株式会社SORICH(ソリック)はシステム開発会社として、Webシステムの開発を基盤とし、スマートフォンアプリやクラウドサービスの開発・導入支援も行っている。目を引くのは、幅広いサービスを提供しながらも、コロナ禍初期に完全リモートワークを実現していたことだ。
なぜ、どのようにしてリモートワークの実現に至り、続けていくことができているのか。代表取締役社長の馬屋原隼人氏から、お話をうかがった。
エンジニアに優しい環境づくりから、デザイナーも包含する会社へ
ーーどのような思いで会社設立に至ったのですか?
馬屋原隼人:
学生時代、私は東京理科大学のプログラミングサークルに参加しており、それが私の人生を大きく変えるきっかけとなりました。サークルの卒業生の会社でアルバイトをする機会があり、そこでプログラミングの仕事を経験しました。
しかし、エンジニアとして働くなかで、長過ぎる労働時間など、つらい環境を目の当たりにしました。その中で、私は「自分が社長になればエンジニアに優しい環境を整備できるのではないか」と考えるようになりました。
エンジニアの仕事に熱中しすぎて留年しつつ、2006年に大学卒業と同時に大学の先輩を含む5人で会社を設立しました。
ーー設立から今までで、苦労したことは何ですか?
馬屋原隼人:
人の問題はいつまでも難しいですね。社員の退職はいまでもつらいのですが、設立メンバーであり頼りにしていた大学の先輩が退職1人目だったのですが、その時は胃が痛くなりました。
社員が増えるとそれに比例して社員同士の問題も増えますし、人を評価するのも難しいと感じています。学生の頃に開発に参加した人事評価プログラムでは年数と社内試験だけで給与が定まるしくみになっており、そのようなシステムの導入を目指してみましたが、現実は難しいということがわかりました。今でも、この問題に悩みながら取り組んでいます。
ーー現在の業務と貴社の強みについて教えてください。
馬屋原隼人:
Webシステム開発が中心で、特にFinTech(金融分野にIT技術を組み合わせたサービスや事業領域)に携わることが多いですね。2019年にクリエイティブ事業部を創設し、Webデザインまでワンストップで行える体制を整えました。
また、2023年にはSalesforce認定コンサルティングパートナーになりました。2007年ごろからSalesforce関連の開発・導入支援を行ってきましたが、現在ではMarketingCloud、AccountEngagement、Tableau、HerokuなどのSalesforce関連サービスも併せてご提案が可能となっております。
通常のシステム開発もSalesforce関連も多数のプロジェクトを経験してきました。そのため、両方の開発ができることが大きな強みとなっています。Salesforceだけでは完結しないデータ連携や基幹システムとの接続、スマホアプリとの連携、さらにはクリエイティブ事業部によるデザインまで、一括して弊社で提供することができます。
ーーなぜクリエイティブ事業部を発足させたのですか?
馬屋原隼人:
デザインを外注すると融通が利かないことがあり、サービスの質や開発速度にも影響することがありました。そこで、最低限のクリエイティブを社内で対応できるように人材の採用を始めましたが、エンジニアしかいない弊社では異分野の人材管理やコミュニケーションに苦労しました。
その時、採用したデザイナーの1人がデザイナーが経験も豊富でマネジメントもできそうだったので、「この人がいれば事業部を新設できる」と確信し、クリエイティブ事業部が誕生しました。
ーー営業についてはどのようにお考えですか?
馬屋原隼人:
これまではほとんどお客様からの紹介でしたが、今後は新規の顧客開拓にも力を入れたいと考えています。その一環として、Salesforce認定コンサルティングパートナーになったというところもあります。
弊社では私が主に営業を担当していますが、今後は場合によっては、営業担当者を採用することや、営業組織をつくることも検討しています。
全社完全リモート、全国の社員に求められる技術力
ーー早い段階から全社でリモートワークを実現したそうですが、どのような経緯ですか?
馬屋原隼人:
弊社のオフィスは東京オリンピック予定地から近く、交通機関への影響が懸念されていました。そのため、2018年ごろからリモートワークに向けた体制づくりを進めてきました。
その頃に、コロナ禍となり、より全社的なリモートワーク体制に向かうことになりました。緊急事態宣言の頃にはすでに準備が整っていて、普段と変わらないパフォーマンスを確保できました。
リモートワークでは横のつながりをつくりにくいという課題があります。なので、メタバース空間や入社時の研修を活用し、関係を広げる仕組みを積極的に構築しています。
ーー幹部人材の育成について、どのような取り組みをしていますか?
馬屋原隼人:
設立から最近までは副社長と2人で経営を行っていました。コロナ禍以後は、社長の下に5人程度の社員を選出し、少しずつ業務を移譲するようにしています。弊社には経営の数字や人事面には詳しくない人が多いのですが、社内の雰囲気や文化を理解した人材を社内から登用し、育成していきたいですね。
また、将来的には私の判断なしに目標を立てて達成できる人材になってほしいと願っています。また、社長とは別の立場から社内を盛り上げる役にもなってほしいと思っています。
ーー採用については、いかがですか?
馬屋原隼人:
採用は人数が増えた現在のほうが、会社設立時よりもスムーズです。5人の中の1人と20人の中の1人では、全体に対する比率が違います。転職すると条件が上がるようなエンジニア業界の潮流の中でも、完全リモートワークを武器に、地域を問わない地道な採用を行っています。今後、もっと地方からの採用に力を入れていきたいですね。
ーーこれから活躍する20代、30代の人へ伝えたいメッセージをお願いします。
馬屋原隼人:
体力もあり、頭も柔らかいときに、できる範囲で苦労をしておけば10年後、20年後に返ってくるものが大きいと、今更ですが感じることが多いです。これは仕事に限ったことではなく、今を一生懸命生きるほうが、その後の人生も良いものになると信じています。
編集後記
自らもエンジニアでありながら、常に「人」を意識し続けている馬屋原社長の思慮深い人柄は、慎重な語り口にも表れているように感じられた。今後も株式会社SORICHの、高い開発力を活かした先進的な活躍に期待したい。
馬屋原隼人/1981年、東京都出身。東京理科大学在学中から個人事業でSEやプログラマーとして活動し、2006年の卒業と同時に有限会社(現・株式会社)SORICHを設立。FXや資金移動などfintech系を始めとしたシステム・サービス開発を受託。2023年にはSalesforce社コンサルティングパートナーとなる。