※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

建物の建築、リフォームのために足場が組まれ、シートが張られた現場を目にすることは多いだろう。何気なく見ている足場には、安全性や快適性のためにさまざまな工夫がこらされており、使い手への配慮が詰まっている。

今回は、最高品質の足場づくりに心血を注ぐ株式会社ダイサンの社長に、会社の今後の展望や若者に向けてのメッセージなどをうかがった。

証券会社からUターンして地元で再出発

ーー前職時代のご経験を教えてください。

藤田武敏:
僕は証券会社の営業マンでした。入社時には怒涛の下げ相場が続いており、世間一般からの株への信頼感を得ることなど、望めませんでした。

そのような状況で信頼を得るために「お客様に対して何ができるか」「お客様との交流の場をいかに良くするか」を考えて、会社が売りたい商品を提案すること以上に、お客様が求めている商品を探して提案することを心がけ、熱い思いを胸に営業を行っていました。「人と人とのつながりが大事」ということを証券会社での営業で学びました。

ーーその後、証券会社から出身地にUターンして足場業界に転身されたそうですね。どのようなきっかけがあったのですか?

藤田武敏:
家族の身体的な不調や心配ごとがあり、長男という立場からいったん出身地の山口県に戻って働こうと思いました。たまたま弊社の営業所が実家から一番近かったのです。

どのような事業か不安もありましたが、信用できる採用担当者から非常に良い会社だと聞き、当時の社長と実際に話したうえで「信頼できる会社だ」と思えたので、入社しました。

証券会社時代の経験を活かし、足場業界でもお客様との信頼関係を築く

ーー転身した足場業界で成果を出せた秘訣を教えてください。

藤田武敏:
僕はもともと負けず嫌いな性格なので、「何でも1位になりたい」という気持ちが強かったのです。証券会社時代も、キャンペーンがあるとその性格も相まって気持ちが盛り上がり、1位を目指していました。

ダイサン入社時から常に考えていたのは、「足場工事をどのようにしてお客様視点で進化させるか」ということです。足場工事をする際のちょっとした気付きや工夫をお客様に提供すると、かなりのご満足をいただけました。外から見たら「足場なんて全部一緒」と思われがちですが、玄関ドアの種類に応じて足場の位置の変更など少しの工夫で、ドアの開けやすさやお施主様の生活のしやすさが違ってきます。

「僕が打ち合わせした現場は、絶対に誰にも負けない、使いやすくて生活しやすい足場をつくろう」という信念で施工に臨みました。

具体的には、多くの職人が出入りする現場での居住者のストレスを軽減するために、洗濯物を干す時に職人と目が合わないように目隠しシートを貼ったり、居住者の生活時間に合わせて施工の時間をずらしたり、高齢者や車椅子の方のために通りやすい通路をつくったりしました。

こういった提案を重ねることで、順調にお客様からの信頼を得ていた結果、大阪本社への転勤が決まりました。

新規事業とその人材確保のための奮闘

ーー本社に行ってからは苦労などありましたか?

藤田武敏:
本社では、足場以外のサービスをお客様に提供する新規事業を始めました。たとえば、太陽光の事業の立ち上げを試みました。

しかし当時、社内から配置転換はなく外部から人を採用するしかありませんでしたが、採用環境も厳しく営業職の方を取ることができませんでした。

そこで、塗装の職人を雇ったり、太陽光事業や住環境事業の部署の人材をイチから教育したり、新卒の子たちを鍛えたりしました。幸いなことに彼らは前向きに取り組み、成長してくれました。

お客様と従業員、両方の満足を追究し、海外を見据えた新たな事業展開へ

ーー2015年に社長に就任してからの状況はいかがでしたか?

藤田武敏:
社長就任から今年で10年目ですが、お客様と従業員との関係がそれほど良好でない時期もありました。そこで、ES(従業員満足度)とCS(顧客満足度)の両方を達成する方法を考えて、まず退職金制度や責任者の給与体系を見直しました。具体的には責任者の給与体系を見直すなど、所長に長く勤めてもらえる仕組みをつくりました。

次に、具体的な施工戦力の強化、施工のクオリティや安全性の評価のために、それらに特化した新しい部署、すなわち人財開発部や安全管理部という部署を設けました。また、大型の建築物の案件受注のために営業開発部も設けました。

ーー貴社の将来の展望をお聞かせください。

藤田武敏:
事業拡大のために、足場レンタル事業への投資を進めています。足場の施工、販売、レンタルという3つの部署を関連づけて展開します。

また、施工力強化のための人材開発として、特定技能外国人採用の戦略化に力を入れていきます。システムエンジニアからなるデジタル部門も展開中です。人材育成とデジタル技術の融合という観点で効率化を進め、紙ベースの資料のデジタル化、チャットボットや名刺アプリの導入なども積極的に行っています。

ーー最後に、若者へのメッセージをお願いいたします。

藤田武敏:
これからさまざまなビジネスが海外とつながり、接点が増えていきます。私たちの事業でも海外での足場工事を視野に入れています。

若者には積極的に海外に出てチャレンジをして欲しいと思います。「失敗に価値があり、行動しないと成長なし」ということです。日本は過ごしやすく安定していますが、世界と戦えなくなるのはもったいないと感じます。若者が世界に旅立ち、世界の中で強い存在になって欲しいですね。

編集後記

証券マンから転身して足場施工サービス業の社長に登り詰めた藤田氏は、常に顧客目線とサービス精神を忘れない、強い信念の持ち主だ。今後も、快適に生活できる足場づくりで顧客の安全を守ってくれることを期待したい。

藤田武敏(ふじた・たけとし)/1968年、山口県生まれ。中京大学卒業。1993年、株式会社ダイサンに入社。営業本部長、専務取締役などを経て、2015年から代表取締役社長に就任。