株式会社泉平(兵庫県)は給食向けに特化した業務用食品を納入する卸会社。19世紀末の明治時代に食料品問屋として創業した同社は、昭和初期にはすでに病院給食の提供を開始するなど給食事業とのかかわりは非常に長い。
創業時の遺伝子を引き継ぎ、学校や病院、福祉施設向けに給食食材のスペシャリストとして企画から仕入れ、保管、配送まで担い、事業内容を拡充してきた。近年は食育や福祉方面に力を入れるとともに、地域社会との共存や社会課題を意識した活動も活発化させている。
旧態依然から脱却し時代の変化に応じて進化を続けてきた同社で、5代目として2015年から総指揮を執る代表取締役社長の泉周作氏に、プロフィールや経営方針について話を聞いた。
「ぼんぼん」と言われないように懸命にビジネスの実績を重ねた日々
ーー泉社長の経歴をお聞かせください。
泉周作:
ボストン大学を卒業した後、大手アパレル企業が手掛ける野菜事業に参画しました。事業は閉鎖しましたが、食べ物に関係する仕事を継続したかったため、大手電子機器の食品事業に参画しました。
その後、食品事業のセクションを分社化することになり、のちに上場する企業の設立にも携わりました。
2006年に家業に入ったのですが、「ぼんぼん」と言われたくなかったので、ビジネスの実績をつくるべく全力で駆け抜けてきました。
ーー社長就任時代に大変だった出来事はありましたか。
泉周作:
2013年頃に拠点の統合計画を進めたときは大変でした。もともと3拠点に分かれていた物流センターを近畿物流センターとして統合するプロジェクトでしたが、まさに「言うは易し」で実行するとなると尋常ではないほどの困難がありました。
今まで夕方5時に終わっていた仕事が朝5時までかかるようになるなど苦い思い出ですが、合理化のために統合した価値は十分ありました。
ーー社長就任後に取り組んだ社内改革について教えてください。
泉周作:
とりわけ物流において「利益が出ている業務と、採算がとれない業務」をはっきりさせるために可視化に取り組みました。
オペレーショナルエクセレンスといわれる、効率の悪いことをやめて生産性を上げるための定量的な管理を進めていったのです。
また卸売りでは給食業態に集中し、社員一同に子どもや高齢者の方を相手にした事業のパーパスをはっきりと打ち出してきました。こうした働きかけは経営基盤を安定させることにつながっていると感じます。
配送面の根本的な見直しと福祉事業の拡充を検討
ーー配送面の課題についておうかがいします。
泉周作:
2024年問題が叫ばれ、配送の人手不足が深刻化していることから、私たちも対応を検討しています。
1度に運ぶ積載量を上げることが重要なポイントです。食品業界でもいろんなジャンルで共同配送が進められるなか、弊社でも参入を視野に入れています。
ーー今後、注力する事業について教えてください。
泉周作:
福祉分野をもう少し拡張できないかと思っています。現場は人手不足で介護者は業務負担が大きく疲弊しています。そうした現場の過労状態の改善、ひいては地域社会への貢献としても、私たちの得意な給食の部分でもっとサポートしていければと考えています。
たとえば、ニーズに対応するために弊社で栄養士を雇用してさまざまなメニューをとりそろえ、一括注文しやすいプラットフォームを構築するなど、さらにサービスの幅を広げていくことを検討しています。
日本で一番「ありがとう」と言われる会社にしたい
ーーどんな会社にしていきたいですか?
泉周作:
私たちの任務は表に出ることなく縁の下で支えることです。食を支えていることに対して誇りを持ち、家族にも「こんな食品を扱っている」と社員が胸を張って自慢できるような仕事をすることが大事だと思います。
そのために社員への食育を徹底して、「福祉施設に食材を運んで『ありがとう』と言われた」などと価値ある経験を社内にフィードバックしていきたいですね。このことはパーパスを明確にして同じ方向に進み、人材が育つ組織にするためにも必要だと感じます。
ーーどのような人材を求めていますか?
泉周作:
先ごろ開催された有名ディスカウントショップでの食育イベントに参画したところ、かなりの盛り上がりで、それを見て「食育を担当したい」と言ってきた新入社員もいました。
近年は新卒社員の採用は4〜5人ですが、そんなふうに弊社のビジネスとパーパスに共感する20代の人がたくさん増えてくれたらとてもうれしく思います。
編集後記
泉社長の経歴はブレることなく食品畑を歩んできた、まさにエリートそのもの。物流面の効率化を進めて生産性の向上を徹底するなど数字を追う経営者である一方、地域社会や人との信頼関係も決しておろそかにすることはない。
「食」を通じて人をつなぐことを経営スローガンに掲げる同社は、5代目社長とともに未来に向けて社会と人と対話しながら高みを目指して着実に歩み続けるのだろう。
泉周作/1977年、兵庫県生まれ。ボストン大学卒業後、GEコンシューマー・ファイナンス株式会社(現新生フィナンシャル株式会社)に入社。2002年に株式会社ファーストリテイリング食品事業部に入社し、野菜事業に創業期から参画する。事業閉鎖後、2004年に株式会社ミスミ(現株式会社ミスミグループ本社)の食品事業部に入社し、株式会社ミクリードへの事業分社に貢献。2007年、株式会社泉平に入社。2015年に代表取締役社長に就任し、食育に注力している。