日本のカスタムカー文化は、世界中で注目を集める「クールジャパン」のひとつとして、その独自性と技術力で多くの人々を魅了している。今回は、株式会社ワークの成り立ちから現在の取り組み、そして未来の展望について、代表取締役社長の田中知加氏にうかがった。
家業を継がず、「伝える」ことが好きで飛び込んだ営業職
ーー以前からお父様が創業した会社を継ぐことは考えていましたか?
田中知加:
自分の家が会社を経営しているという認識は、幼稚園の頃からありました。夏休みなどの長い休暇には、伝票整理やその箱詰めの手伝いをしていたので、当たり前のように家業が私の人生の中に存在していました。ただ自分自身、車に興味があるわけではなく、父も「会社を継がせる」と私に言ったことはありませんでした。そのため、大学卒業後、他社に就職をしました。
ーー貴社に入社するまでのキャリアについてお聞かせください。
田中知加:
高校時代に1年間、海外留学を経験し、英語が得意になったということもあり、京都にある外国語大学に進学し、教職課程も修めました。大学卒業後、英語に関する経験を活かしたいと思い、旅行会社や商社での勤務を経験しました。自分の知っていることを誰かに伝えるというプロセスが大好きだったので、営業職を選びました。
教職も営業職も「伝える」という軸は同じだと考えています。営業職であれば商品の良さをお客さまに伝え、教職であれば教師としての知識を生徒にアウトプットするので、営業職に関する抵抗はまったくなかったですね。
先代の「譲りたい」という言葉をきっかけに、社長としてのストーリーが始まった
ーーどういった経緯で家業を継ぐことになったのですか?
田中知加:
ある日、創業社長である父から、「海外からの問い合わせが多くなり、困っている。英語が得意な君に手伝ってほしい」と頼まれたのです。最初は軽い気持ちでサポートに入りました。
この段階でも、家業を継ぐつもりはなかったのですが、その後、父が末期がんだと判明。食卓で父から「今、会社を譲りたい。君しかいない」と言われとき、「私がこの会社を継いだら倒産させてしまうかもしれない」と思いました。正直な気持ちを父に伝えると、「潰してもかまわない」と言われたのです。
がんの影響でやせ細った父は、家業について2つの選択肢しか考えていませんでした。父が生きている間に会社を清算するか、もしくは私に継がせることだったのです。
ーー会社を継ぐ際、印象に残っていることはありますか?
田中知加:
父のお別れ会で、業者の方やお得意さま、競合会社の方々まで大勢来てくださいました。最後に私が父へ挨拶をする時に、全員が私の後ろにお並びいただいていたのです。そのシーンが大変印象的でした。その後、皆さまにお礼を述べた後、「一同、礼」という言葉が自然と出ていました。私がしたいことを察知してくれるたくさんの方々がいると感じ、本当に心強かったですね。
ーーその時のエピソードが、現在の経営理念である「チームワーク」にもつながっているのでしょうか?
田中知加:
私が社長に就任してから経営理念を刷新しました。現在、ホームページに掲載されている経営理念は、チームワークへの思いをベースにして掲げています。もちろんお客さまが優先で、感動を提供するということも重要ですが、経営理念には私たちの信念や目指すべき姿をしっかりと書き込みました。みんなで一つの目標に向かって進んでいくことを明文化したので、これを社内に浸透させるために、チームワークを意識しながら日々奮闘しています。
「テーラーメイド」で感動を届ける商品づくり
ーー会社の強みについて、お聞かせください。
田中知加:
強みの一つは、社員に経営理念に基づいたクレドカード(行動指針を示したカード)を持たせ、社員が主人公となる商品づくりをしている点です。たとえば、ホイールの色からサイズ、デザインまでカスタマイズできる製品を提供しています。
また、この業界には珍しく、商社にお任せするのではなく、小売店に対して営業するという「直販スタイル」も採用しています。
製造、開発、営業のすべてを社内で行う製販一体の体制を取っており、営業は物を売るだけでなく、ユーザーからのフィードバックを製品開発に反映させる役割も担っているのです。これにより、ユーザーのニーズを迅速に反映できるといった、他のホイールメーカーとは異なる強みを持っています。
ーー今後、注力したいテーマを教えてください。
田中知加:
日本国内においては「車のカスタムを気軽に楽しんでほしい」ということを常々考えていますが、海外展開にも力を入れたいと思っています。日本の車のカスタム文化は「クールジャパン」の一つとして評価されているので、その魅力をより広めていきたいですね。
たとえば、私たちのホイールには、2ピースや3ピースといった複数の部品で構成されるデザインのものがあります。1ピースは一体成形でつくられるホイールで、2ピースは表の部分とタイヤを支えるドーナツ型のリング部分で構成され、3ピースはさらにそのリング部分が前後に分かれています。
ワークの2ピースや3ピースのリム(車輪の外縁部にある環状部分)には非常に特徴があり、世界に誇れる性能です。特許も取得しており、リムの製造において他のメーカーにはない強みがあると思います。
編集後記
今回のインタビューを通じて感じたのは、田中社長の人間味あふれるリーダーシップと、社員との強い絆だ。同氏の業界や会社への愛情は、今後も日本のカスタムカー文化の発展を推し進めていくことだろう。
田中知加/1971年、大阪府東大阪市生まれ。京都外国語大学卒業。2000年、株式会社ワークに海外営業担当として入社。2015年、代表取締役社長に就任。一般社団法人日本自動車用品・部品アフターマーケット振興会副会長、JAWA事業部長。