建設業界は、高齢化や労働人口の減少に伴う人材不足が課題になっている。時間外労働の上限規制などをきっかけとした2024年問題にも注目が集まり、建設業界では働き方改革が進められている。
そんな建設業界で、社員教育に力を入れ、週休2日制の導入や福利厚生の充実によって、建設業界での新しい働き方を提案する松江土建株式会社。今回は代表取締役社長の平塚智朗氏に、社員教育に力を入れた経緯、今後の展望などについてうかがった。
地元の島根で就職し、大切な学びを得るまでの経験
ーー貴社に入社した経緯を教えてください。
平塚智朗:
東京の大学を卒業したこともあり、都会での就職に憧れがありました。しかし、縁があって紹介された、私の地元である島根県の会社が弊社でした。
実は、別の業界への就職を考えていたこともあり、建設業界がどのような業界なのか、営業とはどのような仕事なのかなどについても、まったく分からない状態で入社しました。
ーー実際に入社して、いかがでしたか。
平塚智朗:
営業の仕事をしていたのですが、3年目までは、ひたすら島根県内の関係各所へ名刺を持って挨拶回りをしていました。何度か訪問するうちに顔を覚えていただき、雑談ができるようになりました。その中で、お客様からいろいろな情報をもらえるほどの信頼関係を築くことができました。
さらに、高校時代の友人の父親が、就職祝いとしてビルの建設を発注してくれました。その際に、仕事をいただくことの喜びを知ることができましたね。
ーー営業をする際、どのようなことを意識していますか。
平塚智朗:
常に感謝の気持ちを抱くようにしています。こちらが心を開き、お客様の言葉に耳を傾けると、相手も心を開き、アドバイスをくれます。相手に対して無関心な人には、何も言いません。アドバイスをいただけることは、とてもありがたいことなので、感謝の気持ちを忘れてはいけないと常々、考えています。
社長就任後の業務改革、コロナ危機下のリモート勤務とAIの導入
ーー社長に就任してから3年経ちましたが、一番大変だったことは何ですか。
平塚智朗:
社長に就任して10日目に、社内でコロナ陽性者が出ました。最初の社長としての仕事は関係各所へ工事延期のお詫びに行くという対応ばかりでした。その上、地震などの自然災害時のマニュアルは既にありましたが、コロナ発生時のマニュアルは、もちろんなかったため、役員を急いで集めて対応方針、対応策を決定しました。
ーーコロナ禍後の業務において、どのような変化がありましたか。
平塚智朗:
最も大きな変化は、リモート勤務が可能になったことです。タブレットやスマホを使用した非接触の方向で業務体制を整え、全社員が自宅でも仕事ができるようになりました。
また、これまで現場主義だった業務の一部にOA機器・AI機器を導入することで、事務所で対応可能な業務が増え、無駄な作業をなくすことに成功しました。必要だとは思っていたものの、なかなか整備できていなかったことも、コロナをきっかけに整備することができました。
全く同じ建造物は二度と造れない……一品生産に対する思いと地域への貢献
ーー建設業界の魅力について聞かせてください。
平塚智朗:
私たちの手がける建築物は一見、同じように見えても、実際には地質や建設する年などが異なれば、まったく同じ条件のものは一つもなく、すべて一品生産です。だからこそ、完成したときの達成感は非常に大きいですね。
私はずっと営業をしていたので、自分が結んだ契約の内容通りの建築物が社内全体の努力で完成するのを見ることには、大きな達成感とともに喜びも感じることができました。
また、私が社長に就任した日が松江市庁舎の建設に関する入札の落札日と重なったことも、感慨深いですね。現在、松江市庁舎は建築中ですが、特別な思いがあります。
ーー貴社の強みは何ですか。
平塚智朗:
弊社は1944年の設立以来、島根県の地域の方々に育てられたと思っています。そのため、地域への恩返しになることを大切にしながら仕事をさせていただいており、地域の方からは「土建さん」と信頼されています。
また、弊社では建設業界のイメージを払拭するために週休2日制を導入して福利厚生も充実させ、社員教育にも力を入れています。
さらに、弊社は世襲制ではなく、誰でも社長になれる可能性がある会社という点も大きな特徴ですね。
ーー社員教育では、どのようなことを行っていますか。
平塚智朗:
階層毎に行う教育に加え、クラウド上に「松江土建アカデミー」を開設し、社員がいつでも勉強できる環境を整えています。このアカデミーには仕事の失敗例や成功例も掲載されており、社員が自主的に学べるようになっています。
また、国家資格を含む各種資格の取得の補助も行っており、以前に比べて早い段階で資格が取得できるようになりました。
私が社長に就任した後、昇給・昇格の制度および65歳定年制度を見直し、意欲的な人材のスキルを伸ばせる仕組みに変えようと取り組んでいます。
地元・島根県の発展のためにできること
ーースポーツ施設も運営しているとうかがいました。
平塚智朗:
松江市唯一のレジャー施設であるボウリング場を運営しています。単に仕事を受注するだけでなく、積極的に地域の情報を発信していくことで、市民の皆さんに喜んでいただける施設を目指しています。島根県の魅力を広く発信し、暮らしやすい街作りに貢献したいですね。
ーー今後の展望について聞かせてください。
平塚智朗:
弊社は設立以来、何十年もの間、多くの取引先の方と仕事をしてきました。現在では少し疎遠になった取引先がありますが、再び取引ができるように尽力していきたいですね。また、不動産事業の拡大や建設業界の人手不足の解決に、力を尽くしたいとも考えています。
常に何事にも感謝の気持ちを忘れず、将来的には周囲から感謝される会社にしていきたいですね。そのために社員教育に力を入れ、私も社員も人としてのレベルを上げていきたいと思っています。
編集後記
建築業界のイメージを覆し、週休2日制を導入して福利厚生を充実させ、社員教育に力を入れることで、意欲的な人が増える仕組みを作っていると感じた。業界のさらなる発展とともに、地域や周りへの感謝を常に忘れずに街作りを行っている松江土建株式会社に、今後も注目していきたい。
平塚智朗/1959年、島根県生まれ、明治大学卒。1982年に松江土建株式会社に入社し、2020年に代表取締役社長に就任。「感謝・敬意・称賛」を大切にした社員教育を行いながら、社内のみならず建設業界における活動や、水環境事業やスポーツ施設の運営を行っている。