※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

なめらかでほどよい弾力のある食感と、深い旨みや味わいを持つ焼き鳥を提供する株式会社炭寅コーポレーション。同社が扱う「みつせ鶏」は創業者が赤鶏同士を掛け合わせて開発に携わった独自の銘柄で、その味と品質にこだわり抜いた銘柄鶏は、従業員たちの誇りとなっている。

また、独立支援制度や充実した研修制度を整備するなど、従業員のキャリア形成にも積極的に取り組んでいる。今回は、コロナ禍を乗り越え、現在は福岡県を中心に全国12店舗を展開するまでに至った同社の代表取締役の横尾和磨氏に話をうかがった。

従業員たちの情熱が変えてくれた、仕事への向き合い方

ーー貴社に入社するまでの経緯をお聞かせください。

横尾和磨:
弊社の母体である株式会社ヨコオは親族が経営していますが、父はもともと本家ではなく、私も三男で「事業は長男が継いでいくもの」という意識があり、私が入社することはないと考えていたのです。

大学卒業後は、住宅を提案する仕事に魅力を感じて、営業職としてハウスメーカーに就職しました。入社当初は、「この会社でスキルを身につけさせてもらい、将来的に独立して会社を立ち上げたい」という気持ちが強かったですね。

ハウスメーカーで働いて数年経過した1999年、株式会社ヨコオが外食事業部を立ち上げ、焼き鳥屋を開店することになりました(2005年にヨコオより独立法人化)。その頃から私に「入社して焼き鳥屋をやってほしい」という話が出始めたのです。最初はあまり乗り気ではなかったのですが、何度も話し合いを重ねる中で入社を決心したのです。

ーー入社後はどのように心境が変化しましたか?

横尾和磨:
実際に入社してみると、一緒に働く人たちがみんな夢を持っていることに気がつきました。2002年の入社当時はまだ焼き鳥屋は3店舗しかなかったのですが、「これから店舗を増やして売上を伸ばしていこう」という意気込みを感じましたし、「うちの焼き鳥は美味しい」という誇りを全員が持って働いていたのです。この会社は、みんなの熱い思いが集まってつくられたものだと知り、私も意欲的になりました。

コロナショックで売上激減の苦境に

ーー2020年の社長就任後、コロナショックをどのように乗り切ったのですか?

横尾和磨:
社長に就任した3月頃からコロナウイルスの感染者数が増えて、売上もどんどん減っていきました。前年の業績が不振な中でコロナショックの直撃を受けてしまったのです。財務関係を前社長に任せていたため、会社にどのくらいキャッシュがあるのか把握しないまま社長に就任して、収入源の確保もできない状況からのスタートとなりました。

特別融資を受けたものの、無事に返済ができるかどうか不安でしたね。不採算店舗は全部閉め、本社も家賃が安いところに引っ越しするなど、経費削減に努めました。従業員の給与も下げさせてもらい、徹底的なコスト削減を図ったのですが、結果として退職者が相次ぐ事態になってしまったのです。「やはり待遇は良くしなければいけない」と痛感し、本格的に営業を再開するときには待遇を改善してイチから人を集めました。

キャリアアップと独立支援の制度が充実

ーー改めて、貴社の事業内容を教えてください。

横尾和磨:
弊社は福岡を中心に、12店舗の焼き鳥店や居酒屋を展開しています。弊社が扱っている「みつせ鶏」は、弊社の創業者が、「鶏本来の旨みと柔らかい食感を持つ安全な鶏肉を提供したい」と考えて開発に携わった鶏種です。そのため、弊社でしか取り扱っていない希少部位やメニューがあること、また鶏を知り尽くしているからこそ出来る調理技術が他社との差別化につながっています。

ーー従業員が働きやすい環境づくりに関して、どのような取り組みをしていますか?

横尾和磨:
やはり待遇が良くないと人が集まりません。給与面には気を遣っていますし、有給が取得しやすいように採用人数も増やしました。また、最近では転勤をしなくても働き続けられるように、ドミナント戦略で店舗を増やして、ライフスタイルを変えずにキャリアアップできるような体制を整えました。

さらに、弊社には「独立支援制度」というシステムがあり、将来お店を持ちたい人のためにさまざまなサポートを行っています。具体的な取り組みとしては、店長になりたい人に仕入れ額や売上などの数字を共有して商売の勉強をしてもらったり、旬の素材を使った料理のことを教えたりしており、積極性さえあればいくらでも勉強できる環境を整えています。

この独立支援制度の一番のメリットは、弊社経由で仕入れができることです。独立後も弊社のフランチャイズのような形で、弊社のスケールメリットを生かした仕入れ価格で仕入れが可能になります。弊社でしか取り扱っていない稀少部位の仕入れも可能です。

独立する際には、「借金をして店を建てる」というリスキーな側面もあり、そこがネックになっていることも多いかと思います。今後は現在の独立支援に加えて、弊社がつくった新店舗を業務委託契約のような形で任せるスタイルの独立も視野に入れていきたいですね。

地域一番の待遇と自己実現を叶える職場づくり

ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。

横尾和磨:
地域で一番の待遇を目指して、みんながキャリアアップのためにチャレンジして成長できる、そんな会社を目指したいですね。外食産業の知識、技術、人間性を身につけ、創造的で幅広い視野が持てる人材を育てていきたいと考えています。

そのために、来期からは月1回勉強会を開いて技術の向上を目指したり、外部講師による講習会を開催したりする予定です。「命をいただいていることに感謝する」という、飲食業の根底にある考え方を伝えていきたいと思います。

また、今後は1年に1〜2店舗ずつ店舗数を増やして、2030年までに20店舗に拡大したいです。店舗数が増えれば、店長や料理長などのポストも増えます。店舗数の増加に合わせて採用人数も増やすつもりなので、キャリアアップを目指す人はぜひとも弊社で働いてほしいです。成長するための環境は整っていると思いますよ。

編集後記

飲食店で働く人々の待遇改善という課題に真摯に向き合う横尾社長の姿勢が印象的だった。給与面の改善はもちろん、有給休暇の取得促進や教育制度の充実など、具体的な施策の数々に説得力があった。

特に、独立支援制度については、店舗物件の提供という新たな試みも検討されており、従業員の夢を全面的にバックアップする覚悟が感じられる。「地域一番の待遇を」という目標に向かって着実に歩みを進める同社の取り組みは、業界全体のモデルケースとなるだろう。

横尾和磨/1972年佐賀県生まれ、九州国際大学卒。1995年、九積セキスイハイム株式会社(現セキスイハイム九州)に入社し、住宅営業を6年間経験。2002年、ヨコオ商事外食事業部(現炭寅コーポレーション)入社。ひなっ子大橋店店長、炭寅天神店店長、営業企画部長、営業部長、常務取締役を経て、2020年に同社代表取締役社長に就任。