※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

経済産業省の小売販売分析によると、2023年の商業販売額は前年比1.6%増の約594兆円となった。小売業の業態別では、ドラッグストア、コンビニエンスストア、スーパー、百貨店が販売額を増加させた一方で、ホームセンターはほぼ横ばいの推移を見せている。

ホームセンターの商品別では、「インテリア」「電気」「DIY用品」「園芸・エクステリア」が前年比を下回り、成長が鈍化した。

これらの分野で業界が苦戦する中でも、株式会社グッデイは独自の強みを武器に成長を続ける。主に北部九州で店舗展開する同社の代表取締役社長柳瀬隆志氏に、その強みやホームセンターの役割、そして今後の展望についてうかがった。

自分でやってみることが好き。経験がその後の自分を助けてくれる

ーー大学卒業後から、グッデイを継ぐまでの経緯を教えてください。

柳瀬隆志:
東京大学を卒業後、年齢が若くとも、一定の仕事を任せてもらえるような企業に就職したいと考えました。最初に内定をもらったのが、三井物産株式会社です。偶然父も三井物産出身だったため、意見を求めたところ背中を後押ししてもらい、2000年に入社しました。

1年目は食料本部で本部の管理業務、2年目は営業本部で缶詰や冷凍食品、冷凍野菜の輸入を担当し、3年目に大手外食チェーン向け食品輸入業務等の新規事業に携わることになりました。アメリカの現地に赴き、サプライヤーとの関係構築や輸入通関手続きなど、新しい仕事をゼロから立ち上げた経験が後の自信につながったと思います。

当時は、食中毒事件が発生し、食品の安全性が問題視された時代でしたが、冷凍食品の担当として表示や製造工程の厳格な管理を徹底したことは、ビジネススキルを磨く上で貴重な経験となりました。

家業を継ぐ意思は当初はありませんでしたが、三井物産での経験が自信につながり、30歳で家業を継ぐことを決意しました。そこで、三井物産で1年かけて引継ぎを終えた後、福岡に戻りました。

ーー2008年、グッデイに入社後、取り組んだことは何でしょうか。

柳瀬隆志:
最初の1年で、全ての売り場を経験しました。店舗の4つの売り場、「植物」「工具」「日用品」「電気関係」を3ヶ月ずつ担当して、お客様の購買層や売り場の雰囲気を把握することに全力を尽くしました。2年目には、1年目の課題に対処する具体策として、TVCMの制作と物流センターの立ち上げに取り組みました。

特に物流センターの立ち上げでは、これまでの取引先ごとに納品する方法から、自社センターを経由して一括して納品する方法へと変更しました。物流を一元管理することにより、1億円以上のコストダウンに成功したのです。店舗での作業も大幅に削減でき、非常に成果があったと自負しています。

ーー入社当時、意識していたことをお聞かせください。

柳瀬隆志:
「社長の息子」という肩書きだけでは信頼を得られないと感じていたので、何よりも実績を積み重ねることが重要だと考え、前職での経験が活かせる仕事から取り組みました。また、商品やWEBサイトの改革については既存社員の意識を変えるなど、自分だけでできることではありません。外部のアドバイザーに協力を仰ぎながら、少しずつ「カイゼン」を図りました。

社会の課題解決をまずは自社から行うことで、強みを増やす経営手法

ーー貴社の商品のこだわりや強みを教えてください。

柳瀬隆志:
「園芸」と「DIY(リノベーション)」部門です。

園芸部門では、NHK『趣味の園芸』のコンテストで何度も優秀賞や最優秀賞を受賞している國分豊という専門スタッフが活躍しています。國分は、独自の園芸メソッドを確立しており、通常は花が咲き誇る時期にきれいに見えるように工夫するのですが、國分のワークショップでは、咲いていなくても植えた瞬間から花束のように美しい植物のアレンジを提案しています。

また、2019年からは視界に入る緑の量を示した緑視率の向上が生産性にも関わるという情報を受け、会社や職場に観葉植物の設置を提案するオフィスグリーン事業にも注力しています。本社にて國分を含めた植物スタッフのノウハウを取り入れ、屋内でも楽しめる緑の育成に試行錯誤した結果、生き生きと育ちメンテナンスを行うことで長く楽しめる緑を提供できるようになったのです。

DIY部門では、空き家等のリノベーションを推進しています。事業を通じて社会の課題解決に貢献し、お客様に提案することが私たちのビジネスです。本来、ホームセンターの業務は、家の周りのソリューション提案ですが、それは意外と浸透していません。

たとえば店舗でイベントを行ったとしても、DIYやリノベーションの商品の良さや活用方法についてはリアルな部屋を見ないとなかなか伝わらないのです。そこで、弊社では実際に中古住宅や団地をリノベーションし、お客様に商品の価値を体感してもらう「グッデイハウス/グッデイ団地」を展開し、入居者や地域の方へのプレゼンテーションとして活用しています。

未来への飛躍!ホームセンターが目指す革新と挑戦

ーー今後の展望として、どのような考えをお持ちでしょうか。

柳瀬隆志:
より一層、DXを進めていきたいですね。たとえば、お客様からの質問にAIが答えることで、利便性をより高めたいと考えています。また、空き家や団地のリノベーションにおいても、最新のスマートハウス技術を導入することで話題性を持たせたいと思っています。スマートフォンでの鍵の解除や自動の温度調整など、生活を便利にする提案を数多く行っていく計画です。

さらに、ホームセンターとしてはお客様の暮らしを豊かにするソリューションを提案していきます。今日ではお金をかけずに豊かな生活を送りたいというニーズが高まっていますが、その実現に向けて、リノベーションや改装による提案を強化し、デジタルプラットフォームを通じて発信していく計画を立てています。

ホームセンターが提供できる価値は、単なる消耗品の販売を超えています。私たちは地域社会に根ざした課題解決のパートナーとして、より良い未来をともに築いていきたいと考えています。

これからも、お客様と一緒に成長し、変化する社会に適応しつつ、持続可能なビジネスモデルを構築していく覚悟です。

編集後記

時代に即した新しい改革を次から次へと打ち出し、株式会社グッデイを現在の規模まで成長させてきた柳瀬社長。空き家問題など、すぐに解決することが難しい社会課題であっても、前提を切り崩しながら常に邁進する姿は、今後もグッデイが顧客に愛され続けることを示しているように思われる。同時に、何よりも社員をとても大切に尊重している様子が、語り口からひしひしと伝わってきた。

新しい事業開発であっても、ホームセンターという軸とお客様や働く人を大切にしているからこそ、株式会社グッデイはお客様に価値ある提案をし続けることができるのだろう。

柳瀬隆志/東京大学経済学部卒業後、2000年に三井物産株式会社に入社。2008年、嘉穂無線ホールディングス株式会社に入社。営業本部長・副社長を経て、2016年に嘉穂無線ホールディングス株式会社、および株式会社グッデイの代表取締役社長に就任。2017年からは、グループ会社の株式会社カホエンタープライズにて、クラウド活用やデータ分析を行う事業にも取り組んでいる。