
株式会社アド近鉄は、交通媒体社として駅空間や車両内における広告スペースの開発・販売・管理を担うほか、近鉄グループ各社をはじめとした企業をマーケティング領域でサポートする総合広告代理店として事業を展開している。
同社を率いる村上正浩社長は、不動産・ホテル業界を経て広告の最前線に立つ異色の経歴の持ち主だ。同社が目指す「グループのプロデューサー」という未来像、多様な人材が輝ける環境や新規事業への挑戦について、村上氏に話をうかがった。
激動の時代を生き抜いた仕事の哲学
ーー村上社長の入社の経緯や、入社後の印象深い出来事についてお聞かせください。
村上正浩:
私が就職した当時は、鉄道会社による沿線開発が全盛期で、都市開発への強い憧れから、沿線に開発の余地が大きいと感じた近畿日本鉄道株式会社に入社しました。
入社後は、近鉄不動産で営業の仕事に就きましたが、最も印象深かったのはバブル崩壊です。バブル期初期に急上昇した物件価格が、その後急降下する様を目の当たりにしたのです。お客様からの厳しいクレームも経験しましたが、「そういう時こそきちんと向き合え」と先輩から教わりました。不動産はお客様の人生を左右する大きな買い物ですから、その苦しみに真摯に向き合う誠実さが大切だと学びました。
これらの経験から「人のつながり」と「素直さ」、「逃げない」ことが大切だと考えるようになりました。経済の怖さや人の業を若くして学んだことは貴重な経験です。
その後、株式会社近鉄ホテルシステムズ(現:株式会社近鉄・都ホテルズ)への出向などを経て、2024年株式会社アド近鉄代表取締役社長に就任しました。
アド近鉄の変革とグループのプロデューサー構想

ーーアド近鉄の事業内容を教えてください。
村上正浩:
アド近鉄には、大きく分けて二つの事業があります。一つは、総合広告代理店として、クライアント様の課題に応じた広告の企画・制作・メディア戦略の立案と推進を通じてソリューション提供をしていく事業。もう一つは、交通広告媒体を扱う媒体社としての事業で、従来の看板やポスターに加え、デジタルサイネージなどのインパクトメディア開発を推進し、新しい価値を提供しています。
近鉄グループ内で培ったソリューション力を外部にも提供し、今後はグループ外の売上比率も高めていきたいと考えています。
ーー「近鉄グループのプロデューサー」というビジョン実現に向け、どのような点に注力していますか。
村上正浩:
グループ全体の価値向上に貢献できる存在になるということです。そのためには、私たち自身が多様なノウハウを蓄積し、あらゆる課題に対応できるソリューション力を持つ必要があります。
近鉄沿線には多様な文化を持つエリアが広がっていることは、大きな強みですが、その魅力を十分に引き出しきれているとはいえません。たとえば、映画ロケの誘致や行政と連携した地域活性化など、グループの価値向上に資する事業開発に積極的に取り組み、そこで得た知見をグループ外のクライアント様への提案にも活かす好循環を目指します。
一人ひとりの強みを活かせる環境へ
ーー貴社が実施している、働き方改革の具体的な内容を教えてください。
村上正浩:
働きやすい環境を整備するため、フレックスタイム制、グループアドレスを導入しています。また、社員にはモバイルPCとスマートフォンを支給し、部署内でチャットツールを活用して気軽に業務の相談ができるなど、場所にとらわれずスムーズに業務を進められる体制を整えています。若手社員からは、先輩に気軽に相談しやすい、働きやすい環境だという声が多いです。
ーー求める人物像についてお聞かせください。
村上正浩:
お客様のニーズが多様化しターゲットが細分化する現代において、画一的な考えでは対応できません。そのため、弊社ではすべての業務を根本から見直しています。
さまざまな視点や得意分野を持つ人材が集まり、強みを活かして高い提案力を発揮することで、クライアント様が今よりさらに満足できる組織を目指しています。特定の「こういう人」というより、多様な視点を持つ人に来てほしいですね。
ーー採用では、特にどのような分野の人材に期待していますか。
村上正浩:
WEB系のコーディネートができる人材は特に重要です。この分野はさらに拡充したいと考えています。また、駅看板などを設計・構築し維持管理する「施設部」も当社にとって欠かせない存在です。建設や設計、デザインに関する専門知識に加え、安全で高品質な看板をつくり、維持していく技術が求められます。交通広告を扱う媒体社として、この業務は非常に重要であり、会社の根幹を支える役割を担っています。こうした分野に意欲のある方も積極的に募集しています。
挑戦するDNAが生む新たな価値

ーー「アイデアチャレンジ」制度について教えてください。
村上正浩:
これは、社員から事業アイデアを募集し、有望なものは事業化を進める制度です。基本的には私たちの強みを活かせる分野や、沿線の魅力向上に貢献できる事業を推進しています。たとえば「生駒隧道ブランド事業」や、社屋屋上でのサウナ事業の試験運用など、さまざまなチャレンジを通じて、常に新しい可能性を模索しています。
ーーコンテンツ事業にも注力する、その狙いは何でしょうか。
村上正浩:
コンテンツ事業は今後ますます重要になっていくでしょう。VTuberの発信によるヒットや、「ミジュマルライナー」の盛況など、コンテンツの力は非常に大きくなっています。私たちもコンテンツ事業に関わることでノウハウを蓄積し、行政や企業への提案力を高める必要があります。ターゲットが細分化する現代、多様なターゲットに刺さる多様なコンテンツを企画・制作し、最適に届ける力を磨くことがクライアントの満足度向上につながると信じています。
変化を恐れず未来を拓く!アド近鉄の展望
ーー今後、アド近鉄をどのような会社にしていきたいですか。
村上正浩:
近鉄グループのハウスエージェンシーとしての貢献を大前提に、「グループのプロデューサー」へと高めていきたいですね。
そして、グループ内で培ったノウハウをグループ外のクライアント様への提案へ活かす好循環を目指します。そのためにも、まずはさまざまな事業に挑戦しノウハウを蓄積し、真のソリューション事業を展開できるよう経営基盤も強化していきます。
ーー最後に、読者へメッセージをお願いします。
村上正浩:
当社は今、大きな変革期を迎えています。従来の枠にとらわれず、新しい価値の創造に向けて、社員一丸となって取り組んでいます。働き方の見直しを進め、多様な人材がそれぞれの能力を発揮できる環境づくりにも力を入れています。WEBの専門知識を活かしたい方やクリエイティブな仕事に挑戦したい方、交通広告のインフラを支えたい方や、変化を恐れず、新しいことに挑戦したい意欲のある方と、ぜひ一緒に未来を創っていきたいと思います。
編集後記
村上社長へのインタビューからは、未来を見据えた強い意志が伝わってきた。多様なフィールドでの経験と、バブル崩壊という経済危機を乗り越えた体験は、言葉に重みを与える。株式会社アド近鉄は、「グループのプロデューサー」として、さらなる価値創造を目指す企業として進化していくだろう。

村上正浩/1963年生まれ、同志社大学法学部卒業。1987年、近畿日本鉄道株式会社入社後、近鉄不動産で営業に従事。2009年近鉄・都ホテルズ出向、2019年同社専務取締役、2024年株式会社アド近鉄代表取締役社長に就任。