株式会社ニシキは社員15名(2024年4月現在)ほどでありながら、創業時からの制服製造販売に加え、アパレルOEM(※)や、自社ECサイトの運営を行い、ゴルフウェアブランド「ZIXIZ(ジクシーズ)」も立ち上げたばかりだ。次々に新しい取り組みに挑戦する企業文化はどこからくるのか。代表取締役社長の西山茂男氏に、企業文化を形成した歴史と社長の心構えについてインタビューした。
(※)OEM:他社ブランド品の製造を行うこと
どん底での事業継承、逆境をチャンスに変えたV字回復
ーー社長の経歴について、お聞かせいただけますか。
西山茂男:
1997年にニシキに入社し、2008年からは3代目社長として16年間、会社を牽引してまいりました(2024年6月現在)。
弊社は1948年に祖父が自宅で創業し、長年にわたって地域とともに歩んできた会社です。幼い頃から家業に触れていたものの、跡を継ぐという意識は正直ありませんでしたが、祖父や父からは大きな期待を寄せられていることは感じていました。
地元の中学校を卒業後、高知県の明徳義塾高等学校に進学しゴルフ部に所属。大学でもゴルフ部で腕を磨き、大学卒業後は開校したばかりの岡山県にある専門学校国際ゴルフビジネス学院で4年間教員として勤務しました。
そんな中、当時社長だった父から何度か声をかけられ、ニシキに入社することになりました。これまでの人生は好きなゴルフ中心でしたが、家業に触れる中で自然と「家業に貢献したい」という気持ちが芽生えてきたのです。
祖父と父が築いてきた伝統を受け継ぎつつ、新しい風を吹き込むことで、ニシキをさらなる発展へと導いていくことが私の使命と考えています。これからも地域に貢献できる企業として、社員とともに成長し続けてまいります。
ーー入社から社長になるまでに携わった業務について教えてください。
西山茂男:
入社直後は営業経験と知識不足に直面し、思うように会社に貢献することができませんでした。周囲の期待に応えられない自分に焦りと葛藤を抱え、もどかしい日々を送っていました。
そんな中、社内に大量に残っていた変形学生服に目を向け、1円でも高く販売したいという思いから、当時流行し始めていたYahoo!オークションでの販売を思いつきました。独学で販売方法を学び、試行錯誤しながら商品を出品したところ、予想以上の反響を得ることができ、在庫を売り切ることができました。
2001年、業界の先駆けとしてECサイトを立ち上げたものの、当初は思うように売上が伸びず、父である当時の社長からは厳しい叱咤激励を受けるなど、多くの困難に直面しました。「何をやっているんだ!」という父の言葉は、大きなプレッシャーと同時に、この事業を成功させたいという強い決意を私に与えてくれました。
粘り強くホームページの改善を続け、自作のサイトから徐々に売上を伸ばし、ついにEC担当者を任されるまでに至りました。この経験は、困難に直面しても諦めずに挑戦し続けることの大切さを私に教えてくれました。
その後、営業、企画、商品開発など、様々な部署を経験しながら、経営に関する知識とスキルを積み重ねてきました。常に新しいことに挑戦し、失敗を糧に成長を続けることで、少しずつですが周囲からの信頼を得て、役職をステップアップしてきました。
そのほかも2000年に中国人研修生の受け入れ、2002年には認知症対応型のグループホームの立ち上げなどにも関わりました。
ーー新しい事業を始めるにあたり、迷いはありませんでしたか?
西山茂男:
全く迷いはありませんでした。創業者はミシン1台で事業を立ち上げ、スーツの工場からさらなる需要を見込んで学生服の生産工場に切り替えました。寝る間も惜しんで働いたと聞いています。当時は縫製工場の拠点を増やしても、作れば売れる時代でした。しかし、1981年には変形学生服が「非行を助長する恐れがある」などと教育委員会やPTAから反発を受けてしまったのです。
売上が急落し低迷期に入りましたが、縫製技術を活かして他のアパレル事業者から縫製の受注を受け、OEMの先駆けとして乗り切ったそうです。私自身も、「変化しなければ淘汰されてしまう」と考え経営をしています。常に危機感を感じながら、時代の流れに逆らわず前向きにチャレンジしていきたいと思っています。
ーー変化し続けるために、取り組んでいることは何ですか?
西山茂男:
経営者向けの勉強会や研修会に参加し、財務諸表の分析方法や経営戦略の立案など、経営に関する知識や経験を深めています。
以前は、本を読むことに苦手意識がありましたが、経営者として日々学び、成長していく過程で、読書の重要性を認識しました。私が社長になった時に税理士の先生から「一倉定の経営心得」という書籍をいただきました。その本をいつも持ち歩き、何度も読み返し学びました。
一冊を最初から最後まで読むのではなく、現在の課題に関連する箇所だけを読み、すぐに実践に移すことを続けました。中にはすぐに取り組めるものもありましたが、長期的な取り組みが必要なものや、外部の協力を得なければならないものもありました。
読書で得た知識を実際に試すことで、机上では得られない貴重な経験と成長を実感しました。また、同業他社や異業種との交流や勉強会も非常に学びの糧となっています。これらの交流を通して、様々な経営者の経験や考えに触れ、自身の経営に活かせるヒントを得ています。
ゴルフの教えが築く、自律と透明性を備えた企業文化
ーー現在、どのような事業を展開していますか。
西山茂男:
弊社は、繊維製品の検品からプレス加工をする事業部、アパレルや雑貨などのOE事業部、通販事業部、立ち上げたばかりのゴルフウェアブランド(ZIXIZ-GOLF)の4つの事業を同時進行しながら、輸入代行なども行っています。
ーー会社としての強みは何でしょうか?
西山茂男:
ニシキの強みは、お客様との信頼関係に基づいた「人材」と「営業力」だと思います。自社工場で培った技術力とものづくり、長年の経験とノウハウで、お客様のニーズに合致した製品を提供します。
営業担当者は単なる製品販売員ではなく、お客様の事業パートナーとして、課題をともに考え、最適なソリューションを提案します。豊富な知識と経験に基づいて、多角的な視点から提案を行い、お客様の成功を支援します。
社員一人ひとりが高いコミュニケーション能力を持ち、チームワークを発揮することで、お客様との円滑な連携を実現します。お客様のニーズを迅速かつ正確に把握し、最適な対応をする体制を整えています。
お客様目線に立った提案力と問題解決力を武器に、お客様とともに歩む姿勢こそがニシキの強みの本質だといえるでしょう。
ーーゴルフ学院での経験は、今のお仕事にどのように活かされていますか。
西山茂男:
ゴルフは、私の考え方や指導方法に大きな影響を与えてきました。自身もゴルフを通して自信をつけた経験から、教える際にはダメ出しよりも、「何故そのようになるのか」、「どうすればいいのか」と社員に問うことで、考える力を身につけられるように配慮しています。時間はかかるでしょうが、「私が最終責任をとる」という姿勢で社員を支えています。
顧客と社員を幸せに、お客様から必要とされる企業を目指して
ーー今後、会社をどのように発展させていきたいですか。
西山茂男:
私は10年以内に会社の規模を2倍に拡大し、社員数を2倍に増加させることを、大きな目標として掲げています。これは、社員一人ひとりの成長と活躍があってこそ達成できる目標です。
社員一人ひとりが意欲的に仕事に取り組み、「会社」「商品」「お客様」に愛着を持つことで、より高いパフォーマンスを発揮し、業績向上に貢献できると確信しています。
変化を恐れずに挑戦し続けることで、お客様に必要とされる企業へと進化していきます。「社員と共に歩む、未来への挑戦」、このビジョンの実現に向けて、全力を尽くしていきます。ニシキは、これからも進化し続け、お客様とともに歩んでいきたいと思います。
ーー100年続く企業であるための心構えについてお聞かせください。
西山茂男:
経営理念として掲げている「お客様から必要とされる企業を目指す」を、今後も意識していきます。お客様から「ニシキさんがいなければ困る」「困ったら相談してみよう」と思われる企業でなければ、今後も生き残ることはできないでしょう。
近年、社会を取り巻く環境は急速に変化しています。デジタル技術の推進や働き方改革など、様々な課題に直面しています。こうした変化を乗り越え、お客様に必要とされ続けるためには、現状に固執するのではなく、変化を恐れずに新しいことに挑戦することが重要です。
ニシキでは、社内全体でイノベーション文化を醸成し、社員一人ひとりが主体的にアイデアを考え、行動できる環境づくりに力を入れています。また、外部との連携も積極的に進めて、新しい事業やサービスの創出に取り組んでいます。
最後にお客様との信頼関係は、企業にとってかけがえのない財産です。社員一人ひとりがお客様目線に立ち、誠実な対応を心掛けることで、お客様との信頼関係を築き、盤石な基盤を築いていきます。
編集後記
インタビューを通して、目の前の事業だけでなく、新しいことにも常に興味を持って挑戦し続ける西山社長の前向きで柔軟な姿勢を感じた。それは、会社が新しい挑戦を生み出していく原動力にもなっているのだろう。株式会社ニシキが今後どのような飛躍を見せるのか、非常に楽しみだ。
西山茂男/1970年、岡山県生まれ。大阪経済法科大学卒業。専門学校国際ゴルフビジネス学院に教員として入社し、4年の勤務を経て1997年に株式会社ニシキに入社。2008年に代表取締役社長に就任。