※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

経済産業省によれば、結婚式場業の売上高は2022年の2266億円に続いて翌2023年には2346億円を記録。コロナ禍を除けば、令和婚ブーム前年の2018年の2246億円を超えて好調に推移している。ただし人口減少で婚姻件数そのものは減少傾向が続くと予想されるため、より選ばれる結婚式場への対応強化が求められている現状だ。

アニヴェルセル株式会社(1986年設立、東京都港区)は、紳士服大手の株式会社AOKIホールディングスの子会社として結婚式場やパーティ会場、カフェの運営を行うブライダル企業。「ゲストハウスウエディング」の先駆者とされ高いブランド力を誇る同社は、結婚式をトリガーに記念日の企画やプロポーズ事業など多彩な関連事業を展開していることが特徴的だ。

「人を大切にする」をモットーに2019年から同社の総指揮を執る代表取締役社長の松田健一氏に、経営方針や展望について話を聞いた。

人に喜んでもらう仕事がしたくて接客業の道を進んだ

ーーブライダル業界に入ったきっかけは何ですか。

松田健一:
学生時代に大手ファストフード店でアルバイトをしていたためトレンドに敏感になり、「接客業でお客様に喜んでもらう仕事に就きたい」という思いがありました。そこで就活ではアパレル企業を志望し、2001年に現在のAOKIホールディングスに入社しました。

入社2年目に、1998年に開業したアニヴェルセル表参道で、カフェの責任者候補の募集がありました。私はアルバイトでの飲食経験があったため、抵抗もなく「はい」と手を挙げたのです。それが、この業界に入ったきっかけですね。

ーー貴社の社長に就任するまでの経緯を聞かせてください。

松田健一:
その後、国内の主要都市をいくつか回りながら各地の支配人を経験したのち、本社の人事部と販売促進部、そして営業責任者などを歴任しました。そして社長就任の打診をいただいた2019年は40歳目前でした。最初は驚きと不安を感じたものの「社長になりたい」という目標があったので、迷いはすぐに断ち切ることができました。

ーー仕事をするうえで大切にしていることは何でしょうか。

松田健一:
もともと営業の責任者を務めていた経験上、スタッフ一人ひとりの顔と名前をしっかり覚えるのが習慣になっています。そしてその人の魅力を理解することに努めてきました。

また基本中の基本ですが挨拶を大切にしています。店舗に行ったときも本社へ出勤したときも、円滑にコミュニケーションを図るために、しっかり挨拶をすることでスタッフとの大切な関係性が築けると考えています。

お客様に「最高の記念日」を提供するためにさまざまなサービスを企画

ーーウエディング業での重点ポイントはどのようなところでしょうか。

松田健一:
ウエディング需要で重要な部分ですが、結婚する皆さんが式を挙げたいと思うかどうかは「いい結婚式に参列したことがあるか」にかかっていると思います。たとえば学生時代に親戚のお兄さんお姉さんの結婚式に参加したときの「あの場面がとても感動的だった」というシーンをいかにつくっていけるか。このような需要を掘り起こす動機付けがテーマになっていくと考えています。

ーー営業の強化策をお聞かせください。

松田健一:
ウエディング業界での弊社の成約率は高水準を保っています。OJT教育がしっかりしていることがひとつの要因でしょう。スタッフがチームのために頑張りたいというようなマインドで真剣に取り組んでいることが良い結果につながっています。

また、SNSを通じた集客も成果をあげています。もちろん、その後にご成約いただいたお客様に、いかに当式場のファンになっていただくかにも力を注いでいます。

ーー貴社の強みはどんなところでしょうか。

松田健一:
企業目標として、単に結婚式場を運営するのではなく、お客様にとって祝福される最高の記念日をつくることが根底にあります。そのために結婚式だけではなく「プロポーズ事業」や「記念日レストラン」など、結婚式の前も後も大切にしています。

また、式場見学の際に「これなら任せて大丈夫」という安心感をもってもらえる準備をしてお迎えしています。サービススタッフやコンシェルジュの接客など細部にわたるまで気配りをすることで、ご成約に結びついていると考えます。

いつも人でにぎわうゲストハウスへとさらに磨きをかけていく

ーー新卒社員の人材研修についてお聞かせください。

松田健一:
新卒の入社は学生から社会人になる際に大きな節目を迎えるので、人生の中で大切な時間を預かるという企業側の責任も大きくなります。

いきなり仕事を任せるというよりは、大切なのはアニヴェルセルの一員としてマインドセットすることだと思います。そのために宿泊研修時には外部講師も交え、弊社が大切にしている「6つの“らしさ”」(※)や企業理念についての研修を実施し、将来に向けての人材育成とサービスクオリティの向上を図っています。
(※)「アニヴェルセル、6つの“らしさ”。」採用ページ

ーー貴社のサービス力について聞かせてください。

松田健一:
外部組織が開催するサービスコンクールにて、30歳未満のスタッフが出場してサービススキル向上の機会を設けています。ここ数年出場を続けており、名だたるホテル所属の方もいる中2020年に金賞、2019・2021・2022年に銀賞を受賞することができました。

いいサービスを受けたことがない人に、いいサービスを提供しなさいというのは無理な話です。その点では三ツ星レストランでの食事研修など、スキルアップ教育の効果が表れていると感じます。

ーー5年後、10年後はどんな会社像を目指していますか。

松田健一:
サービスコンテンツはにぎわう場所から生まれると思うので、旗艦店の表参道とみなとみらい横浜の2店舗を主軸に、結婚式だけでなく記念日を過ごす場所として憧れられるような施設にしていきたいですね。

多様化する結婚式市場の中で5年後も10年後もその価値を感じていただくために、内容を磨き上げることを怠らずに取り組んでいきます。

編集後記

松田社長のソフトな話しぶりや物腰のやわらかさは、まさに接客業を天職としている印象だ。他方でどんな質問にも即座に受け答えする姿からは、すみずみまでケアを欠かさない仕事ぶりが伝わってくる。

ウェディングプロデューサーや本社の人事部、営業本部長など多種多様な業務経験を持つ松田社長が、「記念日」を意味する名の企業でこれからも多くの人々にスペシャルな思い出を刻んでいくことだろう。

松田健一/1978年生まれ、奈良県出身。2001年、株式会社アオキインターナショナル(現・株式会社AOKIホールディングス)に入社。2002年、アニヴェルセルへ出向。カフェやコンシェルジュを担当後、ウェディングプロデューサー、支配人、本社・販促部、人事部、常務執行役員営業本部長などを経験。2019年6月、アニヴェルセル株式会社の代表取締役社長に就任。