セレンディップ・ホールディングス株式会社は、経営コンサルティングを通じて中堅・中小企業が抱える問題を洗い出し、経営改革を支援することで国内製造業を活性化する企業だ。事業承継の支援も行い、それぞれの企業にあった最適なアプローチを提案する同社。経営とファイナンス(資金管理)を融合させた斬新なアプローチで、中堅・中小企業をわずか3〜6ヶ月で上場企業レベルの経営体制に引き上げるなど、その手腕は業界の注目を集めている。
年齢や性別にとらわれない経営者の育成・登用や、グローバル展開も積極的に推進している。日本のものづくりの未来を見据え、挑戦を続ける同社の代表取締役社長兼CEO、竹内在氏にその戦略と展望についてお話をうかがった。
経営への強い関心から始まった企業支援への道
ーーアメリカの大学で経営学部を選んだ理由を教えてください。
竹内在:
私の先祖が製造業や鉱山業など複数の企業グループ経営者だったということもあり、もともと経営に対して強い関心がありました。ただ、将来は自分で会社を経営したいという漠然とした思いはありましたが、起業について深く考えていたわけではありません。私が高校生だった1980年代の後半は、日本企業が海外に進出し、世界的にシェアを拡大していた時代です。その流れの中でアメリカの大学で経営学を学び、さらに日本企業の成長を加速させたいという思いがあり、経営学部を選びました。
そのような中、金融の重要性に気づいたのは、私の先祖の歴史を振り返ったときです。かつては企業グループ経営者だったのですが、1930年ごろに起きた昭和恐慌によって衰退してしまいました。その要因の一つが、財務基盤が脆弱であったことだと知ったのです。この経験から、企業経営において直接・間接金融を含めたファイナンスが非常に重要だと強く認識するようになりました。
ーーその認識をどのように事業に活かそうと考えましたか?
竹内在:
一族の歴史や日本企業の現状を見て、企業の衰退を食いとめるにはどうすればいいのか考えていたところ、「企業の事業承継を支援したい」というアイデアが浮かんだのです。しかし、日本の経営の承継は非常に難しい課題です。特に中小企業では、長男への承継や親族内承継にこだわる傾向が依然として残っています。しかし、経営者としての能力と血縁関係が必ずしも一致するわけではありません。
海外では経営と所有の分離が進んでおり、創業家が株式を保有しつつ、経営は外部のプロに任せるといったケースも多いのです。私は日本でも、会社を所有することと経営することは必ずしも同一である必要はないと考えています。どうすれば会社が発展するのかという視点で、もっと選択肢を広げるべきです。こうした思いから、従来の枠にとらわれない事業承継のモデルを構築し、選択肢を多くしたいと考えました。
3つの基盤で挑む、100年企業の創造
ーー貴社の事業内容について詳しくお聞かせください。
竹内在:
私たちは主に創業50〜60年ほどの企業をターゲットに、業績が伸び悩んでいる企業を次の成長ステージに乗せ、100年企業の創出を目指す事業を行っています。弊社の事業には3つの基盤があり、それらを組み合わせることで企業の成長を実現します。
1つ目の基盤は「事業承継型M&A実行」で、事業承継に関する全てのプロセスを社内で全て完結できる体制を整えています。2つ目は「経営管理」の基盤で、プロ経営者の派遣やバックオフィス機能の提供。買収した中堅・中小企業を3〜6ヶ月程度で、上場企業の管理基準レベルまで引き上げます。そして、3つ目は「モノづくり」の基盤で、生産性と品質の向上に注力しています。DXの推進や自動化、デジタル化のノウハウを活用することによって、製造現場の改善を進めるのです。
ーーM&Aにおいては、どのように企業の統合を進めていますか。
竹内在:
私たちは、現場の方々の不安や心理的な抵抗感を理解した上で、丁寧に対話を重ねながら統合を進めていきます。M&A後の統合作業は、非常に難しい局面です。長年続いてきた習慣や制度を変えることへ強い抵抗感を抱いたり、従業員の方々が大きな不安を抱いたりすることも少なくありません。
そのため、人と人とのコミュニケーションが重要な鍵となります。新しいやり方の必要性を説明し、一緒に成長していく姿勢を示す。時間はかかりますが、会社が成長し、個人も成長を実感できるようになれば、最終的には「良かった」と思ってもらえるはずです。この過程は非常に難しいのですが、それだからこそやりがいがあり、重要な仕事だと考えています。
未来を見据えた経営者育成と企業のロールモデルを目指して
ーー貴社における人材育成の方針についてお聞かせください。
竹内在:
私たちが特に注力しているのは、年齢にとらわれない経営者の育成です。弊社グループ全体で毎年20名ほどの新卒を採用していますが、そうした人材を経営者として育てていきたいと思っています。また、弊社は日本の伝統的な企業文化とは異なり、年齢や性別、国籍を問わず実力主義、結果主義の考え方を導入しています。たとえば、グループ企業の一つでは当時48歳の社長と36歳の専務を据え、日本の役員平均年齢を下回る経営陣を実現しました。
20代や30代でも上場企業の経営に携わることは十分可能だと考えています。経営のコンサルや事業承継の支援を通じて、早くから経営者としての経験を積むことで、40代前半でベテラン経営者として活躍することも可能になる。これは非常に価値のあることで、経営や事業承継に悩みを抱える日本の中堅・中小企業だからこそ、年齢や性別にとらわれない変革を起こせると考えています。
ーー今後の展望と、社長の夢について教えてください。
竹内在:
2027年3月期に、グループ連結売上高500億円を目指しています。現在の連結売上高が約200億円なので、2.5倍ほどの成長となります。この目標を達成するため、既存事業の成長とM&Aによる成長の両輪で進めていきたいですね。また、海外展開も視野に入れており、インド、タイ、アメリカなどにおける製造拠点の設立やM&Aを検討しています。日本企業だけでなく、海外企業への提案や製品開発も進めていく予定です。
私の夢は、弊社をものづくり企業のロールモデルにすることです。中堅・中小企業でもこのような成長が実現可能だということを示し、日本のものづくりの再興に貢献したいと考えています。私たちの成功事例が、他の企業や個人にも刺激を与え、より多くの人が挑戦する勇気を持つきっかけになれば嬉しいですね。
編集後記
竹内社長の語る言葉の端々に、日本のものづくりへの深い愛情がにじみ出ていた。伝統を尊重しつつも、新しい価値観をとり入れる柔軟性。そして、人材の可能性を信じ、大胆に登用する勇気。これらは、まさに今、日本企業が必要としているものではないだろうか。セレンディップ・ホールディングスの挑戦は、企業の成長だけにとどまらず、日本の製造業全体を変革する壮大なプロジェクトなのだと確信する取材となった。
竹内在/米国Bradford大学マネジメント学部卒業。ニフティ株式会社の経営企画担当として、経営計画策定や市場・競合分析、CI(コーポレートアイデンティティ)/ブランディングなどの業務に従事。現在の三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社にて、経営・マーケティング戦略のコンサルタントとして活躍。その後、日本オラクル株式会社のマーケティング本部長に就任。2014年、セレンディップ・ホールディングス株式会社、代表取締役社長兼CEOに就任。