
株式会社ビー・ワイ・オーは、「和食居酒屋」の先駆けとなった「和食・酒 えん」などを運営する企業だ。この他にも、手軽に食べられる和のファストフードとして人気のだし茶漬け専門店など、和食を軸に数々の業態の飲食店を経営している。
同社が商業施設との相性が良い理由や、「次世代の和食を創る」に込めた思いなどについて、代表取締役社長の中野耕志氏にうかがった。
料理人として腕を磨くため10代で海外修業へ。事業運営に興味を持つきっかけになった創業者との出会い
ーーまず料理人になるまでの経緯を教えていただけますか。
中野耕志:
幼少期から親にいろいろなレストランに連れて行ってもらっていたため、食への興味は強かったですね。そこから自分で美味しい料理をつくり、多くの人に届けたいという思いが芽生えていきました。
高校卒業後は勉強に時間を割くよりも、一早く料理の道に進もうと思い、海外で料理修業をしようと決めます。労働ビザを取得するため、1年間日本の店で働いた後、日本食レストランが多いドイツのデュッセルドルフに渡りました。
朝の6時から夜中の12時まで働きづめで、下っ端の私は魚の処理などの雑用ばかりでした。下宿先の環境もあまり良くなく、気分が沈む毎日でした。ただ、先輩方にさまざまな国のパーティーや出張に同行させてもらったことは、とても貴重な経験となっています。その後帰国し、原宿のレストランで働き始めました。
ーービー・ワイ・オーに入社したきっかけをお聞かせください。
中野耕志:
29歳のときに勤めていたレストランが閉店することになり、独立を考えていた中、弊社の創業者と出会います。100坪もの大型店舗の事業構想を聞いてワクワクし、一緒に仕事がしたいと思い、入社を決めました。
それからは料理長として料理を提供しながら、社長の右腕として事業方針などについて意見を交わすようになりました。そしてコロナ禍の真っ只中の2021年に、社長に就任します。この頃は他の飲食店と同様に営業自粛を余儀なくされ、大打撃を受けました。
こうした中で採算が見込めない店舗は思い切って閉店し、できるだけ資金の流出を防ぎ、何とか窮地を乗り越えました。
多業態だからこその商業施設との相性の良さ。重視するのは食の付加価値を与えること

ーー改めて貴社の事業内容を教えてください。
中野耕志:
弊社は和食ダイニング「えん」のほか、惣菜を提供する「和食屋の惣菜 えん」や、お茶漬け専門店「だし茶漬け えん」などを運営しています。これらの店舗は商業施設を軸に展開していて、弊社ならではの特徴といえます。
また、ダイニングの大型店は、昼は和食料理店、夜は和食居酒屋とすることで、時間帯を問わず集客が可能であり、さまざまな客層が集まる商業施設に適しているためです。また、複数の業態を運営しているため、地下から上層階まで自社で網羅できる点が、弊社の大きな強みですね。
ーー事業のアイデアはどこから発想を得ているのですか。
中野耕志:
普段、街を歩く際には、世間で何が流行しているのかをチェックするよう心がけています。そしてなぜ多くの人に支持されているのかを考え、自分なりの答えを見い出すことを心がけています。
ーー飲食事業を運営をする上で大切にしていることを教えてください。
中野耕志:
ただお腹を満たすだけでなく、「食べることの楽しさ」を感じていただけるよう心がけています。旬の食材を使い見た目にも気を配るなど、心も身体も元気になっていただくメニュー開発を意識しています。
また、私たちが重視しているのが、「一見すると自分でもつくれそうでつくれない」料理を提供することです。弊社が提供しているおばんざいは、一見家庭でもつくれそうではあるものの、十数種類の食材を調達して調理するのは大変です。こうして店舗にわざわざ足を運ぶ価値を感じていただけるようにしています。
サービスの向上でお客様も従業員も幸せになれる環境をつくりたい
ーー今後の注力テーマをお聞かせください。
中野耕志:
他の飲食店と同様に、弊社も人手不足が課題となっています。限られた人員でお客様とのコミュニケーションに時間を割くため、現在、DXの推進に力を入れています。飲食店は接客業のため、バックヤード業務に時間を取られ、接客がおろそかになってしまっては本末転倒です。
そのため、業務効率を高め、接客サービスの質をさらに向上させていきたいと考えています。そして、お客様と接する時間が増えることで、従業員にも仕事を心から楽しんでほしいと思っています。美味しい料理と心のこもったサービスを提供することで、お客様に喜んでいただく、そしてお客様から感謝のお言葉をいただくことで、従業員も幸せな気持ちになる。こうした良い連鎖を広めていくことが、これからの飲食業界にとって重要だと考えています。
どれだけ会社の規模が大きくなっても、お客様が喜ぶ顔を想像しながら、自分たちでつくった料理を提供し続けていきたいですね。
ーーその他に人手不足解消の取り組みを教えていただけますか。
中野耕志:
弊社では早い段階から、特定技能実習生の採用を積極的に進め、現在は全社員のうち40%を占めています。彼らは言語や文化が異なる国で働く決断をしてここに来ている分、向上心が高いと日々感じていますね。彼らが仲間に加わることで、組織の活性化につながればと思っています。
また、日本の和食文化を内側から理解してもらうことも重要だと考えています。そして四季折々の素材の味を生かすなど和食の魅力を知ってもらった上で、母国で日本食の魅力を広めてもらいたいと考えています。こうして日本食という文化そのものが、世界各国に広がっていくことを期待しています。
海外へ浸透しつつある今だからこそ、日本食の真の魅力を伝えたい
ーー中野社長が提唱する「次世代の和食を創る」に込めた思いをお聞かせください。
中野耕志:
来日する目的のひとつになるほど、海外でも日本食は定着しつつありますよね。しかし、私はもっと日本食の奥深さを知っていただきたいと考えています。たとえばお寿司にしても、海外の方が見よう見まねでつくったものと、日本の職人がつくるものとでは大きな差があります。
海外から来た方に「これが本当の日本食なんだ」と感じていただくため、和食の幅を広げていきたいですね。そのために固定観念にとらわれず、新たな価値を見い出せる人材を育てていこうと考えています。
ーー最後に就職活動中の方々へメッセージをお願いします。
中野耕志:
仕事を選ぶ際は、自分がその仕事を楽しめるかどうかを重視してください。たとえその道が自分に合っていなかったとしても、好奇心を持って臨めば、必ず次の道が開けてくるでしょう。
編集後記
これまで「食が生活の中で粗末にならないようにしたい」という理念を掲げてきた中野社長。今回のインタビューで、日々忙しく生活する中でも、今一度食の大切さを見直したいと改めて感じた。株式会社ビー・ワイ・オーはこれからも食の楽しさを人々に伝え、ほっと一息つける温かな空間を提供していく。

中野耕志/⾼校卒業後、国内で料理人修⾏を経て渡独。現地の⽇本料理店で研鑽を積む。帰国後の1996年、株式会社ビー・ワイ・オーに参画。同社が和⾷を中⼼にして業態数・店舗数を拡⼤していくなかで、料理長、常務取締役を務める。2021年、代表取締役社長に就任。