総務省の「家計調査」での総世帯の消費支出によると、園芸関連支出額は新型コロナの流行が始まった2020年から2022年まで3年間連続で増えており、2023年の園芸関連支出額はコロナ前の2019年に比べて10.7%増加している。(※)
(※)「NIKKEI COMPAS」 ペット・園芸用品店業界
そんな園芸業界でAI技術を駆使し、植物好きが楽しめるコミュニティサービスを展開するGreenSnap株式会社。1つの業界にとらわれない発想力を発揮し、他業界と連携して成長を推し進める同社の代表取締役社長、西田貴一氏に起業のきっかけや規模拡大のための企業戦略をうかがった。
IT業界から園芸業界に挑戦する道のり
ーー貴社の主な事業内容を教えてください。
西田貴一:
花や植物を愛する人たちが集う国内最大級のグリーンコミュニティサービス「GreenSnap」の運営や、SNS・メディア事業、EC事業などを手がけています。また、デジタル技術を使ってグリーンライフを楽しみ、緑で生活を彩る文化を次代に引き継ぐための「みどりのインフラ化」プロジェクトを推進しています。
ーー起業を決めたきっかけは何だったのでしょうか。
西田貴一:
初めはエンジニアとして関西で働いていましたが、ゴルフに関わるサービスを展開する企業に転職して東京に来ました。入社後最も衝撃を受けたのは、「ゴルファーをインターネットで幸せにする」という目標を、社員皆が熱い思いでやり続ける姿勢でした。
会社が目標に対して急速に進んでいく状況を目の当たりにして、それまで抱いていた会社というものに対する価値観が変わり、会社の運営に興味が湧き、チャレンジしたくなったことがきっかけです。
ーー「GreenSnap」をスタートした経緯をお聞かせください。
西田貴一:
前職の当時のビジネスモデルは、既存のSNS上のプラットフォームへの依存度が高いビジネスモデルだったため、自社のサービスを持ちたいと考えていました。そこで、僕が新規開発の役員になって社内でビジネスコンテストを開いたり、社外に投資したりして、取り組んだことの1つが「GreenSnap」でした。
このサービスは、ある社員の「自宅に花を飾った際に家族との会話が増えたり、自宅の外に花を植えたところ近所の方との交流が増えた」という体験から、「植物を介したコミュニケーションツールがあったら面白いのではないか」というアイデアから生まれた事業です。
ーー事業がスタートしてからはどのように展開しましたか。
西田貴一:
サービスの中に、コミュニティ機能を搭載し、名前を知りたい花や植物をアップロードすると、知識のあるユーザーから教えてもらえる仕組みを作ったところ、広告費を使わずに口コミで爆発的にダウンロード数が伸びましたね。その後、2016年にGoogle社が発表したGoogle Playのアプリアワード「ベスト オブ 2016」日本版の「ベストデザインアプリ部門」に選出されたことで一気に勢いがつきました。
10万ダウンロードまでは時間がかかりましたが、コロナ禍で一気に100万ほどに増えました。もとから植物が好きな方はもちろん、子どもと散歩をしていて、目にはいる花や植物の名前を知りたいという理由でインストールしてくださった方も多いですね。
ーー貴社のミッションについてお聞かせください。
西田貴一:
弊社はミッションに「次代のみどりのインフラをつくる」を掲げています。「次代」とは既存のものを否定するのではなく、新しくアップデートしていくデジタルの発想を指しています。
僕らが業界に参入した際に感じたのは、「消費者にとって不便なことが多い業界」という印象でした。それをとにかく解決したい思いがありました。
ーーデジタルな部分に関して、何か変化はありましたか。
西田貴一:
一例として、入荷に関する部分を改善しました。リサーチをしてみた結果、8割以上の人が花屋に行ったときに、目的の花が置いてなかった体験をしていました。
ユーザーが「春のこの時期にあるだろう」と期待を持って店に行ったものの、販売しておらずがっかりする、という消費者体験を変えたかったので、入荷通知を送ることにより「あるだろう」の確率を上げていきました。
消費者に喜んでほしいという気持ちが強くあり、そのためにはメーカーや市場流通も困らないようにしていく必要があります。最終的には業界全体にデジタルソリューションを入れていくようにしたいです。
ーー他業種との連携を積極的に行っているとお聞きしました。
西田貴一:
会社の戦略上、他業種との連携を強く押し出したいと考えています。業界内で完結してしまうとイノベーションが起きづらいということと、植物はどこに置いてもよいので活路があると感じたことが理由です。
一例として、アパレル商社とも提携しています。トレンドに関する意識の高さなどの業界特有の強みや、営業マンとして世界中に拠点を持ち、世界中の商品に詳しい知見を活用して、新しいアパレルの要素や流行りを植物業界に入れたかったためです。
ーーコラボ商品について詳しく教えていただけますか。
西田貴一:
弊社には、土を使わずどこにでも飾れる『テーブルプランツ』という商品があります。
「土である必要があるのか?」という問題提起と、「コミュニケーションの機会が多いテーブルに植物を置けないのが悲しい」という声が多いことから始まりました。
初めは自社で開発し、アパレル商社と資本提携したタイミングで、土に代わる素材を試してブラッシュアップしていきました。従来の商品よりも価格が高く、土を使っていないことから業界内では不評でしたが、今まで植物に触れる機会がなかった方にも気軽に楽しんでいただけると信じて販売した結果、想定していたターゲットを中心に5万個も売れました。これは「業界内での非常識」から生まれた結果だと考えています。
誰にとってもいいものが買える世界を目指し海外進出を見据える
ーー今後の目標を教えてください。
西田貴一:
弊社は、「Giveからはじめよう」というバリューを掲げています。まわりの皆と共に高め合うために、Give and Takeの「Take(とる)」から始めるのではなく、「Give(貢献する、与える)」から取り組んでいます。僕らがやりたいのは、誰にとっても便利で良い植物が買える状態にすることです。
そして、日本初のサービスで世界進出することが夢だったので、サービスでもプロダクトでも良いので、メイドインジャパンを植物の分野から出してみたいです。
ーー未来を担う若手にメッセージをお願いします。
西田貴一:
今がチャンスかどうかを判断するアンテナを張る、未体験のことにも積極的に挑戦する、という姿勢を持っていてほしいと思います。
新しいことに挑戦すると、アドレナリンが湧き頭も回ります。やっていないことを組み合わせていくと全然違う発想になり、違った視点で業界を見ることができるので、活躍できる可能性は高いと思います。
編集後記
多角的な視点をもとにした柔軟な発想で業界に新風を巻き起こしてきた西田社長。誰もがほしいものを手に取り、身近な暮らしで花や植物を楽しめる世界を目指し、日本のみならず海外進出に向けても挑戦する。他業種との連携で新たなイノベーションを生み出すGreenSnap株式会社に今後も期待が高まる。
西田貴一/1975年生まれ。同志社大学卒業。2005年、アライドアーキテクツ株式会社へ入社。2017年、同社を分離してGreenSnap株式会社を設立。代表取締役を務める。