※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

九州本土と天草五橋で結ばれた天草諸島は、イルカウォッチングや南蛮文化の歴史、山と海のグルメなど、多くの観光資源に恵まれる観光地。そんな天草の地で観光客を迎え、天草の魅力を発信しているのが藍の村観光株式会社の代表取締役社長である藤川護章氏だ。

藤川社長が大事にしていることは事業の中心に「人」を据えること。地元の人も天草を訪れる人も、自然体でつながれる環境を目指しているという。藤川社長の描くビジョンとは何か。藍の村観光の事業内容や価値観、実現したい未来についてのインタビューを試みた。

営業で全国を回り観光業のあり方を学ぶ

ーー藤川社長の経歴を聞かせてください。

藤川護章:
弊社は父が創業した会社ですが、大学卒業後はすぐに入社せず、まず岐阜県にあるお茶・ふりかけメーカーの株式会社マン・ネンに入社しました。

マン・ネンでは営業を担当し、全国の観光問屋、小売店を訪問。取引先と接する中で、さまざまな観光業のあり方を学びました。

弊社に入社したのは2001年のことです。入社後は父とともに会社の経営に取り組み、2010年に父の跡を継いで代表取締役社長に就任しました。

ーー創業からの経緯や事業展開について教えてください。

藤川護章:
弊社は父が創業した衣料品店を前身とする会社です。観光業に取り組むようになったのは1990年のことで、天草を訪れる観光客をターゲットに商売を始めました。

最初は、お土産品店の「藍のあまくさ村」からスタート。天草の食材を活かした商品を提供するために、ちくわ工場を併設して直売にも取り組みました。

そして2015年には観光から食事、アクティビティまで、天草の魅力を多方面から発信する施設「L’isola Terrace Amakusa(リゾラテラス天草)」を開業し、2020年には完全無農薬の野菜を育てる「L’isola Farm Amakusa(リゾラファーム天草)」、2023年には宿泊施設「L’isola THE BIRD(リゾラ ザ バード)」も開業しました。

数々の事業は天草の人たちのために

ーーさまざまな事業に取り組んでいますが、それぞれどのような経緯でスタートしたのですか?

藤川護章:
弊社はさまざまな事業を行っていますが、これらは「天草をもっと良くしたい」という思いからスタートしています。たとえば数々のお土産品は、天草にいるたくさんの生産者さんと協力し、天草の産物を世の中に発信したいという思いから開発しました。

リゾラテラス天草は「地元の若者たちが働ける場所を作りたい」という思いから始まったものです。天草は若者離れが深刻なのですが、中には働ける場所を求めて仕方なく天草を離れるケースもあります。そこで弊社が受け皿を作り、若者の賑わい創出に貢献したいと考えたのです。

新たにリゾラ ザ バードも開設し、宿泊事業をスタートしました。最初は不安がありましたが「今の自分なら想像できないが、来年の自分ならできるかも」と思い、一歩を踏み出しました。

プライベートコテージ「L’isola THE BIRD」の魅力

ーー2023年春にオープンし、2024年7月17日にグランドオープンした宿泊施設「L’isola THE BIRD」の魅力を教えてください。

藤川護章:
リゾラ ザ バードは、絶景のオーシャンビューが自慢のプライベートコテージです。部屋数は全8棟で、広さは約35㎡のツインルームに全室テラス付き。内装は木のぬくもりとリゾート感を感じられる落ち着いた雰囲気になっています。

当施設の特徴は、観光時の単なる宿泊施設としての利用だけではなく、ワーケーションやビジネスシーンでの活用など、幅広い利用に応えられることです。

施設はお客様に満足いただけるように良い物を選定し揃えていますが、一方で施設内の雰囲気は、良い意味で“ゆるさ”を残すことを重要視しています。お越しいただいた方それぞれに“等身大の時間”を自由に過ごせるような場所であることを心がけています。

ありがたいことにそんなコンセプトを気に入ってくださる方もいて、今ではリピーターも増えました。海を眺めてのんびりしたり、夜はバーベキューや焚火(たきび)を囲みながら星を見たりと、お客様思い思いの自由な時間を過ごしていただいています。

加えて今夏にサウナやプールを拡張しました。今後はマリンスポーツやヨガなどのプログラム開発にも力を入れたいと考えています。

週末は観光客の方を中心に利用していただき、平日はワーケーションや、企業の福利厚生施設として利用といった“中期的な滞在需要”を天草で生み出していけたら理想的だなと考えています。

事業を通して目指すのは「生き方の提案」

ーー貴社の強みをお聞かせください。

藤川護章:
弊社の強みは、企業活動が「人」にフォーカスしている点にあると考えています。

たとえば、弊社の事業は人と人のつながりから生み出されていますし、事業活動の目的もコミュニケーションや地域コミュニティの創出のような、人と人のつながりを後押しするものです。「人」にフォーカスすると、人の内面に目を向けられるようになり「人間対人間」の付き合いができるようになります。

この考えは社内でも取り入れています。弊社のスタッフは平均年齢35歳と若く、お互いが個人の意見を尊重して働いています。若者離れが叫ばれる中でも「人」が求める居場所を用意すればコミュニティは生まれますし、お互いの内面に目を向ければコミュニケーションは円滑になります。

社員の髪色の規定などを設けていたこともありますが、それらを撤廃し、働きやすい職場やコミュニティづくりにシフトしてからのほうが、むしろ会社の空気が良くなったと感じます。

ーー事業を通じて実現したいビジョンをお聞かせください。

藤川護章:
さまざまな事業を通じて「生き方の提案がしたい」と考えています。私がスタッフたちに楽しく、ありのままの自分で働いてほしいと望むように、お客様にも自然体の自分でいられるようなサービスを提供できればと思います。

リゾラ ザ バードは、このコンセプトのもとに作られた施設です。日々ついて回るさまざまな肩書を、せめてここにいる間は全て脱ぎ捨ててもらってシンプルな「自分」に戻る。そんな、ありのままの自分を実感できるサービスを展開し、人生をより自分らしく生きるお手伝いができればと思います。

編集後記

肩書き、役割、周囲の目など、人間社会が生み出した価値観を全て脱ぎ捨て、シンプルな「人間」に戻れる場所がここにある。藤川社長が始めた人と人を結ぶ試みは純粋に研ぎ澄まされ、心と心を結ぶ試みへと進化しつつある。人生を豊かにしてくれるものは何なのか。藤川社長の価値観は、そんな根源的な疑問にヒントを与えてくれているように思う。

藤川護章/1973年、熊本県生まれ。熊本学園大学卒業。卒業後岐阜県の株式会社マン・ネンに入社し営業職として全国の観光問屋、小売店を訪問する。2001年に藍の村観光株式会社に入社し、2010年に代表取締役社長に就任。2015年に「L’isola Terrace Amakusa(リゾラテラス天草)」(観光リゾート複合施設)を開業。2020年に「L’isola Farm Amakusa(リゾラファーム天草)」(無農薬栽培の野菜・果実農園)を開業。2023年に宿泊施設「L’isola THE BIRD(リゾラザバード)」を開業し、2024年7月17日に同施設のサウナ・プール・レストラン拡張し、グランドオープン。