情報化社会が急速に進む中、企業では情報セキュリティの備えが必須となっている。SecureNavi株式会社は、企業の担当者が自ら取り組める情報セキュリティマネジメントのサービスを開発・提供している。同社の代表取締役CEO井崎友博氏に、創業の思いと未来の展望についてうかがった。
幼少期は機械の分解にワクワク!プログラミングに目覚めた学生時代
ーー学生時代からITという分野にご興味があったのでしょうか?
井崎友博:
小さい頃からテレビなどの家電が壊れるとうれしくなるような子どもで、父と一緒に壊れた家電や機械の分解を楽しんでいました。高校生の頃にはITに興味を持ち、自宅のパソコンを使ってプログラミングコードを書き始め、手書きの時間割をオンラインで配信するサービスをつくっていました。周りの人に喜ばれるものをつくることに面白さを感じていましたね。
ーーSecureNavi株式会社の創業を決断したきっかけについて教えてください。
井崎友博:
新卒で入社したセキュリティコンサルティング会社では、お客さまとの契約期間が決まっており、アウトプットで評価されてしまうというコンサルティング会社ならではの性質に違和感を抱いていました。
また、創業直前に働いていた会社では、SaaS(Software as a Service)型のサービスのソフトウェア開発を手がけていました。こちらは契約期間が決まっているわけではなく、サブスクリプションとして継続的に関わっていけるビジネスモデルに、違和感を解消するヒントを得たのです。
クラウドサービスのように、継続可否をお客さまが任意で決められるビジネスモデルを実現できないかと始めたのがSecureNavi株式会社です。
「悲報をなくす」世界を実現するために
ーーSecureNavi株式会社のビジョンについてお聞かせください。
井崎友博:
私たちは「悲報をなくす」をビジョンに掲げています。創業2年目から使うようになった言葉ですが、自身のプライベートを含めて、人生を賭けて大切にしていきたい言葉だと思っています。
ーーなぜ、このビジョンを掲げるようになられたのでしょうか?
井崎友博:
SecureNavi株式会社を創業し「自分が命をかけてでもやりたいこと」について考えるようになった頃、世の中では子どもにまつわる悲しいニュースが多く「世の中で、技術が発達しているのに、なぜ悲しい出来事がいまだに起きてしまうのか」と強く違和感を覚えました。同時にやりきれない気持ちが自分のなかで沸き起こり、一時は仕事が手につかなくなってしまったのです。
世の中で悲しむ人がこれ以上増えないように、そして自分自身も悲しまないように世の中を少しでも良くしていくことに情熱と時間を使っていきたいと思い「悲報をなくす」というビジョンを掲げることにしました。
ーー現在、貴社が注力していることは何でしょうか。
井崎友博:
取り組んでいるテーマのひとつが、文系セキュリティのDXです。「情報セキュリティ」という言葉からイメージされるのは、ウイルス対策や脆弱性診断のような技術的な領域、理系のセキュリティ分野だと思いますが、企業が情報セキュリティを維持するためには、組織として守るための体制や規程づくりなどのリスクアセスメントや監査システムなど、理系文系に関係なく対応できる仕組みづくりも非常に重要です。
私たちは、この分野を「文系のセキュリティ」と呼んでいます。SecureNaviは、必要な情報の整理から審査までソフトウェア上でできる日本初のサービスです。ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証やP(プライバシー)マーク認証取得のための煩雑な業務も、SecureNaviがあれば担当者がすき間時間に自社のセキュリティ体制を構築できるのです。
今までコンサルティング頼みだった業務を自分たちでやりながら、リスクアセスメントの必要性や意義を理解できるので、結果的にセキュリティ体制のレベルアップや人材の育成にもつながっていくはずです。
ーー今後の展望をお聞かせください。
井崎友博:
当面はSecureNaviを継続的により多くの企業さまにご利用いただくことに注力していきます。現代のサイバー攻撃の対象は大手企業だけでなく、あらゆるシーンで広がっています。中小企業もターゲットになっているからこそ、私たちのサービスを通じて情報セキュリティのレベルを高めていただきたいと考えています。
また、ISMS認証やPマークのみでなく、その他の法令や認証規格、業界ガイドラインなど、
あらゆるセキュリティ規制への対応を一元化できる「SecureNavi Pro」などの製品開発・提供もスタートしています。
ビジョンとバリューに共感できる従業員と一緒に情報セキュリティレベルの底上げに貢献したい
ーー人材採用も経営戦略の大きな要となりそうですね。
井崎友博:
その通りです。現在弊社では、採用にも力を入れています。弊社が目指すのは、少しでも多くの企業が規制や基準を効率よく守り運用することで、情報セキュリティレベルを高め、悲報がなくなる世界です。技術や経験は仕事をすれば自然と身につきます。だからこそ、弊社では採用時に目先のスキルよりも理念やカルチャーに合っているかどうかを重視して採用しています。
ーー採用時に重視していることは何ですか?
井崎友博:
短期間で新製品の開発やマーケット開拓に注力し急成長するスタートアップが多いため、スタートアップで働くためには成長に貪欲な人材でなければならないと思っている方が多いかもしれません。
ですが、弊社はあえて「成長のためなら貪欲になんでも挑戦する」というスタンスに固執せず、いろいろな考え方や多様性を重視した組織づくりに力を入れています。「昇進や成長できないなら辞めていくしかない」という価値観とは真逆の、働く人と会社の方向性、双方が歩み寄れるようなカルチャーをつくっていきたいと思っています。
私は「会社の利と個人の利を合わせる」という表現をよく使うのですが、少なくとも弊社のビジョンやバリューに共感してくれるかどうかは採用時に重視しているポイントです。弊社では、採用時にオープンポジションを用意しています。「ビジョンやバリューに共感したけれど、自分はどの職種に合っているかわからない」という方にも広く門戸を開いています。
編集後記
若手が多く活躍するIT業界の多くが、技術的なアプローチでサービスを提供しているなか、企業の組織マネジメントや業務負担軽減といったアプローチにも着目したSecureNavi株式会社。同社が描くのは「悲報をなくす」という壮大なビジョンだった。企業全体にIT技術が取り入れられている今、同社の事業は、これからの時代の大きなうねりをつくることを予感させるインタビューとなった。
井崎友博/1993年兵庫県生まれ。神戸大学卒業。セキュリティコンサルティング企業で、数多くの情報セキュリティ体制構築プロジェクトを手がける。その後、テック系スタートアップ企業にて、Webエンジニアとしてプロダクト開発を行うかたわら、新規事業開発やアライアンスなどの幅広い業務を経験。2020年にSecureNavi株式会社を創業。