1980年に前身の事務用品や事務機器を販売する会社が創業され、そのひとつの部署で会計ソフトを開発し、そこから分社して誕生した異色の企業だ。これまでの歩みや今後の展望について代表取締役の藤崎忠夫氏に話をうかがった。
役所関係に強い「完全クラウド管理の会計ソフト」を開発
ーー貴社の成り立ちと事業内容を教えてください。
藤崎忠夫:
前身の会社は役所関係を取引先とする事務器・事務用品の販売会社でした。創業から3年目に将来はコンピュータの時代が来ると思い僅かな人数からスタートしました。まだオフコンの時代でした。
ある時、外郭団体の職員から「手書きで行っている会計の仕事をコンピュータ化したい」と相談を受けたことが事業転換のきっかけです。少数精鋭のエンジニアで財団法人向けの会計ソフトや給与ソフトを作り、1997年にIT事業を分社化する形で株式会社サンテックス エスアイ(現 公益情報システム)が設立されました。
ーー貴社の強みについて教えて下さい。
藤崎忠夫:
弊社の強みは「完全クラウドベース」であることです。パソコンにツールをインストールしてデータのみをクラウド管理する会計ソフトが多い中で、弊社のソフトはすべてをクラウドで管理します。役所関係がターゲットであることから、予算管理機能が優れている点も他社とは異なる強みです。
世の中にはソフトウェア開発の会社と言っている会社は多いですが、自社でパッケージを持っていて事業が成立している中小企業は非常に稀だと言えるでしょう。
内向的だった総務担当からコミュニケーション重視の社長に
ーー藤崎社長の経歴をお話しいただけますか。
藤崎忠夫:
32歳の時に株式会社サンテックス エスアイ(現 公益情報システム株式会社)に総務担当として入社しました。当時はまだ10人ちょっとの会社でしたので営業の応援で同行したり、社長に同行したりで何でもやりました。入社した日から22時まで残業するなんて今の時代では考えられませんね。しかし、勢いがあったので仕事をしていて楽しかったです。
その頃の自分は目立つのが苦手で引っ込み思案なところがありましたが、外交的な前社長から強い影響を受けて色々と視野が広がったと思います。
2011年に訳あって前社長が退くこととなり、私が引き継ぐこととなりました。突然のことだったので色々と苦労して眠れない日が続いた時期もありました。
前社長は「これからは、自分が欲しいもの・やりたいことを発信するべき時代だ」と話していました。また、「中小企業こそ個性ある人間を活かした方がいい」という教えも受けました。
ーー社長就任後に注力した取り組みを教えてください。
藤崎忠夫:
「労働環境を良くしていきたい」という思いから、事務所の中に外を眺めながら休憩できるスペースを作りました。SEが多い職場は会話が少ない傾向にあるため、休憩スペースにお菓子を置き、おやつタイムも設けました。社員からは「今までよりも社員同士でコミュニケーションが取れるようになった」という声が上がっています。
仕事に集中すると、どうしても会話が少なくなりがちですが、会社にいる時間が長いので「コミュニケーションがないと楽しくない」と考えています。仲間意識があれば問題も解決しやすくなるでしょう。社員たちが過ごす環境を整えることが、総務出身という経験を活かせる場面であり、離職率が下がった理由のひとつかもしれません。
目標は10億円超えの企業――ターゲットの拡大と育成における課題
ーー今後の展望をお聞かせください。
藤崎忠夫:
公共団体のみならず、民間企業に向けて新規サービスを展開していきます。営業部長が前職で勤怠管理ソフトの開発をしていたこともあり、弊社でも同分野を伸ばしていく予定です。「2024年問題」に直面する運送業界や、大勢の看護師を擁する病院を対象に、勤務状況をしっかりと管理できるソフトウェアを提供していきたいと思います。AIの分野も意識しつつ、チャンスがあればさらにターゲットを広げたいですね。
ーー数年後の具体的なビジョンは何ですか?
藤崎忠夫:
売上高10億円を超える企業を目指しています。現在33名の社員数を拡大して50〜60名の規模にすることが目標です。組織としてある程度の規模があれば、社員に肩書きをつけやすくなります。最近は管理職につきたがらない人が多いようですが、肩書きのある仕事をする良さもあるはずです。社員やその家族が、将来に期待を持てる環境を作っていきたいと思います。
ーーキャリア育成についてはどのようにお考えですか?
藤崎忠夫:
ソフトウェア開発において、上流工程以外はAIに任せられる時代となりました。時代が急速に変化することを考えれば、働く人自身がスキルアップを目指す必要があります。給与面など従業員満足度の向上には本人の努力も不可欠です。やる気を出してもらうためにも、先輩や上司が方向性を示さなければいけません。
しかし、会社側が研修や情報提供の場を用意しても「行かされた」と感じる状態ではスキルが身につかないでしょう。本人に納得した上で行動してほしいので、決算時期に合わせて社員の意識が変わるような発信をしています。
ーー20代や30代の方に向けてメッセージをお願いします。
藤崎忠夫:
2022年の秋に採用活動でベトナムのハノイへ行き、ベトナム企業の勢いを体感しました。同行した20代の社員も、同年代の人が社長として活躍している様子を見て大きな刺激を受けたようです。私も、日本にもっと30代・40代の社長が増えるべきだと思います。皆さんも日本国内だけでなく、早いうちから海外にも目を向けてほしいですね。
編集後記
大手の競合相手が多い会計ソフトの分野で、独自の地位を確立した公益情報システム株式会社。役所関係という堅実な職場において、すべてをクラウドで管理できる同社のサービスは信頼性が高く、取引が絶えない理由になっているだろう。リーダーとしても会社の進化や変化を拒まず、日本の若者の積極的な活躍を望んでいる。若手の背中を押してくれる心強い企業の一つだ。
藤崎忠夫/1965年千葉県生まれ。現職の前はITとは別の分野の企業2社に就業。32歳の時に総務として公益情報システム株式会社に入社。2011年に同社代表取締役に就任。