地域住民や自治体による、無料または低価格で食事を提供する子ども食堂。「孤食」をなくし、地域の大人とつながることができる有効な手段として近年増え続けているが、その運営費のほとんどは店の代表者の個人負担である。
食品の製造販売を手がける株式会社福豊堂の代表取締役社長である川端泰浩氏は、そんな現状を打破すべく行動に出た。「笑顔の種プロジェクト」と名付けられたその活動について、お話をうかがった。
たった1人、自宅の一室から事業を立ち上げ夢中で駆け抜けた日々
ーー起業のきっかけを教えてください。
川端泰浩:
以前は医療機器の営業をしていたものの、異なる業界でもチャレンジしたく思い転職することに決めたのです。
そんなきっかけで転職した食品メーカーでの営業では、新規取引先の開拓において、多くの契約を獲得することができました。医療機器の販売経験があったからこそ出せた結果だと思います。そこで、商品さえあれば自分でも会社を起こせるのではないかと考え、29歳の時に自宅の一室で事業をスタートさせました。
ーーどのような事業を展開されていますか?
川端泰浩:
主に珍味や豆菓子などのお茶うけやおつまみを中心とした食品の製造販売をしています。
ーー業績はどのくらい伸びたのですか?
川端泰浩:
開業以来1人で事業を行っていましたが、ある時、お酒のディスカウントスーパーで常務をしている同級生から連絡が入り、弊社の商品を取り扱ってもらえることになりました。
そこで、一気に月1000万円近くに売り上げを伸ばすことができたのです。それからは、工場をつくったり社員を増やしたりしながら業績を伸ばし、年商は4億円近くになりました。
当時はほとんど休みなく働いていましたが、とにかく仕事が楽しくて、つらいと感じることはありませんでした。その後も順調に売り上げを伸ばし、現在は年商20億円ほどになっています。
学生たちとのコラボをきっかけによみがえった社会福祉への思い
ーー九州産業大学の学生とコラボレーションした経緯を教えてください。
川端泰浩:
ある銀行の営業の方に新商品の企画について相談したところ「九州産業大学の学生たちと連携して商品をつくらないか?」と提案がありました。僕も九州産業大学の芸術学部出身という縁もあり、面白いと感じたため、すぐに大学へのプレゼンテーションを行いました。
プレゼンテーションでは、弊社の社員だけではどうしてもデザインが偏ってしまうので、学生たちに奇抜なデザインを求めているとアピールしました。その熱意が伝わり、弊社とコラボしていただくことになりました。
ーーこの商品は寄付つきで販売していますね。その背景について教えてください。
川端泰浩:
九州産業大学の学生とコラボできただけでも喜びは大きかったのですが、商品に対してさらに思いを乗せることでプラスアルファの価値をつけたいと考えました。
そこで、「社会福祉に貢献できたらどうだろう?」と提案すると、社員も学生も乗り気になってくれました。
ちょうどその頃、テレビで子ども食堂のことを知ったため、早速、子どもたちへの支援プロジェクトを展開している福岡市社会福祉協議会に電話しました。思いを伝えたところアドバイスをいただき、売り上げの一部を同会に寄付して地域に貢献できる商品として販売することにしました。
ーー社会福祉への興味はいつ頃からあったのですか?
川端泰浩:
商売を始めたばかりの頃、テレビで世界の子どもたちがゴミを拾って売りに行く姿や靴が買えなくて困っている様子を見て、「いつか社会福祉に関わることをしたい」と思っていました。
しかし、その頃はまだ会社の規模が小さく、資金がなかったのですぐには実現できませんでした。九州産業大学とともに「寄付つき商品」の開発をすることで、ようやく思いが叶ったというわけです。
「笑顔の種プロジェクト」成功に向けて
ーー寄付つき商品について詳しく教えてください。
川端泰浩:
30代から60代の女性をターゲットとしたおつまみです。ピーナッツやアーモンド、あられなどを組み合わせた個包装のお菓子12種類を1パックにまとめています。「色々な味を少しずつ食べたい」という声を受けてつくりました。パッケージには、弊社のキャラクターである「福ちゃん」と福岡市の社会福祉協議会のキャラクターである「ここっとちゃん」が描かれています。
ーー目標寄付金額はどれくらいでしょうか?
川端泰浩:
目標としては月間1000万円を掲げ、そのうちの3%を寄付にあてたいと考えております。早速、社会福祉協議会に相談し、その結果「笑顔の種プロジェクト」として福岡市の本部でサポートいただけることになりました。このプロジェクトを通して、子ども食堂や地域に暮らす人々が抱える生活問題の解決を支援していきたいと考えています。
営業や取材対応、宣伝などにも注力しています。目標を達成するためにもこの商品を積極的に展開し、さらに新しい商品も開発してプロジェクトを継続させたいと思っています。1人でも多くの方に商品を手に取っていただけるように、全国展開も視野に入れています。
編集後記
事業成功の秘訣をうかがうと、「運がよかった」と謙虚に語る川端社長。そして「社会福祉への貢献」という夢を、仲間とともに今まさに実現させようとしている。
今後もさらに斬新なアイデアを次々に打ち出し、インパクトある商品を世に出してくれるであろう株式会社福豊堂に注目していきたい。
川端泰浩/1970年福岡県生まれ。九州産業大学卒。2000年、福豊堂を創業。2006年4月に株式会社福豊堂を設立し、代表取締役社長に就任(現任)。