※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

創業160年を超える宮崎木材工業株式会社は、「京指物(きょうさしもの)」の伝統技術を守りながら、時代のニーズに合わせた革新に取り組んでいる。代表取締役社長の宮﨑真里子氏は経営のバトンを継いだ。今回のインタビューでは、宮﨑社長の原動力となる「家業への恩返し」の思いと、同社が取り組む伝統と革新の融合について語っていただいた。

「家業への恩返し」を原動力に家具小売から内装業界へ

ーー社長に就任された経緯をお聞かせください。

宮﨑真里子:
幼少期から自分は家業のおかげで育ってきたという思いが強く、いつか家業に恩返ししたいと考えていたため、現在、経営者としての道を歩むに至っています。

もともとは、京都の夷川通(えびすがわどおり)にある家業の家具の製造・販売の会社で働いていました。その後、紆余曲折を経て宮崎木材工業の経営を引き継ぐことになりましたが、小売業から内装業に転身したことで、扱う材料も工程も全く異なるため、知識もノウハウも一から学ぶ必要がありました。

正直不安もありましたが、先代から受け継いだ伝統を守りながら、新しいことにチャレンジできるやりがいを感じています。事業内容は変わりましたが、家業を通して人々の暮らしに携わるという思いは変わりません。

ーー貴社の強みである「京指物」について教えてください。

宮﨑真里子:
京指物は京都の伝統的な木工技術です。熟練職人が何十年もかけて磨き上げてきた技の結晶ともいえる家具や調度品を作る技術となります。弊社では、職人の卓越した京指物の技術を活かして、時とともに味わい深くなる木材の空間を内装業として生み出してきました。特殊な工事も多く、職人の高い技術力が、お客様からの信頼につながっていると感じています。

私自身、伏見の工場に足を運び、職人の仕事ぶりを間近で見ることがありますが、機械化が進む現代においても、手仕事だからこそ生み出せる温もりや品格があると感じています。これらを大切にしながら、お客様に喜んでいただける製品を作り続けることが京指物の伝統を守り続ける私たちの使命だと考えています。

木材の可能性を追求した素材開発で新たな内装材の魅力を引き出す

ーー伝統技術を活かしつつ、新たな取り組みにも力を入れているそうですね。

宮﨑真里子:
京指物の技術を守りながら、現代のニーズに合わせて進化させていくことが重要です。新素材の研究開発にも取り組んでいます。例えば、最近では不燃素材の開発に力を入れています。木材の温もりを活かしつつ、現代の建築基準に適合する高機能な内装材を開発することで、これまで以上に幅広い現場で木材が活用されることを目指しています。

弊社の研究開発の歴史は長く、はじまりは80年以上前にさかのぼります。京都には試験場や研究施設があり、そこで職人が日々新たな可能性に挑戦しています。現在の研究開発は専任の社員が担当していますが、今後はさらに体制を強化していきたいと考えています。永く木材に向き合ってきた経験と知識を活かしつつ、最新の技術も取り入れながら、木材の新たな魅力と可能性を引き出せるような活動に取り組んでいきます。

社員との対話を通じて、会社の未来をともに創る

ーー職場環境への取り組みを教えてください。

宮﨑真里子:
社長になってまず初めにしたことは、社員全員と面談することでした。会社のこと、仕事のことを私自身がよく知らなかったので、一人ひとりから直接話を聞いて、問題点を浮き彫りにしていきました。社員側も普段言えないようなことを率直に話してくれて、この面談は非常に良かったと思います。

社員とのコミュニケーションは、今でも大切にしています。現場の声に耳を傾け、時には社員の新たなアイデアを取り入れることで、風通しの良い職場環境を作っていきたいと考えています。

ーー職人の技術の継承については、どのように取り組んでいますか?

宮﨑真里子:
弊社の職人は何十年もの経験を積んだベテランが多く、その高い技術力が強みになっています。一方で、その技術を次の世代にどう継承していくかは重要な課題です。技術の継承はベテランから若手へ長い時間をかけて行われるもので、一つひとつの工程を丁寧に教え込む必要があることから、一人前になるまでには10年以上かかると言われています。

現代はすぐに結果を求める風潮がありますが、私たちの仕事に大切なのは積み重ねです。職人には日々の鍛錬を怠らず、コツコツと技術を磨き続けてほしい。そう願いながら、私自身も育成に力を注いでいきます。

編集後記

インタビューを通して、宮﨑社長の家業に対する深い愛情と、伝統と革新の両立を目指す姿勢に感銘を受けた。その言葉からは、先代から引き継いだバトンを決して途切れさせないという覚悟と伝統を守りつつも革新を取り入れていく決意が感じられた。

変化の激しい時代にあっても「木」の魅力を追求し、その可能性を切り拓く宮崎木材工業。160年を超える歴史を誇る老舗企業が、宮﨑社長のもとでどのような進化を遂げていくのか。今後の展開に注目したい。

宮﨑真里子/京都府生まれ。家具の製造・販売に従事した後、創業168年の家業である宮崎木材工業株式会社の代表取締役社長に就任。