※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

人材サービス業界は、少子高齢化の影響による労働人口の減少、テレワークの普及による働き方の変化、AIの台頭など、時代の変化の中で注目を浴びている。

そんな人材サービス業界のパイオニアとして、創業以来60年にわたって人材派遣・人材紹介・アウトソーシングを軸に事業を展開し、人と企業の成長を支援してきたフジアルテ株式会社。

「多様な人材に活躍の場を提供し、企業には高付加価値サービスを提供する」という経営ビジョンのもと、性別や年齢や国籍に関わらず働く機会の創造や活躍の場を提供・推進し、多様な人材の雇用創出と拡大を目指している。

またデジタル技術革新やIoT・AIによる、多様化・高度化するお客様ニーズを先取りしながら、品質や生産性の向上に取り組み、人材の活用に関する総合的なコンサルティングで高付加価値サービスを提供している会社だ。

今回は、2代目社長として、また人材サービス業界団体の副理事として業界の健全化と働く人の社会的地位向上に向けて取り組んでいる代表取締役社長の平尾隆志氏から、社長就任のエピソード、父から受け継いだ精神、盛和塾で学んだ理念、今後の展望などについてうかがった。

想定外の社長就任

ーー大学卒業後、すぐに会社を継がず、異なる業種の会社に就職したのはなぜでしょうか。

平尾隆志:
私は控えめな性格で、人前に出て人を引っ張るようなリーダータイプでもなかったので、社長は無理だろうと思っていました。だから、全く別の業界でサラリーマンとして働きたいと考えていました。

ーーその後、お父様の会社に入社したきっかけを教えてください。

平尾隆志:
父の病気が大きな理由で、母にも「会社を手伝ってほしい」と言われました。手伝うくらいなら問題ないと考え、当時働いていた会社を一旦辞めて、父が元気になったらまた元の会社に戻ろうと考えていました。この時点ではまだ会社を継ぐつもりはなく、むしろ継ぎたくないという気持ちの方が強かったのです。

父から受け継いだ現場第一主義の精神を胸に社長就任へ

ーー会社を継ぐ際に先代から伝えられた言葉はありますか。

平尾隆志:
父には、「商売がうまくいっても謙虚な気持ちを失わず、汗水流して働いてくれる現場の従業員への感謝を忘れずにいなさい」とよく言われ、創業の精神である「現場第一主義で働く人とお客様を大切にする」ということを教えられました。

ーー会社を継ぐ上で意識したことはありますか。

平尾隆志:
私の役割は何かを考えました。会社を継いだ当時、社内は問題ばかりでした。

しかし、それとは裏腹にお客様からの評判は抜群に良かったのです。また、従業員から会社への評価も高く、お客様や従業員との信頼関係の構築がうまくできたからこそ、父の会社はここまで大きくなったのだと実感しました。

そこで、会社の急激な成長に追いついていない管理体制を整備し、経営基盤をつくるのが私の役割であるということを強く意識し、分社体制を引きました。その中の一社で社長として就任し、個人事業から企業としての経営基盤の整備に取り組み、みんなが安心して働ける環境を作っていきました。

倒産の危機をきっかけに、自分の課題を知る

ーー盛和塾との出合いのきっかけを教えてください。

平尾隆志:
私が入社して5年目に父が亡くなりました。その後、ITバブルの崩壊による不況で、倒産の危機に陥ってしまったことがありました。

これをきっかけに、私は父と経営者としての違いを大きな課題として認識しました。

そのようなときに京セラの名誉会長で盛和塾の塾長である稲盛和夫さんに出会い、大きな転機になったのです。

ーー盛和塾で学んだ理念を教えてください。また、そういった考え方が実際の現場で生かされていると実感したエピソードを教えてください。

平尾隆志:
盛和塾では経営者としての考え方「経営哲学」と、人としての生き方「人生哲学」により、心を高め、経営を伸ばし、従業員の物心両面の幸せを追求し、社会に貢献することが経営者の使命であることを学びました。

その学びを経営理念として制定し、理念を実践する行動指針としてフィロソフィ手帳を作成し、研修などを通じて理念の浸透に取り組みました。また経営システムとしては、アメーバ経営を取り入れることで全員参加の経営も実施しております。

そのおかげで現在では、当時と比べ私自身もまた会社も大きく成長を遂げる事ができたと考えております。

実際に新型コロナウイルス感染・拡大の際には、私が指示をしなくても、従業員それぞれが経営理念を軸に行動指針に基づいて自分自身で考え、私やお客様の期待を上回る行動をしてくれました。

結果、倒産の危機という経験からピンチをチャンスに変え、私は多くのことを学び、試練や困難を乗り越えることができました。

働く人、お客様、社会のために

ーーお客様に満足していただくために、貴社ではどのような創意工夫をしていますか。

平尾隆志:
お客様の要望や課題を把握し、改善提案に取り組み、目標達成した内容を定期的にお客様に報告しております。そのことがお客様の安心・信頼、そして満足につながっているため、長きにわたりお取引いただいたり、お客様からの営業紹介が多いのだと思っております。

また、定期的にお客様向けに抱える問題を解決できる情報をいち早く提供するセミナーを開催することで、課題解決のヒントを得て、弊社のことを知っていただき、仕事の依頼を受けるケースが多くあります。

他にも、社内で成功事例発表会を行っています。社員が頑張って努力したことを成功事例としてそのプロセスをまとめ、全員の前で発表し、評価し、表彰することでモチベーションが高まり、さらに社員同士が学び合い、高め合い、成長できる機会になるように工夫しています。

ーー常にお客様視点でのサービス開発に取り組まれているのですね。人材登用の面でも先進的な取り組みをされているとお聞きしました。

平尾隆志:
弊社では、女性やシニア・グローバル人材など、性別や年齢や国籍に関わらず働く機会の創造や活躍の場を提供することに力を入れています。

特に30年以上前から外国人労働者の雇用を積極的に推進し、グローバル人材が活躍できる場を提供してきました。当時から少子高齢化の兆しがありましたので、将来を見越して海外人材の受け入れを開始しました。

日本国内でも事例が少ない時代でしたが、住居の手配や生活習慣の違いにともなうモラル教育の実施、翻訳・通訳対応による言葉の問題に関しても安心して働き、生活できるようにサポートしました。

ーー先頭に立って様々な取り組みをされている貴社ですが、業界全体の地位向上にも目を向けているとお聞きしました。詳しく教えていただけますでしょうか。

平尾隆志:
日本BPO協会という製造系人材サービスの業界団体で副理事長を務めています。業界で働く人のキャリア形成支援やコンプライアンスを推進しながら、業界の健全化と従業員の社会的な地位向上に取り組んでいます。

ーー今後、どのようなことに力を注いでいきたいですか。

平尾隆志:
まずは、AIやIoT技術やロボットの進展に伴う、産業構造の変化に対応できる組織づくりに取り組み、時代の変化に適応しながら、付加価値の高い人材サービスを提供することを目指していきます。

あわせて、営業部門の体制管理や、営業スタッフの教育や管理の仕組みづくりに力を注いでいきたいと考えています。

営業スタッフも含め、従業員が成長して、働きがいのある環境づくりには、今後も引き続き力を入れていきたいと考えています。

最終的には、人材サービス業界で働く人達が夢や希望を実現でき、誇りがもて、憧れられるような業界にしていきたいと思っています。

ーー20代から30代の方々へ、メッセージをお願いします。

平尾隆志:
自分のキャリアは自分で切り開くという意識を大事にしてほしいですね。世の中の役に立つために、自分がどう成長するべきかを考え、能力の向上だけではなく、人間性を高めることで、どのような世界でも活躍できる人になってほしいと思います。

編集後記

亡き父の精神と盛和塾で学んだ理念を基に、働く人、お客様、社会の全てに貢献できるように尽力する平尾社長。

目まぐるしく変化している人材サービス業界をどのようにして引っ張っていくのか、今後も注目していきたい。

平尾隆志/1967年大阪府生まれ、1990年に大学を卒業後、大手住宅メーカーに入社。1994年フジアルテ株式会社に入社後、1995年に代表取締役社長に就任。2005年日本製造アウトソーシング協会理事に就任し、2017年一般社団法人日本BPO協会理事長、一般社団法人人材サービス産業協議会理事に就任。