※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

「働き方改革」という言葉が社会に定着して久しい。しかし、その実現には依然として多くの課題が残っている。そんな中、バーテンダーから転身し、株式会社コラボスタイルの代表取締役社長兼CEOに就任した松本洋介氏は、クラウドサービスの先駆者となり、ITの力で働き方の革新に挑戦し続けている。

3年連続でGreat Place to Work® Institute Japanによる「働きがいのある会社」ベスト100に選出された同社は、「ワークスタイルの未来を切り拓く」という理念のもと、着実な成長を遂げてきた。今回は松本社長に、創業時の苦労、経営哲学、そして未来への展望について、話をうかがった。

異業種からの挑戦、IT業界で見つけた新たな道

ーーバーテンダーからどのような経緯でIT業界に進んだのですか?

松本洋介:
大学卒業後、「いつか自分の店を持ちたい」という夢を抱いてバーテンダーになりました。お客様との会話や営業スキルによって、お酒を提供する場に付加価値をつけられる仕事に楽しさを感じていました。しかし、昼夜逆転の生活や仕込み、取引先との付き合いが続く中で、「この働き方を長く続けるのは難しい」と考えるようになったのです。

自分の店を持つために必要な資金を思案する中で、成長が著しかったIT業界が頭に浮かびました。「ITの力で、飲食業界で感じた厳しい労働環境を改善できるのではないか」という思いが芽生え、IT業界への転職を決意しました。

クラウドシステムへの投資と試練の創業初期

ーー創業初期の事業内容と、その中で挑戦したことは何ですか。

松本洋介:
有給休暇の申請や稟議の承認などに利用する「ワークフロー」という仕組みのパッケージを開発し、販売していました。当時のIT業界では、個別開発が主流でしたが、パッケージ化することで、より多くの顧客に広く提供できると信じて方針を貫きました。

さらに、創業から1、2年目にかけては、クラウドシステムへの先行投資を決断。当時はまだパッケージサービスが主流でしたが、「クラウドサービスの時代が必ず到来する」と確信し、市場に先駆けて挑戦したのです。しかし、この投資は予想以上に厳しい金銭的負担を伴いました。

ーー資金難や組織課題をどのように乗り越えましたか。

松本洋介:
クラウドサービスはパッケージとは異なり、1件あたりの収益が少額で、事業を軌道に乗せるには多くの顧客を集める必要があったのです。そのため、資金繰りが逼迫し、経営陣の中には会社への関心を失う者も出て、意思決定が滞る事態に陥りました。

この状況を打開するために、まず決断スピードを上げることに注力しました。私は「正しいかどうかわからなくても、誰かが決断する必要がある」と痛感し、自ら主導権を握りました。また、コロナ禍の中、自らの考えをしっかり言語化し、会社としての目指すべき方向性を社員にメッセージとして明確に伝えることで、組織の変革を促しました。

その結果、ベテラン社員が意識を変え、自己研鑽に取り組むようになり、今では会社を牽引する存在になっています。「人は年齢に関係なく、いつからでも変われる」ということを、彼らの姿を通じて実感しましたね。

現在ではクラウドサービスも損益分岐点を超え、業界の上位を占めるまでに成長しています。他社に頼らず、自力で成長を続けられた背景には、努力とともに運にも助けられた部分があったのかもしれません。

成長を支える理念とマネジメントの形

ーー貴社の理念と事業内容について教えてください。

松本洋介:
企業理念は「ワークスタイルの未来を切り拓く」です。「働く場所」が働き方に与える影響は非常に大きいと考えています。この理念を実現するため、弊社ではデジタルワークプレイス事業とワークスタイル事業の2つの事業を展開しています。

デジタルワークプレイス事業では、デジタル空間を重要な仕事の場と捉え、業務効率化のためのツールを提供しています。業務プロセスを体系的に整理・定義した「ワークフロー」の考え方を基盤とし、業務効率化システム「コラボフロー」を中心に、SaaS製品の企画・開発・販売を行っています。

一方、ワークスタイル事業では、理想的なオフィス環境を提供することで、働く人々の意識を変え、新しい働き方の実現を支援しています。オフィスデザイン事業に加え、JPタワー名古屋36階の本社オフィスの一部を会員制ソーシャルワークスペース「コラボベースNAGOYA」として運営し、コミュニティ形成を目的とした実証実験を行うなど、新たな試みにも取り組んでいます。

さらに、私たち自身の働き方を見直し、その成果を発信することを通じて、社会全体のワークスタイルの向上を目指しています。最終的に目指すのは「人生がちょっとハッピーになる世界」の実現です。

ーー経営において大切にしていることは何ですか。

松本洋介:
社員同士が信頼し合う環境を重視しています。そのため、「肯定ファースト」を徹底し、「相手の話を最後まで遮らずに聞き、一度意見を受け入れてから議論する」という姿勢を心がけています。マネジメントはトップダウンではなく、「相互マネジメント」を採用しています。上下関係にとらわれずにお互いを理解して改善し合う風土が大切です。

さらに、「スピードは正義、チャレンジは正義」という信念を持ち、7割の完成度でもスピードを優先して前進することを心がけています。チャレンジを最優先し、ミスを責めない文化を醸成しています。より成長するためには、攻めの姿勢が不可欠でしょう。

ワークスタイル革新への使命感

ーー現在、一般社団法人ソフトウェア協会(SAJ)の副会長も務めていらっしゃいます。ご自身をどのような存在だとお考えですか?

松本洋介:
元バーテンダーという経歴は、この業界では珍しいと思います。しかし、そんな私の経歴を知って「自分も挑戦できるのではないか」と、弊社の門を叩いてくれた方がいたのです。希望を与えることができたと感じた瞬間でした。

自分の存在を通して「大切なのはやるかやらないかだ」というメッセージを伝えたいと思っています。専門性を持つ人だけでなく、さまざまな人に可能性があることを世の中に示すことができればと思っています。

ーー最後に今後の展望についてお聞かせください。

松本洋介:
「人々のワークスタイルを向上させ、人生をよりハッピーにしたい」という思いは変わりません。少しでも早く、より多くの方々のワークスタイルを改善できるように、考え続けることが私の使命だと思っています。もちろん、そのためには着実に数字を伸ばし、スピーディーに成長することが不可欠だと考えています。

編集後記

松本社長の言葉には、働き方を変革し、人生に彩りを添えるという明確な使命感が感じられた。クラウドサービスの先駆者として、社員や顧客の期待を超える挑戦を続けるその姿勢には、創業期の困難を乗り越えたリーダーシップの強さが滲む。

異業種からの転身や、新しい価値観を取り入れた経営スタイルは、多くの人々に勇気と希望を与えているのだろう。株式会社コラボスタイルが「働きがいのある会社」としてさらに飛躍する未来が楽しみだ。

松本洋介/名城大学商学部経済学科卒業。卒業後はバーテンダーの道へ。その後インターネット・サービス・プロバイダやSI会社を経て、2013年に株式会社コラボスタイルを設立。「ワークスタイルの未来を切り拓く」という理念のもと、SaaS製品の提供とリアルなオフィス環境づくりを担う。一般社団法人ソフトウェア協会(SAJ)副会長を務める。