※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

写真プリント事業のトップメーカーとして、世界にその名を知られるノーリツプレシジョン株式会社。写真を「プリントする時代」から「デジタルで楽しむ時代」となり、大きな岐路に立たされている。2023年1月より代表取締役社長となった吉井剛氏に、就任の経緯や新たなリーダーとしての思いをうかがった。

金融業界に入るまで――ものづくりが好きな少年期を経て

ーー吉井社長の経歴を教えてください。

吉井剛:
父がメーカーの設計士で、母が建築好きなことから、ものづくりや建築に興味のある子どもでした。大学では建築学科で学びながらボート部の活動に専念し、就職は「幅広い経営者に会える営業職」が社会人のベース作りに最適だと考えました。「厳しい環境で鍛えられたい」との思いもあり、大手証券会社へ入社したのです。

最初に与えられたミッションは、名古屋の東区を自転車で回り「名刺を1日に100枚集める」というものです。当初は不可能に思えたものの、私を含めた数人がミッションを達成しました。全国で唯一、達成した支店となり、これは私にとって今でも印象深い成功体験です。

経営者への道のり――アフリカの企業で経営をサポート

ーー経営者を志した時期はいつ頃でしょうか?

吉井剛:
営業職を選んだ理由は、「いろいろな経営者に会える仕事」に興味があったからです。その後、リサーチ・コンサルティング部門を経て、より経営の面白さを感じ、ミシガン大学経営大学院へ留学しました。転機となったのは、留学中に参加したプログラムです。エチオピアにある救急車の配送会社のお手伝いをしたのですが、予想以上に経営に携わることができました。

留学中にノーリツプレシジョンの現オーナーとも出会い、社長というポジションを意識し始めました。彼は「投資した会社を若手に託し、経営者としての育成を手伝いつつ会社を大きくしたい」というポリシーを持っており、「経営者になる機会に備えておくといい」とアドバイスしてくれたのです。

帰国後は経営について学ぶため、いずれ独立することを前提にコンサルティング企業へ転職しました。半年ほど経った頃に現オーナーから声がかかり、アメリカの海外現地法人ノーリツ・アメリカ・コーポレーションの社長となる機会をもらった次第です。

ーー入社後のターニングポイントはありましたか?

吉井剛:
部下を持ったことのない33歳の人間が、いきなりアメリカで160人の部下を抱え、最年少の社長になるというスタートでした。当時の私は「脱落する人がいても会社さえ残せればいい」と考え、非常に厳しい姿勢を貫き、3年ほどで悪化していた状況からは抜け出せました。しかし、社員は疲弊していたため、リーダーシップのあり方を見直すようになったのです。

そのために、リーダーシップ・コーチングも受けました。リーダーとしての言動には幼少期の体験も影響すると知り、改めて自分の人生と向き合った気がします。以前は能力だけを重視していましたが、会社はチームであり、いろいろな人の持ち味を引き出すことがリーダーの仕事だと考えを改めました。また、社長や部長だけがリーダーではありません。「社員全員がリーダーシップを発揮できる」という考え方を広げたいと思っています。

ーー貴社の事業内容を説明してください。

吉井剛:
高品質プリンタを開発・販売するイメージング事業が、売上の半分ぐらいを占めている状況です。家庭用プリンタではなく、写真店やフォトグラファーなど、プロの方が使うような機械を作っています。ほかにも、医療・介護・調剤・畜産の分野も手がけていて、ODMとして開発した医療用輸液ポンプは長い間試行錯誤して形になりました。

介護施設向けの見守り機器「ネオスケア」と、牛の分娩を見守る畜産業向け機器「牛わか」は、AIと画像認識技術の活用という意味でイメージング事業と関連性があります。たとえば「牛わか」は、牛の分娩データを蓄積し、出産の兆候や異変をリアルタイムで農家に知らせるシステムです。出産時に起きやすい事故を防ぐことに役立っています。

ーー企業の強みをお聞かせください。

画像処理における高い技術力と、幅広い製品に対応できる生産体制が強みです。北米を中心に海外展開もしているため、グローバルな販売力にも自信があります。社員の粘り強さと、トラブル時の対処能力にも日々驚いています。厳しい状況を乗り越えた人たちが会社にいることは大きな強みですね。

次世代を担う人へ――チャンスを掴むために準備しよう

ーー若手の方へ向けたメッセージをお願いします。

吉井剛:
チャンスが来たことに気づいて、掴みに行ける力を養いましょう。自身の経験からも、普段から努力や準備をしていたからこそ、数少ないチャンスをものにできたのだと思います。「自分は人生で何をしたいのか」「そのために会社をどう活用していくのか」を考えることも大切です。弊社も社員がその考えを持てる会社を目指していきます。

編集後記

ボート部での日々を思い返し、部活にはマネージャーが必要なように「選手だけではボートは進まない」と語った吉井社長。高いポテンシャルに「社員と向き合う力」が加わったリーダーが、ノーリツプレシジョンを盛り上げる新展開を見届けたい。

吉井剛/1981年、神奈川県出身。2006年に東京大学工学部建築学科を卒業後、野村證券株式会社へ入社。2013年からミシガン大学経営大学院に留学し、2015年にMBA取得。同年ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン・インコーポレイテッドへ入社。2016年にノーリツプレシジョン株式会社へ入社後、子会社のNORITSU AMERICA CORPORATIONへ赴任。2023年、ノーリツプレシジョン株式会社の代表取締役社長に就任。