コロナ禍で急激に広がりを見せたテレワーク。まだ世の中にテレワークがほとんど知られていなかった20年以上前、リモートアクセスサービスに注目した会社があった。
今では官公庁から業界のリーディングカンパニーまでが利用するリモートアクセスサービス「CACHATTO(カチャット)」を提供するe-Janネットワークス株式会社。今回は代表取締役の坂本史郎氏に起業までの経緯や、将来のビジョンをうかがった。
憧れを胸に海外へ羽ばたく
ーー大学卒業後の進路について聞かせてください。
坂本史郎:
1986年に早稲田大学理工学部を卒業しました。当時、エンジンの研究室に所属していたため、周りの友人のほとんどは自動車メーカーに就職しました。優秀な人がたくさんいたため、「その人たちと同じ業界に就職しても大勢の中に埋もれてしまうのではないか」と考え、新しい素材である炭素素材やセラミックなどを扱っていた東レ株式会社に入社しました。新素材の分野であれば、将来第一人者として活躍できる可能性を感じたからです。
私が新入社員の時に、直属の先輩にMBAを取得している方がいたのですが、その方は英語が堪能で、技術にも精通し、さらに経営にも深く関わっており、私の憧れでした。私はそれまでMBAの存在を知りませんでしたが、先輩の姿を見て「自分も取得してみたい」と思い、東レがMBA取得のための留学制度を設けた最初の年に応募し、留学することができました。
ーーMBAを取得する際に、特に印象に残っていることはありますか。
坂本史郎:
ブートキャンプと言われるほど厳しい学校である、アメリカのバージニア大学で2年間学びました。ほとんどの授業がケーススタディで、1つのケースが約20ページの分厚い資料になっており、その資料を読み込んで課題を解いていく形式でした。
チームワークを重視し、6人のチームで毎日3つのケースの準備を行い、2年間で700ケースの課題に取り組みました。異なるバックグラウンドを持つチームメイトと毎日ディスカッションをし、徹底的に勉強したのは、この時が人生で初めてでしたね。
ーーアメリカの2年間で得たものは何ですか。
坂本史郎:
この経験によって、考える能力が格段に高まりました。困難が目の前に立ちはだかった場合、人間は困って思考が停止してしまうものですが、私はそこで困惑するのではなく、「どのように対処しようか」考える習慣がつきましたね。
また、ビジネスの奥深さを徹底的に学べたのもこのタイミングです。新しいビジネスを生み出して、それを成長させる意義を理解し、「自らも挑戦したい」という気持ちが芽生え、起業を決意しました。
「カチャッ」と安全にアクセス!リモートワークの最前線
ーー貴社の主力商品は何ですか。
坂本史郎:
「CACHATTO」という法人向けのリモートアクセスサービスです。このサービスを利用すれば、パソコンやタブレット、スマートフォンから自社の情報に安全にアクセスできます。特徴として、端末にデータは残さず、持ち出させないため、端末を紛失しても会社の情報が洩れることがありません。情報漏洩のリスクを大幅に減らすことができるのです。
ーー他社と比べた際の強みは何ですか。
坂本史郎:
高いセキュリティ、サービスの導入が簡単であること、コストパフォーマンスの良さが特徴です。もともと「CACHATTO」という名前は、LANケーブルを「カチャッ」と差し込むだけで簡単に導入できるという意味で名付けました。
ーー貴社が独自で行っている取り組みについて聞かせてください。
坂本史郎:
現在は、社員の約9割が自宅でリモートワークを行っています。コミュニケーションを増やすために、社員が顔を合わせるきっかけとなるイベントを定期的に開催しています。たとえば、4月にはSPRING MEETINGを開催し、1年間の目標の発表や、前年の取り組みへの表彰式を行って盛り上がりました。古い形にこだわらず、柔軟に働ける環境を整えて、ユニークな楽しい会社にしたいですね。
また、日報のシステムを自社開発しており、弊社ではアルバイトも含めて全員が日報を作成します。この日報は社内で全員が閲覧でき、「いいね」が押せたり、コメントを送り合うことができるため、横の連携を育てて風通しの良い社風をつくる基盤となっています。
海外展開を見据えた新たな挑戦
ーー中長期的なビジョンを聞かせてください。
坂本史郎:
IT業界は変化が激しく、現在はちょうど変革期にあります。現在はPCのリモートワーク分野で新たな提案を始めたばかりですが、新しいチャレンジは社会にすぐに浸透しないため、いかに多くの人に理解してもらうかが大きな課題ですね。
海外事業は、以前は中国やASEAN中心に展開していましたが、現在はインドでの展開に特化しています。インドの子会社が開発事業を担当しており、20数名のスタッフが新技術の開発に取り組んでいる点が弊社のユニークなところですね。インドは成長が見込まれる上に、ITに強い国であるため、インドで売れる商品ができれば世界中で売れると信じています。
編集後記
「徹底的に勉強をした」と胸を張って言える時期が自分にあっただろうか?坂本社長には、そう言い切れるだけアメリカでの2年間が、濃密な時間で自分を成長させ、その後の企業経営の礎になったという確固たる思いがあるのだろう。そのバックボーンがあってこそ、現状に留まることなく、次々と新たなことに挑戦し続ける姿勢が生まれてくるのだとインタビューを通して強く感じた。
坂本史郎/1986年早稲田大学理工学部卒。東レ株式会社に入社後、バージニア大学ダーデン校でMBAを取得し、2000年に株式会社いい・ジャンネット設立。2012年にお客様に「これe-Jan(いいじゃん)」と言い続けてもらうべく、e-Janネットワークス株式会社に社名変更。