※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

農林水産省の「農林業センサス(全数調査)」によると、農業を主な仕事とする2020年の「基幹的農業従事者」数のうち49歳以下の若年層の割合は11%、20〜49歳層は親からの経営継承や新規参入などにより増加傾向にある。

若者の農業への関心が高まりつつあるなかで、2005年に福岡で創業し、商品開発や販路開拓などの多角的なアプローチで農家をプロデュースする株式会社クロスエイジ。

同社の代表取締役、藤野直人氏に、起業してから苦労したことや事業内容、見据える未来についてインタビューを行った。

起業後に直面した組織づくりの課題

ーーいつ頃から起業を意識していたのでしょうか?

藤野直人:
中学3年生の頃に「何でもできるのであれば起業したい」と思い、大学時代に「社会問題を解決するための事業をしよう」と考えるようになりました。

ーー起業してからどのような苦労がありましたか?

藤野直人:
結論から言うと、組織づくりに苦労しました。23歳で起業して最初の3年は従業員を雇わず1人で事業を行っていましたが、より大きなソーシャルインパクト(社会変革の影響度)を目指していたため、4年目から毎年約10名ずつ社員採用を始めました。

しかし、「社会課題を解決しながら上場し、売上100億円の企業にしたい」という私の思いやビジョンと、当時のメンバーの考えを一致させることに苦労し、創業から10年間で計70名を雇用しましたが、残ったのは27名だけでした。

総合プロデュースで稼げる農家を生み出す

ーー農業分野で他にはないビジネスモデルを確立する貴社の事業内容を教えてください。

藤野直人:
農家へのコンサルティングサービスと、農家から農産物を仕入れてバイヤーに販売する流通サービスの2つの事業を展開しています。

農業コンサルティングのコンセプトは地域にスター農家をつくることです。スター農家とは、売上5000万円以上で、さらなる成長を目指している農家を指しますが、現在は全体の1%も存在しないといわれています。コンサルティングのターゲットは、売上3000万円以上で野菜か果物を生産している40代以下の若い世代の農家です。日本の食と農を支えるスターをたくさん生み出して、多くの若者に活躍してもらいたいと思っています。

ーー貴社のビジネスモデルによってどのようなスター農家が生まれましたか?

藤野直人:
当時、売上が1億円ほどだったネギ農園で、ネギをカットして出荷する事業モデルを一緒に考え、弊社の流通サービスにより九州一帯で販売したところ、現在では全国トップクラスの売上を誇る農園に成長しました。

若手社員がやりがいを持って働ける組織への変革

ーーどのように新卒採用を進めていますか?

藤野直人:
マイナビやリクナビのインターンシップやOB訪問などのほか、「農業分野で社会の役に立ちたい」と考える全国の学生が弊社のことをネットで調べて採用に至るケースも少なくありません。実際に、関東や東北出身の社員も多く在籍し、その多様性が弊社の魅力のひとつです。

また、弊社では若手社員に対して早期のキャリアアップを支援しています。新卒3年目で課長級、5年目で部長級にまで昇進することも珍しくありません。思いを持った優秀な人材には年齢に関係なく役職を任せ、その思いや能力を活かせる環境を提供しています。さらに、若手社員がある程度の給料をもらって働けることが地方創生につながると信じています。

農業の社会的地位向上を目指して

ーーコンサルティングサービスのさらなる拡大を見据えているのでしょうか?

藤野直人:
現在コンサルティングを請け負っている農家は120軒ほどですが、今後は200軒を目標としています。単にシェアを広げるというよりも、常に成長し続けるスター農家を200軒育てることが目標です。

新規開拓については、メルマガ配信やフェイスブック広告からオンラインセミナーに参加してもらった後、個別でカウンセリングしてから契約するという流れを確立しています。まだコンサルティング業務ができない入社1、2年目の社員がマーケティング業務や営業を担い、他にも月に3回実施しているオンラインセミナーの集客や運営、各種会合への登壇依頼などを任せています。

ーー流通サービスについて、今後新たに挑戦する取り組みはありますか?

藤野直人:
現在は福岡と仙台に拠点があり、そこから全国のスーパーや外食チェーンへの営業活動を進めています。2、3年後には、新しく静岡か名古屋に拠点を置いて、関東や東海地方にも拡大していきたいと考えています。さらに、海外のベトナムに拠点を置くことも視野に入れています。

ーー今後、会社をどのように成長させていきたいですか?

藤野直人:
上場することを目指していますね。ソーシャルベンチャー企業として、上場することで社会的信頼を得ることができ、採用の面でも間口が広がると考えています。

また、2021年に売上10億円を突破しましたが、最終的な目標は売上100億円の企業になることです。今後は農業プロデュース事業としてコンサルティングサービスと流通サービスを行うだけでなく、プロデュースした農家との共同出資によって国内外にさまざまな農場を展開していく方針です。

ーー社長自身の今後の目標はありますか?

藤野直人:
私は人生でやりたいことを10個決めていて、売上100億円の企業になることと上場することを叶えると、6個目まで達成したことになります。その先は、今弊社で取り組んでいる事業以外の社会課題の解決や、社会課題に挑戦する人たちに対する出資や経営のアドバイス、人脈づくりのサポートをしたいと考えています。

編集後記

販路開拓に困っている農家が多いなかで、農家にもメリットがあるサービスを自信を持って提供していると語る藤野社長。「農業=稼げない」というイメージは払拭されつつあるものの、実際に周りで「農業をしたい」という声はまだ少ないように感じる。

人々の食や暮らしを支える農業の可能性を広げ、若手人材にとって魅力ある産業づくりの一翼を担う株式会社クロスエイジの今後の活躍と、農業分野のさらなる発展に期待したい。

藤野直人/1981年奈良県生まれ台湾育ち。九州大学在学中にインターンシップで農業と出会い、農業分野の多くの問題やさまざまな課題を知る。大学卒業後、農業が産業として成立する仕組みを世の中につくるべく、社会起業家として2005年に株式会社クロスエイジを創業。