人工衛星から得られるデータを活用した、農地管理の効率化サービスを手掛けるサグリ株式会社。作物の生育状況や種類、土壌の状態などを高い精度で判別できるというのだから驚きだ。
なぜ衛星データで農業の効率化に取り組もうと思ったのか。代表取締役CEOの坪井俊輔氏に話を聞くと、農業の効率化が子どもたちの「夢」につながるという意外な構図が見えてきた。
衛星データ活用で解決すべき世界レベルの課題とは。そして、サグリが目指す未来とは。事業を始めた背景や思いも含めて坪井社長にうかがった。
宇宙への夢を見ていた学生時代
ーー坪井社長は幼少期や学生時代をどのように過ごしていましたか?
坪井俊輔:
私は幼少期からサイエンスに強い興味を持っていました。「知らない世界を知りたい」という探求心が強く、将来は漠然と宇宙飛行士になりたいと思っていました。
中学生になると今度は「宇宙エレベーター」に興味を持ちました。ロケットを使わなくても宇宙にいけることを夢見た私は、宇宙エレベーターの研究者を目指すようになります。
しかし、周囲の対応は冷たいもので、途方もない夢を語る変わり者だと思われたのです。それからは、自分の夢をハッキリ言えなくなり、自分がやりたいことも分からなくなっていきました。
そんな私を立ち直らせてくれたのは、大学時代にイギリス留学で出会った人々です。夢を堂々と語る人が多く、彼らのおかげで自分も夢に向き合えるようになりました。
そして、宇宙を目指したいという思いが再燃し、大学で宇宙研究を始めました。宇宙エレベーターとは違う分野でしたが、大好きな宇宙に携われていることが嬉しかったですね。
「夢を見られる環境」をつくるためにサグリを立ち上げる
ーーサグリを立ち上げた経緯を教えてください。
坪井俊輔:
サグリを立ち上げた理由は、世界中の子どもたちが「夢」を語れる世界を目指すためです。
私は21歳のときに「株式会社うちゅう」という、子どもたちが自分の夢を堂々と語れるようになるための教育事業を立ち上げました。海外へ出向く機会もあったのですが、ルワンダへ行ったときに、多くの子どもが「夢を見たくても見られない現状」を抱えていることを目の当たりにしました。
ルワンダの子どもたちが優先すべきは、学業よりも農業の手伝いでした。しかも就農環境は良いものではなく、とても夢を語るような余裕はありませんでした。
子どもが夢を語るには、まず夢を見られる環境をつくる必要がある。そう感じた私はサグリを立ち上げ、農業を効率化する事業を始めました。世界には似た境遇にある子どもがたくさんいます。そんな子どもたちの現状を変えたいという思いからサグリは始まったのです。
最大の強みは人工衛星データを農業に活かす「レシピ」
ーー貴社の強みを教えてください。
坪井俊輔:
弊社の強みは、人工衛星から得られるデータを農業に応用する技術、いわゆる「レシピ」を持っていることです。このレシピのおかげで農地状況を見える化し、ひいては農地管理にかかるリソースの大幅削減が実現できます。
また、ユーザーに特別な技術がいらない点も強みです。自動的に農地が登録され、解析が始まるので、データ解析が苦手な方でも気軽に使えます。
世界中の農業を効率化するために認知拡大に取り組む
ーー仕事に取り組む中で嬉しかったことや印象に残ってることはありますか?
坪井俊輔:
サービスの良さが徐々に認知されるようになったのが何よりの喜びです。お客様から喜びの声をいただいたときや、ほかの方に紹介してくださったときは、弊社のサービスが農業に役立っていると実感できます。
過去には営業に行っても門前払いされていた時期もありましたが、今はサービスの良さが浸透してきている手ごたえを感じます。今後も世界中の農業を効率化していくために、認知拡大に取り組む方針です。
さらなる事業拡大を見越した人材確保に取り組む
ーー今後取り組んでいきたいことは何ですか?
坪井俊輔:
サービスの認知度をさらに上げ、新規取引先を開拓していきたいと考えています。事業の実績がたまってきたので、今までの新しいサービスを積極的に試すアーリーアダプター層だけでなく、さまざまな層にアプローチしていきます。
そのための新規メンバー獲得にも力を入れたいと考えています。営業部門を中心に、あらゆるポジションで新たなメンバーにアサインしてほしいですね。
おかげさまで、最近は勢いのあるスタートアップ企業として注目される機会が増えました。宇宙や農業、AIなど関連業界で活躍している方や、自分のビジョンを持っている方、自ら道を切り開くチャレンジ精神のある方などに積極的に参加してもらいたいと思います。
若者に必要なことは「自分の信じる道に全力で取り組む」こと
ーーこれから就職する若者に向けてメッセージをお願いします。
坪井俊輔:
若者たちに伝えたいのは「自分の信じる道に一生懸命取り組んでほしい」ということです。私が21歳で起業したとき、親に心配されたり、周囲から意見されたりとネガティブな反応をよくもらいました。しかし、自分の信じる道を諦めはしませんでした。そして、歩み続けてきた結果が今の私を形作っています。
自分の信じる道があるのなら、ぜひ一生懸命取り組んでみてください。本気で取り組めば夢を笑う人は自然と消えていきますし、助けてくれる人も現れるものです。自分が頑張ったことは人生の財産になります。若さという武器を活かし、全力で取り組むことで見える未来もあるはずです。
編集後記
世界中の子どもたちが夢を見られる世界をつくる。一見果てしない目標に思えるが、坪井社長の事業活動を知ると、一歩ずつ具体的な道筋に沿って進んでいることが分かる。
いずれ世界中の農家がサグリのサービスを使うようになれば、今は劣悪な環境にある子どもたちの自由な時間も少しずつ増えていくかもしれない。そんな未来を夢見て、坪井社長は今後も自分の道を邁進し続けるだろう。
坪井俊輔/横浜国立大学理工学部機械工学科卒業。2018年にサグリ株式会社を設立。農林水産省「『デジタル地図』を活用した農地情報の管理に関する検討会」委員。Forbes「世界を変える30歳未満30人」の1人に日本版およびアジア版で選出。MITテクノロジーレビュー「未来を創る35歳未満のイノベーター」の1人に選出。自由民主党デジタル社会推進本部リバースメンター。