コロナ禍を経て、情報通信技術(ICT)業界では、ITインフラの強化やセキュリティ対策、急速な技術革新、デジタル情報の保護、人材不足の深刻化、さらには環境への配慮など、さまざまな課題が山積している。
これらの課題を克服しつつ、持続可能な成長を遂げるために、株式会社システック井上は、自社の多岐にわたる技術と計測・制御・情報という3つのノウハウを駆使して、独創的なアプローチで顧客のニーズに応えている。今回は、代表取締役社長の井上達氏に、経歴や経営者としての課題、人材育成と職場環境への取り組み、事業の強みや今後の展望について詳しくうかがった。
父の急逝とバブル崩壊を乗り越え、根本から会社を改革する経営者へ
ーーシステック井上に入社するまでのご経歴について教えてください。
井上達:
私は長崎総合科学大学を卒業後、横河電機株式会社に入社し、キャリアの礎を築きました。横河電機では、システムや流量計の仕様書や見積もりの作成を担当するセールスエンジニアを任されました。顧客とのコミュニケーションを通じてニーズを把握し、技術と営業の連携を保ちながら技術的な課題を解決するスキルが身についたと思います。
この経験は、ビジネスの視点を養うとともに、技術的なスキルを磨く貴重なものであったと考えています。5年の勤務を経て、これらの知識やスキルを活かしたいと考え、父が経営する弊社への入社を決意しました。
ーー入社後、特に記憶に残るエピソードについて聞かせてください。
井上達:
入社3年目に、父が突然倒れたことが私にとって大きな試練でした。父の急逝と同時期に起こったバブル崩壊は会社の経営に深刻な影響をもたらしました。私は代表取締専務として経営の責任を担い、財務面での深刻な課題に直面したのです。
特に所有していた株式の評価損が大きく、財務状況は非常に厳しかったため、不良資産の処理と財務体質の健全化に全力を注ぎました。一部の経営陣からは株価の上昇を期待する声もありましたが、私は損失を特別損益として計上し、税負担を軽減しつつ資金繰りを改善することに努めました。この調整に苦心したことが強く印象に残っています。
健全な財務基盤を築くことが最優先であると考え、社長就任後7年で無借金の状態を達成し、経常利益アップも実現することができました。この経験は、私にとって経営者としての大きな成長の一歩であり、会社の持続可能な成長に寄与する基盤を築く重要な出来事であったと考えています。
学歴にとらわれない、働きやすい職場環境の追求
ーー人材の採用や評価にあたって、特に大切に考えていることを教えてください。
井上達:
弊社では優秀な人材を確保するため、工業高校の生徒を積極的に採用しています。あえて大卒と高卒の給与差を設けず、能力に応じた公平な昇進制度を整備しており、高卒者でも大卒者と同等のキャリアパスの実現が可能です。実際に取締役にも高卒出身者が含まれており、学歴に左右されない評価基準を徹底しています。
さらに、各拠点で地域に根ざした採用を行い、たとえば長崎や熊本で採用した人材であればその地域で活躍できるように支援しています。多様な人材が長期的に活躍できる場を提供し、地域社会への貢献を果たしています。また、社員の主体的な成長を促すべく、研修や教育プログラムも充実させています。最近では新卒採用だけでなく、中途採用も積極的に行い、より柔軟で多様な人材採用を推進しています。
ーー職場環境の改善に取り組んでいるとうかがいましたが、具体的にはどのような対策を講じていますか?
井上達:
社員が働きやすい職場づくりは、企業の成長に欠かせない要素です。そのため、弊社では社員の提案を積極的に取り入れ、オフィス環境の改善に努めています。具体的には、オフィス内に緑や木目調のデスクを配置し、カフェスペースを設けるなど、出社したくなるような快適な職場環境を目指しています。
さらに、社員一人ひとりがライフステージに合わせて柔軟に働けるように、フレックスタイム制度を導入しました。特に女性社員からの要望が多かった、子育てや介護と仕事の両立への負担を軽減する働き方を実現したことで、2024年に厚生労働省から、仕事と子育ての両立支援に積極的に取り組む企業に与えられる「くるみん」の認定をいただきました。
また、営業、エンジニア、プログラム開発、サービスなどあらゆる職種で女性の総合職社員が活躍していることを評価していただき、2024年ながさき女性活躍推進企業等表彰における「大賞」を受賞しました。
未来を切り拓くシステック井上の革新と成長戦略
ーー貴社の具体的な事業内容と強みについて教えてください。
井上達:
弊社は計測制御技術と情報技術を基盤に、幅広い分野で事業を展開しています。具体的には、デジタル技術を活用したDX協創サービスや、製造業向けのスマート工場ソリューション、工場やプラントの安全や効率化を確保する監視ソリューション、さらに現場の状況を「見える化」してネットワーク構築を支援するネットワークソリューション、医療分野でのシステム運用をサポートする医療ITなど、多岐にわたるサービスを提供しています。
このようにさまざまな分野に精通している弊社では、計測、制御、情報の3つの技術を組み合わせ、さまざまな分野で問題解決策の提供が可能です。特定の技術やノウハウに依存せず、顧客のニーズを最善の方法で解決し、より包括的なサービスを提供することが弊社独自のビジネスモデルであり、最大の強みです。
ーー今後の事業展開や技術開発において、特に注力している分野や新しい取り組みについて聞かせてください。
井上達:
今後は、コンサルティング業務の拡大と模擬患者システムのAI化に力を入れていく予定です。現在、長崎大学と共同で進めているこのプロジェクトは、地方でも医学生が模擬患者とのロールプレイ訓練を十分に受けられる環境を提供することを目指しています。この技術が完成すれば、全国展開を視野に入れ、医療教育の発展に貢献したいと考えています。
また、コンサルティング業務では製造業を中心にDXを推進し、顧客企業の成長をサポートすることを目指しています。地域社会に貢献し続けることが私たちの使命であり、これからも持続可能な成長を実現するための取り組みを続けていく所存です。
編集後記
システック井上の事業内容や「社会にとって必要な企業であれ」という経営理念、そして人材育成に対する配慮は、着実に地域や各企業の足元を支えている。特に、最終学歴にとらわれない個人を評価する人材の育成方針や、社員が働きやすい環境を整える努力が、企業の成長と地域社会への貢献に確実につながっていると感じた。
これからも持続可能な社会を目指し、地域とともに問題を解決して進化し続けるシステック井上の飛躍が期待される。
井上達/1960年生まれ。長崎総合科学大学管理工学科卒業。横河電機株式会社を経て1987年より株式会社システック井上に入社。1997年、代表取締役社長に就任。