※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

2022年における日本のゲーム市場の規模は2兆316億円。2012年の約9,800億円から10年間で2倍以上も成長した。

業界に追い風が吹くなか、ゲームソフトのヒット作を多数誕生させているのが株式会社サイバーコネクトツーだ。ほかにも、同社制作の漫画「チェイサーゲーム」がテレビドラマ化するなど、活躍を見せている。

同社の代表取締役社長、松山洋氏の経営哲学の裏には、同氏の好きな「週刊少年ジャンプ」の存在があるという。その詳細を聞いた。

一点突破してゲーム業界の歴史を大きく変えた

ーー松山社長は幼い頃からゲームが好きだったのでしょうか。

松山洋:
幼い頃からゲームが好きでした。中高生にもなると親や親戚から「そろそろゲームをやめなさい」と言われるようになりましたが、周りから文句を言われないように、勉強や運動も手を抜きませんでした。

何か好きなものがある人のことを「ファン」と呼びますが、その好きなことを自分で始めるようになると「オタク」と呼ばれ、このオタクの先には「プロ」があります。

私はゲームをやめなさいと言われてきましたが、一点突破したことでプロになり成功しました。周囲の大人には「ダイヤの原石」である子どもたちの才能を潰さないでほしいと思っています。

ーー事業内容について教えてください。

松山洋:
弊社はゲームソフトをつくる会社で、代表作はオリジナルゲーム『.hack』シリーズの他に『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル R』や『ドラゴンボールZ KAKAROT』、『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』のゲームソフトです。どれも本社のある福岡から生まれ、今では世界中の人々にプレイしてもらっています。

昔は「クソゲー」と呼ばれる低品質なキャラクターゲームも多く、幼少期にそういったゲームを買って絶望した自身の体験から、若い世代にはあの絶望感を味わってほしくないと強いこだわりを持って制作を始めました。

実際に弊社の「NARUTO-ナルト- ナルティメット」シリーズはキャラクターゲームのお手本となり、このゲームが登場する以前と以後でゲーム業界の歴史は大きく変わったと思います。

弊社は他社がこだわらないところまで徹底してこだわるため、ほかの会社からは弊社のせいで「ゲームのハードルが上がった」などと言われています。

新スタジオ開設や、異業種コラボ!これらの裏にある狙いとは

ーー新しく設立したスタジオについて教えてください。

松山洋:
もともと福岡と東京にしかスタジオはありませんでしたが、関西出身の社員も多いため、2024年2月に大阪スタジオをつくりました。それぞれのスタジオにテーマがあり、大阪スタジオのテーマは演出の「演」です。これは、「面白い人たちだな」と思ってもらえる演出ができる人間になろうという意味を込めています。

ーーゲームの他に取り組んでいる事業はありますか。

松山洋:
直近だと酒造メーカーとコラボして日本酒を発売しました。話題を創出して認知してもらうために、ラベルに私の顔がデザインされています。

社内にこの日本酒の希望アンケートをとったら、トータルで150本もの希望があり驚きましたよ。1本約1万円しますが、社員たちのために自腹で購入しました。抽選にするという案も出ましたが、「もしも自分が少年漫画の主人公だったら、抽選なんてしないで全部おごるだろうな」と思ったのです。

一般的に、お酒メーカーとゲーム会社の社長がコラボするなんて考えないかもしれません。ですが、私は認知拡大に努めるのは大切だと考えているので、普段からSNSを利用し、常に業界の情報を発信しています。この企画は、その一環といえるでしょう。

週刊少年ジャンプから学んだ若者に投資する重要性

ーー教育制度について教えてください。

松山洋:
入社後に半年間の研修を用意しており、研修後の半年間は先輩から指導を受けつつ実践経験を積んでもらいます。弊社では新入社員同士でも給料に差がつきますし、先輩よりも仕事ができる新入社員は「シニアクリエイター」として先輩扱いされます。

弊社は中途よりも新卒を採用して、ゼロから育てる方針です。良いところは伸ばして、苦手なところは助け合うのがチームワークですから。新卒の段階からお互いをさらけ出した状態で向き合うのが良いと考えています。

この考え方には、週刊少年ジャンプがベースにあります。週刊少年ジャンプは「これからの未来をつくるのは若者だから、若手漫画家を育成する」という考えを持っているそうです。私はそこに強く共感しています。若者に未来を託し、一緒に歩んできたからこそ、数多くの名作が誕生したのだと思っています。

エンターテインメントの世界に必要なのは、まさに「逆転とジャンプアップ」。大きく勝つためには、若手に投資しなければいけません。また、若いクリエイターを育てることで、それよりももっと若い子どもたちが喜んでくれるようになると私は思っています。

編集後記

「何かの業界で活躍したいなら、まずはその業界を攻略すること。情報を集めずに挑戦してうまくいくのは漫画の中だけ」と話す松山氏。ゲームへの情熱だけでなく、情報収集力や発信力なども活かしながら、戦略的に会社を成長させてきたことがうかがえる。

そんな松山氏率いるサイバーコネクトツーが、新たにどのようなゲームを開発してゲーム業界に革新を起こすのか楽しみだ。

松山洋/ゲームクリエイター、経営者。1970年福岡市生まれ。九州産業大学卒業後、コンクリート会社の営業マンを経て、2001年株式会社サイバーコネクトツー代表取締役社長に就任。代表作に「.hack」シリーズ、「NARUTO-ナルト- ナルティメット」シリーズ、「ドラゴンボールZ KAKAROT」、「鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚」、「戦場のフーガ」シリーズなどがある。近年ではマンガ「チェイサーゲーム」の原作も手掛ける。