流行り廃りを繰り返すファッション。その移り変わりは非常に早く、メーカーやブランドは次のトレンドをつくり続ける。一方で、世界の衣類廃棄量は年間9200万トン、約3000億着にも上るといわれ、アパレル業界の環境負荷が問題になっている。
株式会社GOOD VIBES ONLYはそのような衣類廃棄をゼロにするべく、大量生産や余剰在庫などの課題解決を手掛ける。同社は、アパレルに特化したDXプラットフォームを開発した。アパレル経験も、デジタルスキルもゼロの状態から業界の寵児となった代表取締役社長の野田貴司氏に、その経緯や見据える未来について聞いた。
業界構造に疑問を抱き、変革を図るために起業
ーーアパレル業界に入ったきっかけを教えてください。
野田貴司:
野球の推薦枠を用いて入学した大学を怪我が原因で退学したことから、上京し、アルバイト先でホームページをつくるために独学で知識とスキルを身につけました。その後、フリーランスとしてホームページ制作を請け負っていたところ、取引先だったアパレル会社の経営者の方に入社を勧められ、人生が変わったのです。
それまでアパレル業界とは無縁だったので、洋服は店に出しておけば売れるものだと思っていました。しかしその経営者の方は、「毎日営業する必要はない。洋服は“仕組み”で売れる」という話を熱弁していて。それは私が経験してきたお金の稼ぎ方とは全く違った稼ぎ方だったので、ビジネスとして興味を持ちました。
その会社ではインフルエンサーがプロデュースするD2Cブランドを複数立ち上げました。D2Cとは、メーカーが自社のECサイトなどを通じて、直接消費者に販売するビジネスモデルです。ただ、インスタグラムを駆使したファッションビジネスの醍醐味を味わう一方で、業界の構造に疑問を抱くようになったのです。
ーー何に疑問を抱き、その疑問を抱いてからはどのような思いで起業に至りましたか。
野田貴司:
多くのブランドは、1アイテムごとに多数のサンプルを作成します。採用されたアイテムについてもニーズに応えるために多数生産され、結果、余剰在庫が生じて、廃棄を余儀なくされます。しかし、SNSやECで販売するD2Cブランドは、ユーザーが現物を手にしなくても販売が成立しています。そのことから、サンプルも、大量生産や在庫は不要で、ネットの画像や動画、3Dモデルで構わないと思ったのです。
また、アパレル業界には、素材の生産者から繊維、流通、小売、物流業者まで広くかかわっているため、サプライチェーンが複雑かつ分断されています。ブランドの現場にしても、セクションが多様な上、企画やデザイン、出荷・在庫管理といった業務はアナログが主流。そこで、デジタルを駆使したプロダクトやソリューションを通じて、課題解決や構造変革を図るために起業することにしたのです。
現場を知っているから、「使える」デジタルソリューションを実現できる
ーー貴社の事業内容を教えてください。
野田貴司:
メインは、アパレルDXプラットフォーム「Prock(プロック)」の運営です。商品の計画・実績・分析がそろう万能型プラットフォームで、生産からマーチャンダイジング、デザイン、営業など、アパレル業界に必要な機能をワンストップで提供することで、効率的な業務の遂行を可能にするものです。AIによる需要予測、生産管理も行うことができ、最適なサプライチェーンを実現しています。
もう1つは「Prock」と連動する「Web3デジタルファッション」です。CGとは思えないほど素材の質感までリアルに表現でき、修正も自在。現物のサンプル作成が不要で、生産のリードタイムを短縮し、3DモデルをSNSやECに掲載して商品紹介や着用をイメージするためのフィッティングに活用することもできます。
近年は業務改善のクラウド型ソフトウェアが数多く存在しますが、私たちはアパレルブランド運営の経験と実績があり、業務の流れや課題を把握しているからこそ、有効な解決策の実装ができるのです。クライアントには「かゆいところに手が届く」と喜んでいただいていますね。
新たなプロジェクトで日本と世界のビジネスにインパクトを
ーー近年、注目のNFT(非代替性トークン)事業をスタートしたとうかがいました。
野田貴司:
衣類廃棄ゼロとデジタルファッションの浸透を目的とした、NFTプロジェクト「OBAKE_Shoppers(オバケショッパーズ)」です。NFTとは、「Non-Fungible Token」の略で、偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータのこと。OBAKE_Shoppersは、3Dモデルなどのデジタルデータを「唯一無二のデジタルデータ」として、小売の分野以外でもマネタイズして新たな価値を生み出すものです。
衣類廃棄対策のシンボルとして作成したオバケのキャラクターのNFT販売、メタバースでのデジタルファッションのデザインなどを行っています。
その中で、私は現在約1600名が所属する、このNFTプロジェクトのコミュニティに可能性を感じています。多様なメンバーが洋服や廃棄問題について議論したり、競合のMD(マーチャンダイザー)も含めて情報を交換したりすることで業界が活性化してきました。自発的なブランドの創出も期待でき、アパレルのみならず、日本や世界のビジネスの在り方が変わると思います。
ーー大きなスケールで事業を推進していくために、どのような人を求めていますか?
野田貴司:
新たな人材は常に求めています。どれも前例がない事業なので、正解か不正解か、成功か失敗かは予測不能。それでも「おもしろい」「新しい」と突っ走れる人が弊社に向いています。ファッション、デジタル領域には、若い世代の柔軟な発想と怖い物知らずの挑戦が不可欠なので、学生をはじめ「こんなことをやりたい」という人はぜひ私にコンタクトを。これからについて語り合いましょう。
編集後記
前職のD2Cブランドの設立・運営当時はかなりのハードワークだったそうだが、「その経験が現在の糧になっているので、よかった」と話す体育会系の野田社長。プロダクト拡張などに起因する自社の成長だけでなく、アパレル業界の発展、そして衣類廃棄ゼロによる社会貢献をも目指す、社長の熱い思いと言葉に感銘する取材となった。
野田貴司/1992年、福岡県生まれ。九州産業大学を中退し、上京。フリーランスにてホームページ制作などを経て、2016年、株式会社3ミニッツ(2023年にグリーライフスタイル株式会社に全事業を承継)に入社。アパレルD2Cブランドの先駆け「エイミーイストワール(株式会社DOT ONE)」に携わる。その後、株式会社GOOD VIBES ONLYの立ち上げに参画し、2019年に、代表取締役社長に就任。