※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

金属を印刷する独自技術で電子回路の製造に革命を起こしているエレファンテック株式会社。同社を率いる清水信哉氏は、東京大学大学院を修了後、コンサルティング業界での経験を経て起業した。環境負荷を大幅に低減しながら、製造プロセスを簡略化する画期的な技術で、グローバル市場に挑戦し続けている。人類の進歩に貢献するという理念のもと、電子機器産業に新たな可能性をもたらす同社の挑戦を取材した。

研究者志望からコンサルティングを経て起業へ

ーー起業までの道のりについてお聞かせください。

清水信哉:
もともとは研究者を志していましたが、大学での技術を事業化することにも興味があり、ビジネスを学ぶために2012年にマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社しました。そこで、主に国内の大手メーカーを対象に、戦略立案やコスト削減などのプロジェクトに携わりました。

マッキンゼーのような大企業では、新しい技術をゼロから事業化することは難しいと感じ、革新的な技術を活かすには、スタートアップの方が適していると考え、2014年に弊社を設立しました。

ーー貴社の主力事業と製品について教えてください。

清水信哉:
私たちは金属を印刷する技術を開発し、その技術を用いたプリント基板、特にフレキシブルプリント基板を「SustainaCircuits™」というブランド名で販売しています。私たちの技術は、「ピュアアディティブ®法」といって、金属をナノ化してインク状態にし、基板に金属を印刷した後に、無電解銅めっきにて金属を成長させて回路を形成する独自の製法で製造しています。環境に優しい金属インクジェット印刷による、電子回路基板の量産化に世界で初めて成功したという実績があります。従来の製法では、基板の土台に薄い銅箔をつけ回路になる部分を残して削る「引き算」方式ですが、私たちの技術は、必要な部分にのみ銅インクで印刷する「たし算」方式のため、銅の使用量を70%、CO2の排出量を75%、水の消費量を95%削減することが可能です。

ーーこの技術はどのような産業で活用されているのでしょうか。

清水信哉:
主にコンシューマー機器の分野で活用されています。モニターやカメラなどの電子機器メーカーが主な顧客です。将来的にはスマートフォンやノートパソコンなど、身近な製品への導入も視野に入れています。これらの製品は大量生産されるため、私たちの技術による環境負荷の低減と、コスト削減の効果が大きく表れると期待しています。

さらに、IoT機器やウェアラブルデバイスなど、今後成長が見込まれる分野での活用も検討しています。私たちの技術は、電子機器の小型化・軽量化・フレキシブル化というトレンドにも合致しているため、幅広い産業で採用の可能性があると考えています。

グローバル展開とメインストリーム市場への挑戦

ーー今後の注力テーマについてお聞かせください。

清水信哉:
私たちは大規模な一般消費者向け市場を獲得することを目指しています。国内市場だけでなく、海外の大手企業との提携を重視しているのはそのためです。実際に、海外からの問い合わせも多くいただいており、私たちの技術に対する国際的な関心の高さを示していると考えています。

ボリュームゾーン、すなわち大量生産・大量消費が行われる市場セグメントを押さえることができれば、私たちの技術はより広く普及するでしょう。環境負荷の低減やコスト削減といった効果が、最大限に発揮されるという利点もあるため、グローバル展開に特に注力しています。世界中の大手メーカーと協力することで、私たちの技術を幅広く展開し、電子機器産業全体に革新をもたらすことを目指しています。

透明性と独自カルチャーを重視した組織づくり

ーーどのような組織づくりを行っているのでしょうか。

清水信哉:
私たちは企業文化、つまりカルチャーを非常に大切にしており、「Elephantech Way」という形で、エレファンテックがどのような会社でありたいかを明確にしています。このカルチャーづくりには相当な工数をかけており、会社の重要な取り組みの一つです。

特に「トランスペアレンシー(透明性)」を非常に重視しており、その実践にはかなり注力しています。たとえば、経営陣による経営会議の議事録は、会議終了後すぐに全社員に共有され、取締役会の資料も、基本的にすべての社員に共有しています。このレベルの透明性は珍しいかもしれませんが、私たちはこれを重要な価値観として捉えています。

ーー透明性の高い組織の効果について、お聞かせください。

清水信哉:
このような取り組みの結果、透明性の高い経営が、社員の信頼感や帰属意識を高めることにつながり、社内の離職率は非常に低く、働きやすい環境が実現できていると感じています。単に透明性を掲げるだけでなく、それを含めた包括的なカルチャーの構築に力を入れることで良いカルチャーをつくり、それを維持していくことは、組織として非常に重要だと考えています。

電子機器産業の未来を変える革新的技術の展望

ーー最後に今後の展望についてお聞かせください。

清水信哉:
私たちの目標は単なる事業拡大ではありません。環境負荷を大幅に低減しながら、より高性能で柔軟な電子機器の実現を可能にする。それによって、IoTやウェアラブルデバイスなどの次世代のテクノロジーの発展を加速させる。そのような大きな夢を持って、日々技術の革新に取り組んでいます。

グローバル市場でのさらなる展開を通じて、私たちはこの技術を世界中に広め、電子機器産業全体に革新をもたらしたいと考えています。そして、その先にある、より便利で環境にやさしい未来社会の実現に向けて、今後も挑戦を続けていきます。

編集後記

清水社長の「人類を一歩進める」という理念が、非常に印象的であった。エレファンテックが取り組む金属印刷技術は、電子機器産業に革命を起こす可能性を秘めており、環境負荷の低減とコスト削減を同時に実現する画期的なものである。グローバル展開への積極的な姿勢と、透明性の高い経営、独自のカルチャーづくりへの注力からは、単なる技術の革新だけでなく、組織としての進化を目指す意欲が感じられる。今後もエレファンテックがどのように業界の常識を覆し、新たな未来を切り拓いていくのか、その挑戦に大いに期待したい。

清水信哉/2012年、東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻修士課程修了。2012年よりMcKinsey & Companyにて製造業を中心としたコンサルティングに従事。2014年、エレファンテック株式会社(当時社名AgIC株式会社)を創業し、代表取締役社長に就任。