女性の働き方改革や社会進出が推進されている。しかし、世界経済フォーラム(WEF)が毎年まとめる「ジェンダーギャップ指数ランキング」によると、日本は146カ国中118位(2024年度)。男女差別の根強い発展途上国が占める下位グループから一向に脱出できないのが実情だ。
このジェンダーをはじめ、社会のあらゆるギャップを排除するために、大学在学中から10年以上、問題に立ち向かう女性がいる。SHE株式会社の代表取締役社長、福田恵里氏だ。女性向けのキャリア支援事業を中心に担い、誰もが活躍できる社会をめざす福田氏の思いをうかがった。
女性の機会損失を「何とかしたい」と学生起業
ーー学生時代に貴社の前身であるスタートアップを設立したと聞きました。
福田恵里:
大学入学後はダンスサークルの活動に夢中でしたが、どこかに「自分を変えたい」という思いがあったのだと思います。偶然手にした経営コンサルタントの大前研一さんの著書に記されていた「人間が変わる方法は3つしかない」との提唱に衝撃を受け、言葉通り、住む場所・付き合う人・費やす時間を変えるためにサンフランシスコに留学しました。
現地でも衝撃を受けました。シリコンバレーのスタートアップの代表やエンジニアと交流したところ、インターネットやスマートフォンが当たり前となった今を予見し、これまでにないサービスやプロダクトをつくって世界をリードしようとしていました。意識や行動の圧倒的な差に悔しい思いをし、「私も新たな景色を見よう」と心に決めました。
帰国後、プロダクト構築に必要なプログラミングのスクールに通い始めたのですが、多数の受講生の中で女性は私一人だけでした。時代の変わり目に女性たちが参画できていないことに危機感を覚え、20歳のときに女性向けのWebデザインスクール「Design Girls」を立ち上げます。
ーーそれがSHE株式会社の設立につながったのですね。
福田恵里:
大学を卒業した後は社会勉強が必要だと感じていたので、リクルートに就職しました。スクールは仕事と並行して運営していたところ、私と同じビジョンを持つ、後の共同創業者となる人に出会い、リクルートを退職し、26歳で弊社を設立しました。サービスやコンテンツのUX(ユーザー体験)を構築する中で、リクルート時代に組織運営や人材育成に携わったことが活かされています。
「私なんて」は禁句。受講者を支えるコミュニティの絆
ーー貴社の事業内容について教えてください。
福田恵里:
メイン事業は女性のためのキャリアスクール・プラットフォーム「SHElikes(シーライクス)」です。女性がライフイベントに左右されずに働くにはリモートワークが適していることから、パソコン一つで好きな時に好きな場所で働ける職種を中心に、Webデザイナーやライター、イラストレーター、フォトグラファー、動画編集者などのスキルを身につけるキャリアスクールを運営しています。
創業当初はコワーキングスペースの提供と、ヨガや料理などのレッスンも展開していましたが、実際には申し込みの大半がキャリア・ビジネス向けのレッスンでした。個の力で活躍するためのスキルを求める女性の切実な願いを実感し、デジタルクリエイターの育成に特化することにしました。
当初、レッスンは平日の夜と土日祝日の昼にオフラインで開催していましたが、お子さまをお持ちの受講者から「時間が限られてしまうので、自由に学べるようにしてほしい」とのご意見をいただき、オンラインでのサービス提供やサブスクリプションモデルに移行しました。
ーー女性にフォーカスすることを踏まえた上での貴社の施策や強みは何ですか。
福田恵里:
セルフブランディングで成功している女性は、受講生のロールモデルともなり得ることから、SNSで活躍しているフリーランスの方に講師を務めていただいたり、SHElikesの卒業生・受講生をマルチなキャリアを実現している先輩としてプランナーなどの役割採用したりしています。スクールの大きなアドバンテージとなっているのが、受講生による「コミュニティ」の存在です。
私が今までたくさんの方と接してきた中で、一人で悩んでいる女性は自己肯定感が低い傾向にあると感じました。自分らしい生き方をあきらめてしまっているように思うのです。しかし、コミュニティに参加してみると、多くの仲間がいて、ポジティブな声掛けをしてくれることに気がつきます。さらに、現状から一歩を踏み出した女性の成功体験やリアルなアドバイスは、勇気と自信を与えてくれるので、自分を変えるきっかけとなるのです。
「SHElikes」はスキル獲得だけでなく、女性の生き方や価値観などのマインドチェンジも叶うということで、多くの方から支持されていると感じます。
入口から出口までサポート。すべての人が輝く未来をめざして
ーー今後の展望を聞かせてください。
福田恵里:
女性の生き方・働き方に対するサポートが弊社の強みですが、男女を問わず、個々の格差・不均衡の是正は日本のGDPの成長や次世代の社会形成にかかわる課題です。そのため、活動を妨げられることなく個々が活躍できるように、支援していきたいと考えています。日本は例えば都市圏と地方の就業・賃金などの地域格差も存在しているため、全国各地から受講生を増やしていきたいですね。
また、スキル獲得後のステージを提供する出口事業にも注力し、企業や人材派遣会社との協業も続々と締結しています。ターゲット市場の選定も進めながら、さまざまな働き方をクロスオーバーさせたワークスタイルも提供していきたいと思います。
8月にはキャリアチェンジに特化したプランも新たにリリースしました。※「経産省リスキリング支援事業採択「SHElikesレギュラープラン」これまで以上により多様な女性のキャリアに沿ったサービスを提供することで、女性のリスキリング機会を届けたいと思っています。
また、ゆくゆくは海外展開も視野に入れ、アメリカのほか、日本と同じくジェンダーギャップが課題の韓国での事業展開も考えています。弊社のビジョンは、自分にしかない価値を発揮できるインパクトの創出です。私も私にしかない価値を発揮して、すべての女性が自分らしく生きられる世界を目指していきます。
編集後記
受講生の多くの女性と同様に、2人の子の母であり、複数の物事を同時にこなす多忙な福田社長。女性のリアルな声が経営の源泉であり、コミュニティが唯一無二の価値であることが言葉の端々から伝わってきた。福田社長であれば表層的ではなく、真の女性活躍支援によって、平等かつ多様性に富んだ社会を実現してくれるに違いない。
福田恵里/1990年、滋賀県生まれ。大阪大学在学中、サンフランシスコへ留学。帰国後、女性向けWebデザイン講座を立ち上げ、500名以上が受講。2015年、株式会社リクルートホールディングスに入社。2017年、SHE株式会社を設立。主要事業「SHElikes(シーライクス)」は累計会員数が14万名以上。2020年、同社代表取締役社長・CEO/CCOに就任。