米国に本社を置き、世界180カ国以上で利用される電子署名サービスを提供するドキュサイン。同分野のパイオニアともいえる企業だが、その日本法人の取締役社長、竹内賢佑氏は「これからのドキュサインは単なる電子署名サービスではなく、契約ライフサイクル全体をカバーするプラットフォームを提案していく」と語る。
竹内氏はどのようにしてドキュサイン・ジャパンの取締役社長に就任し、また同社はどのような展望を描いているのか。詳しい話を聞いた。
現在のビジネスにも活きているアドビでの経験
――IT業界に入った経緯を教えてください。
竹内賢佑:
私がアメリカの大学へ進学した当時、アメリカではオンラインミュージックが流行り始めた時期でした。その熱狂を感じて、私も就職をせず、オンラインラジオのMCや音楽活動を始めました。2002年頃の話ですね。
ただ、音楽活動を続けていくうちに、日本で少し売れるくらいでは食べていけないと思うようになりました。「才能のあるタレントはたくさんいるし、何とか食いつないでいくレベルの自分にとって、この業界は厳しいのでは」。そう思い始め、結局、今まで学んできたビジネスやITの分野に進むことを決めました。
ーーその後、大手IT企業で経験を積んだのですね。
竹内賢佑:
アドビで働く機会をいただき、ここでの経験はとても貴重なものでした。多くの外資系企業は1年以内などの短期で結果を出さなければいけませんが、ビジネスで結果を出すためには長い仕込みの時間が必要です。アドビで結果を出すまでには1年3か月もの期間がかかりましたが、それを許容してくれた会社にとても感謝しています。
また、このときにパートナービジネスの基礎を学ぶことができましたし、そこで築いたアライアンスパートナーとの関係は今のビジネスにも活きています。
ドキュサインの電子署名があればサーフィンの直前でも契約書にサインできる
ーードキュサイン・ジャパンにはどのような経緯で入社したのでしょうか。
竹内賢佑:
実は想定外の出来事でした。アドビ、そしてセールスフォース・ドットコム(現:株式会社セールスフォース・ジャパン)での業務を経験した後、非常に勢いのあるベンチャー企業、データブリックスの日本支社長として、本国とやり取りをしながら国内での事業拡大に邁進していたときでした。
ドキュサインからヘッドハンティングの連絡がきて話を聞いてみたところ、電子署名の事業からほかの分野にまでビジネスを拡大するタイミングだということがわかり、面白そうだと思って入社を決めました。動機としては、もともと私がドキュサインの大ファンだったことが大きいですね。今までのビジネスで、ドキュサインのソリューションには何度も救われましたから。
ーードキュサインの強みを教えてください。
竹内賢佑:
多言語対応、広範囲にわたるシステム連携、圧倒的に強固なセキュリティが強みです。
たとえば企業が一つの契約を締結するまでには、多くのプロセスが必要になります。その中の一つが稟議であり、稟議を回す際には人事や営業など、多くの部署の人々が関与します。このプロセスを統括するシステムを提供できる企業は少ないのですが、ドキュサインのソリューションであればこの部分を自由にデザインできるのが強みです。
また、私はサーフィンを趣味としているのですが、海に飛び込む直前にドキュサインの電子署名で契約書にサインをしたことがあります。ドキュサインのソリューションがあれば、このように行動が制限されず、自由な空間でビジネスができるのも大きな強みです。
会社は今が変革の時期。電子署名に留まらない提案で顧客を獲得
ーー今後の展望をお聞かせください。
竹内賢佑:
弊社では今後、電子署名サービス以外の割合が非常に大きくなるでしょう。新しいソリューションを展開するにあたり、営業の仕方を変えて、それぞれのお客様に合わせた提案をする必要があります。より高度なサービスを提案していくために、営業力を強化していきたいですね。
また、今後はパートナーをより増やしていきたいとも思っています。そのためには、単なる電子署名サービスに留まることなく、企業の課題を解決できるプラットフォームを提案していくことが重要です。このあたりを意識した提案で、新規顧客を獲得していきたいですね。
ーー採用についてはどのようにお考えでしょうか。
竹内賢佑:
日本のメンバーも増えてきているので、必ずしも語学堪能でなければいけないということはありません。ただ、英語を使用する機会は多いため、学ぶ機会にもなりますし、成長を望む人にとっては刺激的な環境です。
日本のソリューションを経験してきたセールスパーソンと、ずっと外資で働いてきた人たちが融合することで化学反応が起こり、良い影響も出ています。そういった理由から、弊社では採用の窓口を広げているところです。
また、弊社の社名は今まで「DocuSign」でしたが、電子署名のイメージが強くなってしまうため、これまでの電子署名にとどまらないプラットフォームであるということを伝えるために「Docusign」に変更しました。今は会社の生まれ変わりのタイミングでもありますし、グローバルに展開するドキュサインはこれからもっと面白くなっていきますよ。
編集後記
マイケル・ジョーダンの格言「Always turn a negative situation into a positive situation.」をモットーにしている竹内社長。これには、失敗を恐れずにトライすることで、自分も周りもポジティブに変えていくという社長の思いが込められている。
変革のタイミングにある同社が、これからどのように社会を変えていくのか。今後の動きに注目したい。
竹内賢佑/1979年東京都生まれ、米・アメリカン大学卒業。アドビやセールスフォース・ドットコム(現:株式会社セールスフォース・ジャパン)で多様な経験を積み、2020年からデータブリックス・ジャパン株式会社の社長としてクラウドアプリケーションやデータ、AIのフィールドでビジネスを牽引。2022年にドキュサイン・ジャパン株式会社のカントリー・マネージャー(取締役社長)に就任し、合意・契約プロセスの最適化を軸に、日本企業のビジネス改革と成長に寄与している。