※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

「もの創りを通して広く社会の発展に貢献する」ことを目指し、1919年に創業した化学製品のメーカーである新日本理化株式会社。2020年に社長に就任した三浦芳樹氏は、2030年に向けた経営ビジョン「Be the best SPICE!」の策定を主導したほか、環境価値に重点を置く事業ポートフォリオへの転換、人的資本経営を体現する人事評価制度の導入など、ハード・ソフトの両面で矢継ぎ早に改革を進めている。

「この取り組みの成就こそが私のミッションだ」と語る三浦社長に、不退転の覚悟をうかがった。

社会貢献につながるオンリーワンの技術を追求

ーー化学製品の事業は技術的な競争が厳しい分野ですね。

三浦芳樹:
弊社が生き残っていくためには、環境、社会、人間に関わる課題にチャレンジする姿勢と、人々に豊かで健やかな暮らしを提供できる技術力が必要だと考えています。

そのために、カーボンニュートラルを目指す研究に加え、オンリーワンの技術開発という2つのテーマを掲げています。

ーーオンリーワンの技術とは、どのようなものでしょうか?

三浦芳樹:
誰も追随できない技術のことです。ナンバーワンだと競う相手がいますよね。もちろん、世の中を劇的に変える技術や製品を生み出すことは簡単ではありません。しかし、今よりも、さらに高いレベルで、人にも環境にもやさしい化学製品を創出し、安全かつ安定的に生産し供給する、というテーマにチャレンジする姿勢は、企業が社会とともに成長するうえで必要です。

年長の人との交流を大切にする

ーー三浦社長が社会人になった頃のお話をうかがえますか?

三浦芳樹:
最初に入社した豊田通商株式会社では、化学部門に配属されました。初めは仕事内容や化学についてよく知らずにゼロの状態で飛び込みましたが、実際にはじめてみると面白かったですね。とくに年長の方との出会いは楽しく、貴重な話を聞かせてもらったり、ときには仕事面でバックアップしてもらったりしました。だからこそ、社員にも自分より10歳くらい年上の人との付き合いを大事にするよう伝えています。

20代のころに、日本で初めて大量の可塑剤を海外から船便で輸入する仕事に携わりました。苦労したはずですが、初めての大仕事で楽しかったという記憶しか残っていません。

このときに知り合ったのが、弊社の現代表取締役会長執行役員の藤本万太郎です。その後、約40年の付き合いを経て、弊社に入りました。豊田通商への41年間の「恩返し」をする意味でも、これまでのキャリアを弊社の仕事を通じて社会に還元したいと思うようになったのです。

社会の動向にアジャストするべく従業員を後押し

ーー貴社の強みはどのような点でしょうか?

三浦芳樹:
納得したことは黙々とやり遂げる点です。納得できないままに仕事をすると、失敗もしやすくなりますから。

ただ、変化の激しい状況では、100%の精度と納得を待っているうちに、ビジネスは後手に回ってしまいます。この点が課題であり、まずは挑戦するという意識へと変えていく必要があると思っています。私は積み重ねてきた41年間のキャリアの全てを注ぎ込み、従業員の意識改革に貢献していくつもりです。

ーー具体的にはどのような取り組みを進めていらっしゃいますか?

三浦芳樹:
弊社のテーマは、事業を通して社会価値を創造することです。そのためには、弊社自体が社会の変動に対応しなければなりません。そこで必要になるのが、年功序列から脱皮し、挑戦への意欲と実行への強い意志を持った者がチームを引っ張っていくことです。

その取り組みとして、新しい人事評価制度があります。たとえチャレンジして失敗したとしても、前進している社員に対しては成功した人と同じ評価を与えることにしています。そのなかで意識改革を起こしていきたいですね。

ーーチャレンジする従業員への後押しとは?

三浦芳樹:
社会の変化に素早く対応し、他社に先駆けて新たな技術や製品を提供するためには、変化が始まってからでは遅いのです。常に、過去のデータや経験をもとに将来を予測して先手を打たなければなりません。

とはいえ、予測がはずれることもあります。だからといって、何もしないとビジネスは成り立ちません。

そのため、社内に間違いや失敗を許容する文化を根付かせたいと考えています。予測が間違っても、チャレンジした事実があれば、成功者と同じように評価します。新しい評価制度は、そのためのツールと言えるでしょう。

人々をどれだけ幸せにできるか!「オンリーワン技術」への道

ーー京都R&Dセンター開設についてうかがえますか?

三浦芳樹:
2021年に、けいはんな学研都市に京都R&Dセンターを開設しました。研究員は約40人います。私は、研究員が進む方向を会社の枠に押し込めるつもりはありません。目指しているのは、研究員が高いモチベーションを持ち研究テーマを見つけ、そこから他の先駆けとなるオンリーワンの技術が生まれてくることです。その成果が社会への貢献につながることが理想です。

ーー通常、研究開発のテーマは営業側から依頼するものではないのですか?

三浦芳樹:
それが一般的ですね。しかし、営業担当がお客様からいただくテーマは、今現在抱えている課題に関するものが主です。もっと先の時代に対する予測をしないと先手を打てないのです。弊社の研究発表会では、その研究がどのように人々を幸せするかという点に注目します。評価の基準も、いくら稼げるかではなく、人々をどれだけ幸せにできるかがポイントです。

自分の目標とは違う役割や使命であってもベストを尽す

ーー最後に読者へのメッセージをいただけますか?

三浦芳樹:
若いうちに自分の目標を見つけられる人は、決して多くはないと思います。でも、目標を探し続けることは人生の中ではとても大事なことです。だから、簡単に諦めずに探し続けてほしいと思います。

そして、目標を探す過程には、自分が意図しない役割や使命も現れてきます。そのとき、たとえ自分の目標とは違っても、全力で立ち向かってください。本当の目標は、そこからしか見つけられないのですから。

編集後記

三浦芳樹社長が商社マン時代に学んだことは、古い殻を破り未知の仕事に挑戦する勇気の重要性だった。その精神は、今の社長業でも十分に活かされていることがインタビューを通じて伝わった。

「成功、失敗ではなく、チャレンジしたという事実を評価する」「研究者を会社の枠に押し込めない」といったコメントには、従業員に対する責任感だけでなく、大きな期待が込められていると強く感じた。今後、従業員の方々が、それぞれの挑戦をどのような形で社会貢献につなげていくか楽しみだ。

三浦芳樹/1955年愛知県出身。1978年慶応義塾大学卒業後、豊田通商株式会社に入社。化学品部門をはじめ、繊維部門、食品部門などに携わる。その後、海外支社長などを歴任し、専務取締役に就任。2019年に新日本理化株式会社に入社し、翌年代表取締役社長執行役員に就任。