※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

道路や給排水設備、空調の工事から不動産事業まで。岐阜県可児市に本社を置く市原産業株式会社は私たちの生活に必要な分野を手掛けている。その業績は良好で、リーマン・ショック後に落ち込んだ売上を毎年約10%ずつ増やし、毎年昇給を実施したほどだ。

この業績を支えるのが、社員たちの高いモチベーションと自律性だ。代表取締役の市原俊享氏は「可能なら野武士のような集団を目指したい」と語る。

では、組織の規律と社員の自律性を両立するにはどうすればよいのだろうか。市原社長に組織のこれまでと目指すビジョンを聞いた。

設備・土木から不動産まで幅広い事業に取り組む

ーーまずは貴社の事業内容を教えてください。

市原俊享:
弊社では水道や土木など大きく5つの事業を行っています。

1つ目はビルや官公庁の建物といった箱モノの給排水設備や空調などの工事。2つ目はハウスメーカーの住宅を中心とした給排水設備の工事。3つ目は造成工事や道路工事などの一般土木工事。4つ目は住宅からアパート、工場まで、さまざまな建物のリフォーム。そして5つ目は不動産事業です。

創業してしばらくは水道・設備や土木工事を中心に行っていましたが、時代の変化や顧客ニーズなどへの対応により徐々に多角化していきました。

ーー先代であるお父様から事業を受け継いでいますが、昔から社長を継ぐ意思があったのですか?

市原俊享:
私が社長に就任したのは33歳のときです。大学卒業後にそのまま入社し、建築物の修繕や、設備の現場監督の経験を経て社長になりました。

自分が社長を継ぐことを特別意識したことはありませんが、幼いころから潜在的には感じていました。兄が母の経営する建築金物の会社を継いだことも、私が父の会社を継ぐ意思を強くする要因になっていたと思います。

そもそも父との日常的なコミュニケーションは、「父と子」というより「社長と社員」のような感じでした。父はプライベートでも仕事のことばかり考えていて、日常生活の中でもビジネスの価値観を叩きこまれたものです。

社員たちの自律性が実を結びリーマン・ショック後のピンチから脱却

ーー社長として働く中で、嬉しかったエピソードはありますか?

市原俊享:
印象に残っていることの一つに、リーマン・ショック後の業績悪化から若手社員たちと一緒に立ち直ったエピソードがあります。

リーマン・ショック後は本当に仕事が少なく、出社しても仕事がない日もありました。そんなとき、若手社員が「社長が号令をかけてくれれば、土日でも営業に行きます」と声をかけてくれたのです。

私はこの提案に社員のやる気を感じたと同時に、やるからには半端なことはできないと思いました。そこで「やってもいいが後戻りはできない」と伝えると、「わかりました!」と力強い返事が返ってきました。

これをきっかけに、14億円台に落ち込んだ売上は毎年約10%ずつ回復し、一番好調なときで50億円以上を記録しました。この復活劇は社員の自律性なしでは成しえなかったでしょう。

組織の理想像は「野武士」のような集団

ーー目指す組織像を教えてください。

市原俊享:
一言で言うと、戦国時代にいた「野武士」のような集団です。規則や命令に従って動くだけでなく、現場の肌感覚を磨いて自らの判断で最適な行動ができる、強力な個が自律的に動く組織が望ましいです。

とはいえ、会社の規模が100人以上になれば、どうしても規則が必要になります。会社として理想的な姿は、規則を守ったうえで臨機応変に動ける社員がそろっていることでしょう。

この理想を達成するために、弊社では研修プログラムの強化に取り組んでいます。手探りではありますが、社員たちと意見交換をしながら理想の組織を目指しています。

ーー今後の展望や取り組みたいことはありますか?

市原俊享:
多角化した事業を整理するために分社化を考えています。イメージとしては、市原産業の下に4つの会社をつくる形です。そして、分社化した4社の事業が安定した後は社長の世代交代も考えています。

会社は、常に成長し続けなければ簡単に衰退します。それには、事業の刷新はもちろん、分社化のような組織改革、そして新たな世代を育て、会社のDNAを引き継いでいくといったことも含まれます。

この第一歩として、現在4社を任せられる人材育成に取り組んでいます。彼らの育成が終わり、無事分社化が完了したら、弊社の新しい世代が花開くでしょう。

ーー求める人材の条件は何ですか?

市原俊享:
顧客と長期的に良好な関係を築くために、長く勤めてくれる方がありがたいです。

顧客からの信頼は日々の付き合いの中で醸成されていくものです。コミュニケーションのなかで顧客のことを知ってこそ、顧客の要望や目的などを自然と理解できるようになります。

弊社が求めるのは、顧客の成功を第一に自主的な提案ができる人材です。コツコツ信頼を築き上げ、新たな世代にも通用する、盤石な地盤をつくってくれる方を求めています。

若者に持ってほしい「世界の中の日本」という価値観

ーー読者へのメッセージをお願いします。

市原俊享:
若者たちにはぜひ「日本を支える意思」と「世界規模の価値観」を持ってほしいですね。

日本は他の国々と比べると落ち着きすぎている部分があります。これは長期的な日本経済の停滞も関係していますが、かといって現状に甘んじて良いわけではありません。一人ひとりが日本を支える自覚を持ち、世界と渡り合える人材へと成長してほしいと思います。

これからの時代は広い目線と価値観が求められます。ぜひ世界規模の価値観を持ち、自らと組織に変革をもたらすイノベーション人材を目指してください。

編集後記

「自律性が大切」と多くの人が口にするが、「野武士のような集団」という具体的なイメージが出てくることは珍しい。もはや安定という言葉が忘れられた現代社会で、会社に求められる要素を的確に表した言葉ではないだろうか。

世代交代を見据える市原社長だが、次の世代にどのような形でDNAが受け継がれていくのか。市原産業が新たな夜明けを迎える日は近い。

市原俊享/1959年岐阜県生まれ。福井工業大学卒業後、父親が社長を務める市原産業株式会社へ入社。設備・土木工事の現場監督として小さな修理対応から大規模な施設工事まであらゆる現場を経験し、33歳の時に代表取締役に就任。