株式会社レバレッジが手がけるフィットネスブランド「VALX(バルクス)」では、パーソナルトレーナーである山本義徳氏監修のプロテインをはじめとする栄養補助食品やサプリメントの開発、トレーニングに関するオリジナルグッズの販売などを行っている。
同社の代表取締役である只石昌幸氏に、起業の経緯や「VALX」誕生のきっかけ、今後の展望についてうかがった。
「起業はするな」と言われて育ち、大手企業に就職
ーー学生時代から起業に関心があったのでしょうか?
只石昌幸:
私の祖父が起業で失敗したことから、幼少期から「起業だけはするな」と言われて育ち、何の疑問も抱かずに会社員を目指していました。さらに、父親から「1つの会社で定年まで勤めるように」と言われていたため、さまざまな手を尽くして給料水準が日本一といわれるキーエンスに入社しました。
しかし、仕事に対する考え方が会社と合わず、入社して3年で退職し、転職活動を始めました。当時、キーエンスという看板が自分の実力だと勘違いしてしまい、「自分を正当に評価してもらえない会社では働きたくない」と考えてしまっていたために、転職先が見つからず、定職に就けないまま、苦しい2年間を過ごしました。
グルメブログで日本一となり、ブログコンサル事業を始める
ーー起業に至るまでの経緯を教えてください。
只石昌幸:
人のためになることがしたいと思い、まずは自分の存在を世の中に知ってもらおうとアメーバブログを始めたところ、グルメブログで知名度を上げることに成功しました。
そのような時に、街で株式会社サイバーエージェントの藤田晋社長を見かけ、このチャンスを逃したら一生後悔すると思った私は、「無名の人が面白い記事を書く時代になった今、お金を払って芸能人にブログを書いてもらうのではなく、一般人にも公式ブロガー認定を出した方が良いですよ。私を公式ブロガーにしてください」と伝えました。その夜、藤田社長から、「君が一般人公式ブロガー1号だよ」というメッセージが届いたのです。
さらに、私のブログを紹介した記事が『Yahoo! JAPAN』のトップニュースになったことで約15分間アメブロ総合ランキング1位になり、それをきっかけに経営者のアメーバブログ(アメブロ)での情報発信を支援するコンサル事業を立ち上げました。
この事業で収益化に成功し、税理士から「個人でやると税金がかかるから法人登録した方が良い」とのアドバイスをもらい、さまざまな人にとってのテコになるような会社にしたいと考え、レバレッジという名前で登記しました。
ーー起業してから苦労したことに関するエピソードをお聞かせください。
只石昌幸:
1人では業務が回らなくなり10名ほどの社員を雇いましたが、収益の大半を自分が稼いでいるという勘違いで社員を大切にできずに、「自分たちのことを大事にしてくれない」という理由で全員から辞表を叩きつけられました。その時に、自己中心的で周りに感謝の気持ちを持っていなかったことに気づき、社員に謝罪しました。また、それまで私が中心になって行っていた業務を社員と分業した結果、売上を伸ばすことができました。
味と溶けやすさにこだわった高品質のプロテインを開発
ーーなぜフィットネス事業に参入したのでしょうか?
只石昌幸:
経営者の先輩に「日本人なら武道をやるべきだ」と言われて通い始めた道場では毎回痛みに耐えられず、体を強くしようと思ってなんとなく始めた筋トレもほとんど続きませんでした。ただし、パーソナルトレーナーについてもらったところ、みるみるうちに体が変わって筋トレが楽しくなりました。
また、パーソナルトレーナーという存在は、もっと人々の生活の一部になるのではないかと思ったのです。フィットネス業界について調べると、マンションの1室でトレーナーをしているケースが多いことを知り、その人たちをまとめれば面白いサービスになるのではないかと考えました。
そこで、パーソナルジムとダイエットをしたいユーザーをつなぐ「ダイエットコンシェルジュ」というサービスを始めました。おかげさまで、そのサービスも日本一になりました。
ーー「VALX」はどのように誕生したのですか?
只石昌幸:
「ダイエットコンシェルジュ」のトレーナーから「オリジナル商品をつくってほしい」との要望があり、どのような商品が良いかについてトレーナーたちに対してアンケートをとったところ、「有名な人が監修したプロテインが良いのではないか」との回答がありました。
さらに、監修者のアンケートでは約90%のトレーナーがボディビルダーでアスレティックトレーナーの山本義徳氏を挙げたため、彼に会いに行って監修をお願いしたところ、「VALX」というブランド名で一緒にプロテインをつくることが決まりました。
「VALX」では広告費をかけずにSNSで宣伝を行うことで、プロテインやサプリメントの原価を上げて質の高い商品をつくり、本当に良いものでなければ世の中に出さないと決めています。
シニア層や筋トレをしない人にもプロテインを届けたい
ーー今後、顧客として取り込みたいのは、どういった層でしょうか?
只石昌幸:
噛む力が弱くなり、食事からタンパク質を摂りづらくなる、高齢者にこそプロテインを飲んでほしいと考えています。また、肌や髪、爪などもタンパク質でできているので、美容や健康のため、多くの人にタンパク質の摂取量を意識してほしいですね。プロテインは筋トレをしている人だけが飲むものだと思われがちですが、それだけではないということを私たちが責任を持って世の中に伝えていきたいと考えています。
ーー今後も通信販売を中心に伸ばしていく予定ですか?
只石昌幸:
これまで私たちベンチャー企業はインターネットで商品を届けるしかないと思い込んでいましたが、総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」の目立つ場所に「VALX」を置いていただいており、リアルでの販売の可能性を感じています。今後は、ドラッグストアやスーパー、スポーツ用品店、さらには家電量販店ともタッグを組んで、お店の集客に貢献できるようなブランドにしていきたいですね。
ーー海外展開も視野に入れていますか?
只石昌幸:
「VALX」を立ち上げた時から、海外で戦えるブランドにしたいという思いがありました。日本の国際競争力が低下している中で、社会が良くなるために一番大切なのはテクノロジーやAIではなく、人間の肉体そのものだと感じています。私たちは、人間の進化を促したりエネルギーを高めるような商品を世界に発信していきたいと考えています。
編集後記
只石代表は「失敗から学び、成長している」と、自身のキャリアを振り返る。彼はうまくいかないときこそ自分自身と向き合い、自らを改善することで、ビジネスを成功させてきたのだと感じた。
健康産業が拡大する現代のニーズを捉えたサービスを展開するレバレッジは、今後も躍進を続けるだろう。
只石昌幸/1975年、群馬県生まれ。法政大学を卒業後、株式会社キーエンスに入社し、マーケティング戦略を学ぶ。退職後、2006年に株式会社レバレッジを設立し、代表取締役CEOに就任。