経営や銀行取引、貿易の知識をビジネスの場で実践できることが非常に楽しく、大きなやりがいを感じながら取り組んでいました。
ーー起業に成功した秘訣はどこにありましたか。
ラマナヤケ ジャガット チャンダナ:
弊社の創業は1988年ですが、まだインターネットが一般的ではない時期にいち早くウェブサイトを立ち上げたことが成功要因の1つだと思います。トップページ、在庫情報、お問い合わせの3ページのみという簡素なものでしたが、当時としては画期的な試みでした。
特に革新的だったのは、中古車の価格を公開したことです。他社のウェブサイトには価格が記載されていないのに対し、弊社のサイトには全ての在庫車両の価格を掲載していました。その結果、購入意思の有無にかかわらず、日本の中古車価格の相場を知りたい人々が、世界中から私たちのサイトを訪れるようになったのです。
この戦略は大きな成功を収め、インターネット部門を新設するほど問い合わせが殺到。従来のファックスや電話による営業活動を上回る成果を上げ、グローバル展開への大きな転換点となりました。
大事なのは信頼関係の構築とお客様の夢を叶えるサポート役であるという意識

ーー事業内容について教えてください。
ラマナヤケ ジャガット チャンダナ:
弊社の主な事業は、日本製の新車や中古車を、海外の個人や法人、各国の政府機関に輸出することです。中古車市場は季節要因や人気などで価格が変動します。海外ニーズや市場の情報をいち早く入手し、タイミングよく仕入れて価格を抑え、顧客が求める車を提供することで他社との差別化を図っています。
日本では車を持つことは普通のことかもしれません。しかしながら、車を持つことが一生の夢という国も存在し、10年かけて購入資金を用意する人もいます。そういった方々にとって、見ず知らずの海外企業に全額を前払いで支払い、1ヶ月以上かけて車が届くのを待つことは大きなリスクです。私たちはこのことを常に心に留め、「売って終わり」ではなく、きめ細かなアフターサービスを展開することでリスクの解消を図っています。
日本の中古車の部品は、海外では手に入りません。そこで弊社は3年間の部品供給保証をし、部品パーツを購入できるようにしています。そのほかに、迅速なクレーム対応や現地でのアフターサポート体制の構築などを実施しています。
ーー貴社の特徴についてお聞かせください。
ラマナヤケ ジャガット チャンダナ:
現在、30名以上の営業スタッフが在籍し、世界各国の市場に対応しています。特徴的なのは、担当地域を固定せず、営業担当者が自由に案件を選択できる制度を採用していることです。
一人の担当者が退職したときに、その国の市場に関する知識が失われてしまうリスクを避けるため、このような体制を採用しています。また、営業利益を給与に直接反映させる仕組みや、非営業部門のスタッフにも全社利益から還元する制度を設けることで、全従業員のモチベーション向上を図っています。
私たちのビジネスは、単なる中古車商売ではなく、誰かの夢を叶えるためのサポート役だと考えています。この姿勢が、30年以上にわたって顧客との信頼関係を築き上げてきた秘訣なのかもしれません。
未来を見据えた事業展開
ーー今後のビジョンを教えてください。
ラマナヤケ ジャガット チャンダナ:
昨年、売上高100億円を達成し、業界でも確固たる地位を築いています。海外展開においては、現地での直接販売は行わず、販売パートナーのサポートに徹する方針を貫いています。直接販売の方が利益率は高いのですが、現地の販売パートナーと競合せず、お互いに利益が出る体制が必要と考えたからです。
今後も、各国のパートナーとの信頼関係を大切にし、彼らの成長をサポートする立場でありたいと考えています。また、アフリカなどの新興市場への展開も視野に入れており、政府向けの特殊車両供給や、リーズナブルな価格帯の車両提供など、各国の実情に合わせたアプローチを検討しています。
組織面では創業者一人での意思決定から、システマティックな経営体制への移行を進めているところです。次世代への事業承継を見据え、コンサルティング会社の支援を受けながら、組織体制を整備しています。弊社は、取引先も顧客も海外がターゲットで、さまざまな国籍を持つスタッフが在籍しています。語学力を生かしたい方や勉強したい人にとっても、大きなチャレンジができる会社だと思っています。
編集後記
取材を通じて最も印象的だったのは、「顧客の夢を叶える」という経営哲学だ。単なる中古車輸出ビジネスではなく、世界中の人々の夢の実現をサポートするという視点は、グローバルビジネスの本質を突いている。
また、創業期からITを積極的に活用し、業界の常識を覆す戦略を展開してきた先見性も特筆に値する。新たな時代を迎える自動車産業において、こうした顧客本位の姿勢と革新的なアプローチは、ますます重要になっていくだろう。

ラマナヤケ ジャガット チャンダナ/1966年生まれ。関東学院大学卒業。東京情報大学大学院修了。1988年自動車輸出会社のラマデービーケイ株式会社を設立、代表取締役に就任。