
上質な伊勢海老という一つの食材にこだわり続けてきた株式会社中納言。同社を中核とするCSTグループは、外食・中食を起点に、水産物の調達・輸入、製造加工、卸、通信販売、国際イベントのF&B(飲食)事業までを一気通貫で展開している。ハレの日や人生の節目、大切な人のおもてなしなど、さまざまな場面で伊勢海老料理を楽しめる同社は、70年以上積み重ねた顧客との信頼を強みに、BtoC領域で確固たるブランドを築いてきた。近年はM&Aによる販売チャネルの拡張や新業態開発にも挑戦し、再建で培った財務規律と現場力を土台に、持続的な成長フェーズへ移行している。創業者・堤清一氏の思いを引き継ぐ4代目社長の田上剛大氏に、事業と組織を再構築した軌跡と、「食で笑みを」「いい会社をつくろう」を軸に描く未来を聞いた。
守りの「再建」から 持続的な「成長」のフェーズへ
ーー30歳で会社に戻られてから現在に至るまで、経営の舵取りはどのように変化してきましたか。
田上剛大:
私が会社に戻った当時は、バブル崩壊やリーマン・ショックなどの影響で多額の負債を抱え、事業の継続そのものが問われる状況でした。当時は「ホームランは目指さず、ヒットを積み重ねる」と決め、不採算事業の見直し、事業規模の適正化、収益性とキャッシュフローの改善を一つずつ進めました。その過程で支えになったのが、長年のお客様、取引先様、そして現場を守り続けた社員との「のれん(信頼関係)」です。
そうした支えのもと、目先の売上だけを追わず、利益を生む事業構造と、誠実な商いを支える企業文化を再構築してきました。現在は「守るべきものは守り、変えるべきものは変える」という姿勢で、再建で培った財務規律を保ちながら成長投資を進める段階です。目指すのは単なる規模拡大ではなく、企業価値、人材、信用がともに積み上がる持続的な成長です。
ーー確かな地盤の上に描く「成長戦略」について、具体的にお聞かせください。
田上剛大:
最大の転換は、祖業である外食ブランドを核に、既存の強みが生きる領域へ事業を広げたことです。かつては店舗売上への依存度が高い構造でしたが、現在はホールディングス体制のもと、調達、製造加工、卸、通販、F&Bまでをつなぎ、複数の収益基盤を持つグループへ進化しています。
私たちは「右手に浪漫、左手に算盤」を大切にしています。商品力、加工技術、顧客基盤をBtoBや通販へ展開する一方、新規事業やM&Aは、理念との整合性、相乗効果、収益性、投資回収、組織の受容力を見極めて判断します。挑戦と財務規律を両立させることが、持続的な成長を支えると考えています。
中納言ブランドを支える強みと「6次産業型モデル」

ーー中納言ブランドとCSTグループの競争力は、どこにありますか。
田上剛大:
先ほどの「のれん」に加え、競争力の源泉は、調達力、商品化力、現場力、顧客基盤が一体となっていることです。グループ内に海老問屋と自社加工場を持ち、日本各地の伊勢海老と世界各地のロブスターを安定的に調達し、用途に合わせて商品化できます。20年から50年にわたり活躍する職人を含む、経験豊かな料理人・サービススタッフが、品質とおもてなしを磨き続けています。さらに、10万名規模の顧客基盤から得られる声や需要データを、商品開発や販売施策に生かせることも大きな強みです。これらを連鎖させて価値に変えられる点が、私たちの競争優位だと考えています。
ーー現在の会社の事業構成と新たな取り組みについて教えてください。
田上剛大:
現在はCSTホールディングスの下に5つの事業会社が連なり、外食、水産卸・輸入、製造加工、ケータリング、通販・ギフト、F&Bを担っています。各社を単独で拡大させるのではなく、調達、商品、顧客、設備、人材をグループ内で循環させ、全体最適で価値を高めることを重視しています。
高級海産物を中心に、調達・輸入から製造加工、卸、レストラン、通販までを一貫して手掛ける食のバリューチェーン企業である点が特徴です。特に製造加工は、外食・宿泊業界の人手不足や省人化ニーズを背景に成長余地が大きく、品質の安定と現場負担の軽減を同時に実現できる中核領域です。今後も付加価値と生産性を高めながら、BtoBの取引基盤を広げていきます。
レストランをブランド拠点に 事業間の相乗効果を生む
ーー店舗運営とBtoB事業はどのような関係にありますか。
田上剛大:
レストランは、収益を生む場であると同時に、ブランド、技術、人材、顧客接点を磨く中核拠点です。そこで培った料理・サービスの品質や現場の知見を、製造加工、卸、通販の商品づくりへ展開しています。一方、店舗外事業は、商圏や席数に制約されず成長できる領域です。両者が互いを強くする構造をつくることで、単一事業への依存を抑え、安定性と成長性を両立させています。
料理人とサービススタッフは、日々のお客様の声や現場の使い勝手を商品開発へ還元します。ホテルや旅館、他社のキッチンへは、扱いやすく品質を再現しやすい商品として届けています。外食のブランド力がBtoBの信用を生み、BtoBで得た知見と収益が店舗や人材への再投資につながる。この循環が、CSTグループならではの成長モデルです。
ーー新たな取り組みについてお聞かせください。
田上剛大:
新たにカタログ通販などの卸を担う企業をグループに迎え入れました。M&Aの目的は、規模だけを大きくすることではなく、既存事業と相乗効果のある販売チャネル、顧客接点、ノウハウを得ることです。対象企業の強みと文化を尊重しながら、商品開発、調達、物流、顧客基盤をつなぎ、双方の価値を高める統合を進めています。
カタログ通販は、ネット通販とは異なる顧客層に届き、需要が見通しやすい特性があります。中納言を知る入口を増やし、就職祝い、お顔合わせ、お食い初め、長寿祝いなど、人生の節目にレストランを選んでいただく。店舗で生まれた信頼を通販へ、通販で生まれた接点を店舗へ循環させることで、長期的な顧客関係を育てています。
ーー最近の中で特に大きな成功体験はどのようなものでしたか。
田上剛大:
大阪・関西万博のセルビア共和国パビリオンでF&B事業を担い、1日約2,000食の大規模オペレーションをやり切ったことです。前例が少なく、多くの企業が慎重になる中で「先ず動こう」と手を挙げました。多国籍の関係者と連携し、安全かつ安定的に運営できたことは、私たちの現場力とプロジェクト遂行力の証明になりました。
ナショナルデーのガラディナーでは、各国の要人に食事とサービスを提供しました。通常の店舗運営では得られない経験を通じ、社員は異文化コミュニケーション、品質管理、危機対応、数値管理を実践的に学びました。多くの国の方々と調整し、立案から実行まで担ったことで、若手を含むメンバーの視野と仕事の幅も広がりました。2027年の国際園芸博覧会でもF&B事業への参画に向けた協議を進めています。一つの挑戦を次の事業と人材育成につなげることが、私たちの成長のあり方です。
ーー飲食業界において、長く働く社員が多い理由は何だとお考えですか。
田上剛大:
仕事の満足度は、やりがい、成長、報酬、休日、人間関係、安心して働ける環境の「掛け算」だと考えています。人によって大切にするものは異なるため、日々の対話を通じて意向やライフステージを理解し、できる限り柔軟に応えることを大切にしています。同時に、公休日の拡充、健康経営、評価制度の刷新、フィードバック文化の定着を進め、働きやすさと成長実感の両方を高めています。あたたかさだけでなく、互いに責任を果たし、挑戦を支え合うたくましさを持つことが、長く働ける組織につながると考えています。
100億円を通過点に 次世代のリーダーと「いい会社」をつくる
ーー今後の採用で強化したいポジションはありますか。
田上剛大:
新卒採用を継続しながら、中途採用も本格的に強化します。求めているのは、国際F&B、海外輸出、製造加工、法人営業、EC、DX、人事・経営管理など、各領域で専門性を発揮し、周囲を巻き込みながら事業を前に進められる人材です。一方、豊富な経験だけを求めているわけではありません。素直に学び、感謝を忘れず、まず動き、挑戦から学べる方には、年齢や社歴に関係なく責任ある機会を提供します。将来の店長、料理長、部門長、事業責任者を、社内から育てていきたいと考えています。
ーー長期的な視点で描く未来の構想をお聞かせください。
田上剛大:
目指すのは、高級海産物を中心とした食のバリューチェーンを強固にし、「食で笑みを」をより多くの人へ届けることです。2035年の売上高100億円は目的ではなく、人材、設備、新事業へ再投資し、雇用、品質、取引先との信用を守るための経営基盤です。私たちは「右手に浪漫、左手に算盤」の考えのもと、理念と収益、短期と長期、あたたかさとたくましさを二律両立させます。「いい会社をつくろう」というミッションを実践し、経年劣化ではなく経年優化を重ねながら、次の100年もお客様、社員、地域、取引先から愛される企業を目指します。会社が大きくなること自体ではなく、関わる人の笑みと誇りが増えることが、私たちの成長です。
編集後記
インタビューを通じて伝わったのは、理念と経営を切り離さない田上氏の姿勢だ。再建で培った財務規律を守りながら、外食、製造加工、卸、通販、F&Bをつなぎ、持続的な成長を目指す。一方で、その中心にあるのは常に人である。「食で笑みを」「いい会社をつくろう」という言葉を、事業戦略、人材育成、働く環境へ落とし込む同グループ。あたたかさとたくましさを二律両立し、信用を積み重ねながら100年企業へ向かう挑戦は、これからも続く。

田上剛大/1980年生まれ。兵庫県出身。高校、大学時代を海外で過ごす。アメリカのボストン大学を卒業後、大手コンサルティング会社に入社。2010年に株式会社中納言へ入社。2015年、代表取締役社長に就任。現在は株式会社中納言代表取締役社長、CSTホールディングス代表取締役・グループCEOとして経営全般を統括。趣味は家族や仲間との旅行。