※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

囲炉裏を囲むようにカウンターが置かれた店舗や、テラス席でバーベキューも楽しめる店舗など、「野菜逸品 五十棲」をはじめとした異なるコンセプトの飲食店を京都に11店舗展開している株式会社五十家コーポレーション。

野菜に特化したメニューが特徴で、2003年の1店舗目の開業から人気を集め続けている。

野菜農家の家庭で育ち、「創業時は父と母にも指導してもらった」と語るのは、代表取締役の五十棲新也氏だ。どのような経営で事業を成功させているのか、開業までの経緯や店舗の強みなどを聞いた。

母の手料理から「野菜を使った家庭料理」に需要を見出した

ーーお店を始めるまでの話を聞かせてください。

五十棲新也:
大学を卒業してから居酒屋チェーンで修業しました。居酒屋チェーンで修業をしたのは、大学生のときの友人がアルバイトをしており、店内でのチームづくりなどを見て「こんなお店をつくりたい」と思ったのが理由です。

当初は1年ほどで修業を終わらせようと思っていましたが、キャベツの切り方も分からなければ、原価計算の方法も知らない。すべてが初めてのことで、1年ではとても覚えきれず、結局修行を終えるまでに3年10カ月ほどかかりました。その後、独立して京都市内にお店を開業したという流れになります。

開業当初は、友人がまた別の友人を連れてお店に来てくれるなど、口コミでお客様がどんどん来店してくれて、開業から半年ほどで満席の日が続くようになりました。

ーー野菜に力を入れたお店づくりをしたのは、どういった背景があったのでしょうか。

五十棲新也:
串焼きとおでんをメインに提供しつつも、「商品に何らかの“尖り”がほしい」と思っていたときのことです。

当時、母が僕やスタッフたちのために野菜を使った料理をよく届けてくれていたのですが、食べる時間がなかったので、お客様におすそ分けすることがよくありました。そうしたら母の料理が思いのほか人気を集め、お客様から「あなたのお母さんがつくった煮っ転がしをまた食べたい」と言われるまでになったのです。

この出来事をきっかけに「野菜を使った家庭料理は、きっとお客様の心を掴むはず」と思い、また野菜で突出しているお店が周囲に1店舗もなかったことから、野菜に力を入れたお店づくりを始めました。

畑で採れた野菜をその日のうちにテーブルに出す「FARM TO TABLE」が強み

ーー事業内容や強みを聞かせてください。

五十棲新也:
野菜を楽しめる飲食店を京都に11店舗展開しており、自分たちで農業を行うための農地を3拠点持っています。

商品は野菜がメインで、土を使わずに水と液体肥料で旬の野菜を育てる「水耕栽培」や、屋外で作物を育てる昔ながらの農法である「露地栽培」の両方に取り組んでいるのが特徴です。また、野菜だけでなくお米の栽培も手がけています。

最大の強みは、朝に畑で採った野菜をその日のうちに調理し、お客様のテーブルに届ける「FARM TO TABLE」を実践していることです。

そのほか、商品力に加えて人間力も強みで、お客様に温かく接することができるようなスタッフの育成に力を入れています。

ーー会社や組織の特徴についても教えてください。

五十棲新也:
弊社は、飲食店ではめずらしい週休2日を実現するなど、働きやすい環境づくりにも取り組んでいます。また、社員の独立も応援しており、スペシャルクラスという評価を獲得した社員に対しては、会社の資本でお店を出せるよう支援しています。

さらに、アルバイトの方たちも含めて、接客や電話の受け方などをロールプレイングで学ぶサービス講習会も開催しています。アルバイトの中には学生もいるので、社会に出てからも通用する人材を育てたいという思いがあり、しっかりと教育するために店を閉じて講習会を行っています。

そのほか、社員たちが店舗の枠を超えて良い関係が築けるように、社員たちの社内旅行や、アルバイトがお店をやめるときには“卒業旅行”などのイベントを開いているのも特徴です。

お客様に新たな「食のレジャー」を体験してもらいたい

ーー今後の注力テーマをお願いします。

五十棲新也:
注力テーマの1つはECの強化で、今後はお店の人気メニューをオンラインで販売していきたいと思っています。

たとえば味噌漬けや酒粕漬け、オイル漬けにした野菜「漬け野菜」はチーズやワインに合う前菜として人気を集めており、野菜の新たな美味しい食べ方を提案する商品として、今後はECでも展開していきたいと思っています。

また、人材の採用と育成も注力したいテーマです。採用に関しては「人を喜ばせることに喜びを感じる人」に来てほしいと思いますし、そういった人材を育成し、社員たちの独立という夢を叶えてあげられる会社でありたいです。

ーー最後に、今後の目標をお願いします。

五十棲新也:
昨今はインバウンド需要向けのお店が増えていますが、弊社は地域に密着し、地域の人々から長く愛されるお店づくりを、農家の方々とも協力しながら実現したいと思います。

今考えているのが、店舗の横に畑をつくり、お客様ご自身で野菜の収穫を体験してもらう形の飲食店を郊外につくることです。お客様が採ってきた野菜をお店で調理して、実際に食べていただくというビジョンを描いています。

「採って、調理して、すぐ食べる」という食のレジャーを、お客様に体験してもらうことを目指していきます。

編集後記

「FARM TO TABLE」という、野菜に特化した切り口で他社と差別化し、地域の人々を中心に愛されている五十家コーポレーション。京都という外国人観光客の多いエリアにありながら、地域密着の視点を欠かさないのが同社の強みだ。今後はさらにECにも注力し、来店客が自ら野菜を収穫するなどの新しい試みも行っていくという。全国に同社のファンが増えるのは間違いないだろう。

五十棲新也/1974年、京都生まれ。京都産業大学卒業後、居酒屋チェーンで修業。2003年に「五十棲」を開業し、2007年に五十家コーポレーションを設立。