※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

タマノイ酢株式会社は、大阪の酢造5社が集まり大阪造酢合名会社を設立したことに端を発する老舗の食酢メーカーである。日本国内では「はちみつ黒酢ダイエット」や粉末調味料の「すしのこ」など、多彩なヒット商品を開発していることで知られている。

伝統と革新を兼ね備えたタマノイ酢株式会社の代表取締役社長を務める播野貴也氏に、会社の存在意義や今後の展望などをうかがった。

自分の意思で決断し、自分の力で這い上がることの大切さ

ーータマノイ酢の社長になるまでの経緯を教えてください。

播野貴也:
父から社長になってほしいと言われたことは一度もなかったです。「社長をやるかやらないかは自分で決めなさい」「人それぞれ向いている仕事があるので、無理に継ごうとするのではなく、やりたいことをやればいい」と言われていましたが、いつか父の力になりたいと思っていました。

役員に就任後、「ここから先は自分自身の力で這い上がりなさい。それができなければ昇格はない」と父から明言されました。実力をつけないと昇格ができないと感じ、経営コンサルタントの資格取得やプロジェクトに社員を巻き込んで協力してもらうなど試行錯誤しました。

また、1年以上前から父に社長就任に対する想いを直談判しました。どういう反応をされるか心配していましたが、意外に喜んでくれました。そして、2024年4月より、代表取締役社長に就任しました。

社長が変わると、今までのあり方を一新する企業もありますが、私は企業としてのベースは変えていません。現代のやり方に合わせつつも、これまで社長として父が手がけてきた企業のベースを大事にしたいと思っています。

若年層をターゲットにした新たな取り組みで、新しいお酢の楽しみ方を発信し続けたい

ーー社長に就任してから掲げた経営方針について教えてください。

播野貴也:
就任時に「繋がりを原動力に未来の可能性に挑戦」という経営方針を掲げました。社員やお客さまなど、いろいろな人とつながっていくことでエネルギーが生まれ、それが企業の成長になっていると考えています。

売上向上や上場は大切ですが、主軸としては考えていません。それよりも、社員一人ひとりの成長を大切にしています。弊社では、社員一人ひとりの成長が会社全体の飛躍に寄与すると信じているからです。

ーー企業の方向性や、商品開発についての考えを教えてください。

播野貴也:
長年愛されてきた定番商品をもとに、若年層をターゲットにした新たなファンの獲得を考えています。お酢はすし飯に使うイメージですが、それ以外の使い方へも広げていきたいです。

最近、弊社の定番商品の「すしのこ」をポテトチップスに混ぜて食べる方法がSNSで話題になりました。SNSでの話題をきっかけに、お寿司以外にも多彩な方法でおいしく食べられることを知っていただくため、若年層に刺さる商品を開発したいと感じました。ロングセラー商品の未来の可能性を広げていくことで、今後も事業の発展を目指しています。

現在、「すしのこ」をはじめ、タマノイ酢の商品は海外でも使用されています。「すしのこ」の主な用途は酢飯ですが、海外ではお寿司屋さんの数に限りがあるということもあり、「すしのこ」を使って酢飯をつくり、家庭でお寿司を食べるという文化で日本食を楽しんでいただいています。

今後も、日本をはじめ、海外においても、タマノイ酢の商品を届けられるよう、生活者に愛されるお酢メーカーとして成長し続けていきたいと思っています。

独自の制度「キャリア制社員」で社員が切磋琢磨する環境を構築

ーーキャリア制社員という制度についてお聞かせください。

播野貴也:
キャリア制社員は、社員のステップアップを応援するための制度です。タマノイ酢の社員として働き、社会人としての経験を積みます。その後卒業(※ここでは退職のこと)し、自分自身の夢に向かって羽ばたいてもらう仕組みになっています。

夢を追いかけることが前提の働き方なので自分自身の時間を確保することも必要と考え、基本的には残業なしで仕事ができる環境を整えています。先日も卒業生を輩出しました。5年間の中で会社の支援を得て資格の取得をしたり、さまざまな部署での経験を積み、社会人としての力をつけて巣立っていきます。そんなふうに誰かを応援できる環境は他の社員が働く上でも良い循環になっていると思います。

編集後記

家業の中で自力で代表取締役社長に就任し、その後も社員の目線に立って事業の発展を目指している播野貴也社長。日本人になじみ深いお酢という商品を寿司だけではなく、他の手段でも味わってもらえるようにと、新たな商品開発に余念がない。老舗として築いてきたベースを守りつつ時代の変化とともに求められる価値に合わせて、世界を視野にこれからもタマノイ酢は挑戦を続けていくことだろう。

播野貴也/1984年生まれ。大阪府出身。早稲田大学人間科学部卒業後、2007年に株式会社アサツーディ・ケイ(現:株式会社ADKホールディングス)に入社。2010年、タマノイ酢株式会社に入社。製造から営業までいくつかの業務を経験し2017年に認定経営コンサルタント資格を取得。2024年に代表取締役社長に就任。